第2話 わからなかった(わかってる)
昨日「今日からは先輩が私のことを可愛いって思うように私の可愛さを抑えずに先輩と接することにします!」と言っていたが、その翌日である今日は特に何か接触があるわけではないまま昼休みになった。
「自分の言動がおかしいことだと自覚したのか……?」
それならそれで良いことだ。
春花は友達も多いし、友達が多いということはコミュ力があるということだから、自分のことを絶対的に可愛いと思っていることを自覚してそれを少しでも抑えることができれば────
「先輩!お昼ご飯一緒に食べましょ〜!」
なんてことを考えていたが、相変わらず昨日までと同じ様子で俺の居る教室に入ってきて、俺の席まで来た。
「おかしいって自覚したんじゃなかったのか?」
「おかしい、自覚……?よくわからないですけど、今から私たちが食べるのはお菓子じゃなくてお昼ご飯ですよ〜?」
「そんなことはわかってる……悪いけど、水曜日はいつも購買を買ってるから急いで行かないと────」
「そんな先輩に朗報です!可愛い後輩ちゃんが先輩のためにお昼ごはん作って来てくれました────ここで問題!その可愛い後輩ちゃんっていうのは一体誰でしょ〜うか!」
もしかして、春花がわざわざ俺のために昼食を作ってくれたのか……?
……相手が自分のことを可愛いと自覚している後輩であったとしても、わざわざ昼食を作って来てくれたのは素直に嬉しいな。
……でも、可愛い後輩ちゃん、か。
「後輩なら誰かはわかるけど、可愛い後輩ちゃんには覚えが無い」
「もう〜!仕方無い先輩ですね〜!じゃあ正解教えてあげますよ〜!正解は────」
正解は春花一華、そんなことはわかってる。
「私でした〜!」
「わからなかった」
言われなくても、そんなことはわかっていた。
「そんなこと言ってられるのも今だけですからね!私の可愛さに気づいちゃったらもう私を可愛いって思って夢の中でも私が出て来ちゃうぐらいになっちゃうと思うので、まだ私の可愛さに気づいてない先輩のことを今だけは許してあげます!」
そう言いながら、春花は俺に黒色のお弁当箱を渡してきた。
春花の手にはピンク色のお弁当箱がある。
「黒色、このお弁当箱って春花の物なのか?」
「はい!ちゃんと先輩がそのお弁当で食べてても気にならないように、先輩が使ってる筆箱と同じ色にしておきました!……それがどうかしましたか?」
……本来ならそういう細かいところをもっとアピールしてくれば良いものを、本人はそのことについては当たり前のことだと認識していてアピールする場所という認識すらしていないらしい。
……春花は、やっぱり可愛い後輩だ。
「何でもない、もう食べさせてもらっても良いのか?」
「もちです!」
俺は春花に確認もとったところで、早速そのお弁当箱の蓋を開けた……入っていたのはふりかけのかかった白ごはんに簡単な野菜、そしてたまごとりんごという至って普通のお弁当だ。
「先輩、何か気づきませんか?」
「何か……?」
春花がニヤニヤしながら聞いて来たので、俺は再度お弁当箱の中を確認する……気づくこと。
……そういうことか。
「りんごがうさぎ型になってることか?」
「そうですそうです!じゃあ次、私のこと見てください!」
俺は言われた通りに春花の顔を見た。
「何か気づきませんか?」
それはすぐに気づいた。
何度見ても慣れないほどに整った可愛らしい顔立ちをしている。
目を見るだけで惹きつけられそうになるし、可愛いという春花の雰囲気とは少し違って唇には艶があって色気を感じる。
……だが、当然ながらそのことに気づいた、というよりは気づいていたことを春花に伝えることはできない。
でも、だからと言ってこんなにも褒める要素がある春花のことを全く褒めないというのも気が引けるため、俺は褒めるべきところを一つ褒めるとした。
「髪の毛がサラサラだ」
「そうじゃなくて、もっと他に何か無いんですか!?」
「お弁当を作ってくれてありがとう、素直に嬉しい」
「っ……!……あ〜!もう今日はそれで良いです!私が作ったお弁当美味しく食べてくださいね!」
「いただきます」
そして、俺は春花が作ってくれたお弁当を食べた。
春花が作ってくれたお弁当は美味しかった。
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