第2話 放課後


 学校を出て、十分ほどたったカフェに入る。


「そ、それでどうしたの?」


 俺が秋山さんに尋ねると、頭を下げてきた。


「朝、助けてくれてありがとう」

「あ、あぁ。気にしないで」


 あの状況で助けないのは、俺自身も嫌な気持ちになる。


「お礼をしようと思ってさ」

「お礼? 別にいいよ」


 お礼を求めて助けたわけじゃない。あれは俺のためにやったことでもあるし。


 だが、俺の言葉に対し秋山さんは首を横に振った。


「私がお礼をしたいから。ダメかな?」

「わ、分かった」


(でも、お礼って何をしてくれるんだ?)


「東雲っていつも学校では一人でいるよね?」

「ま、まあね」

「一人でいて楽しいの?」

「た、楽しいさ!!」


(ここで俺が気にしていることを言われるとは……)


 そりゃあ、俺だって友達ぐらいほしいさ。いや、一人はいるけど。だけど、作ろうと思って作れるほど簡単なことではない。


「私がさ、青春を教えてあげる!!」

「青春?」


 一瞬、秋山さんが何を言っているのかわからなかった。なんせ、青春とは具体的な言葉ではなく、様々な要素が入っている言葉なのだから。


「そう青春!! 高校生なんだから、楽しまなくちゃじゃない?」

「ま、まぁそうだけどさ。何をするの?」

「まずは恋愛だよね??」

「は?」


 秋山さんの言葉に対し、呆然としてしまう。


「東雲って好きな子とかいないの?」

「いないけど」


 俺がそういうと、秋山さんは少し笑みを浮かべる。


「気になる子とかは?」

「いないねぇ」


 友達もいない俺に好きな子ができるわけもない。


「じゃあ、まずは気になる子から作り始めなくちゃだね」

「う、うん」

「まあすぐにできるとも限らないから、好きな子ができた後、どうすればいいか予行練習をしておこっか」

「予行練習?」


 俺の問いに対して、秋山さんはテーブルに手を乗せて言う。


「そう!! 恋っていつ起こるのかわからない。もし東雲に好きな子ができた時、どう行動を起こせばいいかわからないじゃん?」

「ま、まあそうだね」

「だから、私と一緒に予行練習をしよう!!」

「……」


 そうは言われても、予行練習って何をすればいいんだ。


 無言で考えていると、秋山さんが少し不安そうな表情をしながらこちらを見てくる。


「ダ、ダメかな?」


 俺は首を横に振る。


「じゃ、じゃあお願いしようかな」

「うん!!」

「だけど、何をするの?」

「私に考えがあるから、東雲は今まで通りしていてくれればいいよ」

「わ、分かった」


 その後、俺たちは軽く雑談をしてカフェを出た。その時、秋山さんがボソッとつぶやく。


「このチャンスを逃すわけにはいかないよね♡」

「何か言った?」

「なんでもな~い!!」


 翌日、早朝に学校へ行くと、秋山さんが俺の元へやってくる。


「おはよ~、東雲!!」

「おはよう」

「今日から青春スタートだね!!」

「あ、あぁ」


 何をもって青春スタートなのかわからないが、一応は頷いておく。


 午前中は特に何もなく過ごしていると、昼休み秋山さんが俺へ話しかけてくる。


「お昼食べよ!!」

「俺、食堂だけど大丈夫?」

「東雲のお弁当も作ってきたから大丈夫」

「え!?」


 秋山さんの言葉はクラスメイト全員が聞こえる声で言われていたため、俺を含める全員が驚いていた。


 そして、秋山さんに手を引っ張られる形でクラスを後にした。

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