第3話 発展


 屋上の入り口にたどり着くと、秋山さんが扉を開ける。


「え、屋上って誰も入れないんじゃなかったっけ?」

「ここの鍵、しまっているように見せて、空いているんだよね」


(きちんと管理しろよ!!)


 俺はそう思いながら秋山さんの後をついていく形で屋上に入った。


「きれい……」


 屋上から一望できるこの景色がものすごく綺麗であった。呆然とあたり一面を見ていると、秋山さんが微笑みながらこちらを見てきていた。


(はず)


 俺は顔を赤くしながら秋山さんのところへ行くと、お弁当を渡される。


「ほ、本当にもらっていいの?」

「東雲のために作ったんだから、もらってくれなくちゃ困るよ」

「そ、そっか。ありがと」


 弁当箱を開けると、たこさんウインナーや卵焼き、トマトなど色とりどりに仕上がっていた。


「おいしそう」

 

 つい発してしまった言葉に、秋山さんは顔を赤くする。


「食べて食べて」

「あ、あぁ」


 おかずを口に運ぶ。


「おいしい」

「そ、そう?」

「うん。本当においしい」


 秋山さんが隣にいることを忘れて、次々と口に運ぶ。そこでやっと我に返り、秋山さんの方を見ると、笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「ご、ごめん。夢中になっていた」

「大丈夫。それだけおいしかったってことだよね?」

「うん」

「えへへ~」


 そして、ようやく秋山さんもお弁当に手を付けた。


(あれ?)


「秋山さん、俺のお弁当と違うけど……」

「東雲は男の子だからちょっと大きめにしただけだよ」

「そ、そっか。ありがと」


(本当に良くできた人だなぁ)


 なぜこの人が男遊びがひどいやいじめをしていたなどの噂が流れていたのか理解できなかった。


 すると、秋山さんが深呼吸をして言う。


「明日からもお弁当を作ってきてあげるね」

「申し訳ないよ」

「私が作りたいから作るだけだし」

「でも……」


 朝早く起きて弁当を作るのも時間がかかる。それを考えるだけでも申し訳ない気持ちでしかなかった。


「いつも自分の分は作っていたし、一人分が二人に変わるだけだよ」

「じゃ、じゃあさ。弁当を作ってくれる変わりに、俺からも何かさせてよ」

「う~ん。じゃあ予行練習でこれから遊ぶことも増えると思うし、その時に何かおごってよ」

「わ、分かった」


 その後、軽く雑談をしながら食べていると、秋山さんが先にお弁当を閉じた。


 そして、少し真剣な表情をして言われる。


「東雲」

「ん?」

「一つお願いをしてもいい?」

「何?」


 箸を弁当箱において秋山さんの方を向く。


「私も呼び捨てで呼んでいるし、できれば秋山って呼んでほしいな」

「本当にいいの?」


 秋山さんは学年一の美少女と呼ばれる存在。お弁当を作ってもらっているのに加え、呼び捨てにするってことは、周りから勘違いされる可能性が高い。


「うん!! 私たち友達じゃん」

「わ、分かった」


 俺の言葉に秋山はホッとした表情を浮かべた。


「じゃあさ、俺からも一つお願いをしてもいい?」

「何?」

「俺が休んだ時とか、お弁当を無駄にしちゃうから連絡先を交換しない?」

「いいの!?」

「え、ダメなの?」


 逆になんでダメだと思ったんだ。


 秋山は満面の笑みで携帯を出して、俺へQRコードを見せてくる。


「はい!!」

「あぁ」


 アイコンには柴犬の写真が載っていて、可愛かった。


「じゃあ、私からも連絡するね」

「うん」


 そして、お弁当を食べ終わった俺と秋山はチャイムが鳴る前に教室へと戻っていった。

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