第5話 友達としての敬意


(誰なんだろう?)


 俺はこちらへ近寄ってきた女性たちを見る。


「気を付けた方がいいですよ」

「え?」

「秋山、男をものとしか見ていませんから」


 その言葉を聞いた時、秋山の方を見る。


「そ、そんなことなぃ」

「なに、聞こえないんだけど?」


 女性たちが威嚇するように秋山へ言う。だけど、友達に対してこのような態度を取られて、気分がいいわけがない。


「聞いていないんですか?」

「何が?」

「秋山、中学時代に男をとっかえひっかえしていたり、友達を虐めていたことを」

「……」


 秋山からは聞いてはいないが、学校で流れている噂と一緒ではあった。


「あなたもすぐに捨てられるのですから、早く別れた方がいいですよ」

「まず、俺たち付き合っていませんけど」

「そうですか。じゃあ今日聞けて良かったですね」

「はぁ」


 秋山は体を震えさせながらうつむいていた。それを見た女性たちは蔑むような視線を送っていた。


「もしよかったら、私たちと遊びます?」


 その言葉を聞いた秋山は、涙目で俺の方を見てくる。


「あ、結構ですよ」

「え?」

「聞こえませんでしたか?」

「聞き間違えじゃなければ、断りましたか?」

「はい、断りましたが?」


 すると、女性たちは俺を睨みつける。


「話聞いていました?」

「聞いていましたよ」

「じゃあ話を断る理由がわからないのですが?」

「それはあなた方が決めることじゃないと思うのですけど」


 今の話を聞いて、秋山と距離を取るかどうかは俺が決めること。


「は~!? せっかく忠告してあげたのに。こいつダメだ、すでに惚れ込んでいるよ」


 一人の女性が捨て台詞を言うと、周りにいる友達も同調し始める。そのため、俺はため息をつきながら女性たちに言う。


「逆に聞きますけど、あなた方は知らない人と知っている人。どっちから言われたことを信用できますか?」

「知っている人に決まっているじゃん」

「それと同じですよ。俺は今まで秋山が行動してきたことを信じますし、あなた方が言ったことは今後確かめればいいと思います。ここで決める必要はない」


 俺の言葉に女性たちは血相を変えて、罵声を飛ばしつつ、この場を後にした。すぐさま秋山の方を向いていう。


「大丈夫?」

「大丈夫だけど、東雲は信じなかったの? 学校の噂とかもあったのに」

「噂は噂でしかないしね。それに信じるに値する人なら信じてたかもしれないけど、見ず知らずの人から言われたことを信じるほど、俺は純粋じゃないよ」


 すると、秋山は先ほどまで見せていたくらい表情から一変し、明るい表情に変わっていく。


「ありがと」

「お礼を言われることじゃないよ」

「それでも、私は救われたよ」

「あはは」


 こんなもんで救えるなら何度だって救うさ。だって、友達なんだから。


 秋山は深呼吸を置いて、俺に言う。


「なぜ、学校で噂が流れているのか聞いてくれる?」

「うん」


 俺の言葉と同時に、秋山は淡々と話し始めた。

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