第14話 獣と鎖4

テオが屋敷の中に入って半刻も経たないうちに心配になった私は二人にどう思うか尋ねた


「あいつなら大丈夫だろ、最悪失敗しても逃げる算段くらいは用意するだろうし」

「あとは屋敷の中に厄介なやつがいないかは心配だね」

テオなら大丈夫だろう

私もそう思うが、やはり一人で行かせるべきではなかったのではないかと言いかけて自分が一緒に行っても足手まといになるだけなのでやめた

「大丈夫だよフェリシア、いつでもこの街の騎士が動けるよう準備してくれているんだから」

そう私達は不正の証拠さえ見つければそれでいい、だからベルヌーイを捕まえる必要はない




「お前達3人が騎士の仲間か」

気づけばオルゲンさんほどではないが大きな影が私達は見て言った

その瞳が光っているように見えるのは、何かの気の所為だろうか


「何者だ」

「安心しろ敵ではない」

「だから誰かって聞いたんだよ」

「ああすまない、忘れていたテオ・クレマンが教えてくれたんだ」


テオ

テオがこの人に私達のことを教えたんだ。それが自らか、無理矢理かはわからないが


「安心しろあいつは今頃、ベルヌーイの私室に行っているだろう」


どうやら前者のようだ少し安心する。テオがこの短時間で口を割るとも思えないし

私達の警戒が少し解かれたのを理解してか、大きな影が近づいてくる


月明かりに照らされたその姿は、獣のような毛の量で頭の上に猫のような耳が付いている何とも変わった特徴の人がいた


「なんで獣人がこんなところにいるんだ、ベルヌーイの回し者か」

ラウルさんは心当たりがあるようだったが、獣人と呼ばれた大男はそれを意に介さず


「息子を助けてくれ」

そこから私達は彼から事情を聞いた

テオの潜入が上手く行き、ベルヌーイを拘束していること、それに気づいているのはこの人だけだというらしい

この人の息子がベルヌーイの人質となったので、泣く泣く指示に従っているらしい


「どうする」

話を一通り聞いてマティアスが尋ねた

これはこの獣人の話をどこまで信じるかということだ

この人は私達の正体を知って上で一人だけで来た。それが私達を取るに足らない存在と認識しているのかはたまた本当のことか


答えが出ないでいると

「わかった、あんたについていくよ。その代わりあんたが一番前を歩くんだ」


ラウルさんは警戒心を残しつつ、彼の言う通りするよう言った

私としてもこの人とテオが接触しているのは間違いないので、それが本当のことであってほしい

であんた名前はとラウルさんが尋ねると

 

オルティノと答えて屋敷の方に進んだ

私達もそれについて行く、オルティノさんの後ろを取りながら


屋敷の前までに来るとオルティノさんが止まる

目の前には屋敷の大きな窓があるだけだった


「まさか、窓を割って入ろうなんて言うんじゃないだろうな」

「当然だ、この部屋の正面に地下へ行く階段がある」

「当然じゃないよ、窓が割れた音で気づかれたら俺達もあんたの目的も果たせないだろうが」

「そうかならどうしたらいい」


マティアスは質問されて黙ってしまった

私達に屋敷に入る手段がない。テオのように正面から入る方法は使えないだろう


「おいオルティノさんよ、あんたが言っていること本当に信じていいんだろうな」

「ああ、獣人はつまらない嘘はつかない。お前達の信用を得るためならなんでもしよう」


「信じましょう」

オルティノさんの真剣な表情を見てたら、我慢出来ず言った


「理由は」

「オルティノさんが真剣だからです。私達をそれに屋敷に誘き出すだけなら、何か合図とか送るはずです」

ラウルさんが私を見るので、私も目をそらさないようにした

「わかった、俺の負けだ。スピード勝負でちゃっちゃとやろうか」

「それに私たちが捕まったとしてもテオさえ無事なら騎士を呼んでくれるはずです」


窓から侵入して、すぐに地下室に向かうことになった。それに地下室にはベルヌーイの秘密もあるだろうからとラウルさんは自分に言い聞かせながら窓を割った

パリンという音が響いたので急いで屋敷の中に入った


部屋の扉を開くとオルティノさんがこっちだと案内すると本当に地下へ続くであろう階段があった


ただ扉は他のものと違い、とても強固なもので出来ているようだった


「で」

「なんだ」

「鍵だよ鍵あるんだろ」

「私は持っていない」

「じゃあ、どうやって入るんだ」

「何を言っている、一人で入れるならお前らに協力は頼まない」


ラウルさんとマティアスが頭を抱えた


この扉はおそらく鉄でできている。軽くコンって叩くと音が響くのでそこまで厚くないようだ


「あの、これならなんとかなるかもしれません」

「本当かい」

「でも時間がかかると思います」


私達の方に窓が割れた音を聞きつけて、人が来る音が近づいてくるようだった


「わかった、時間は俺が稼ぐ。その間にフェリシアちゃんとマー坊は例の息子君の救出を」


ラウルさんの許可が出たので、私はすぐに術の構成を始める


ノルベルト先生に言われたのことを思い出す。

魔術とはいつ、どこで、対象を決めるのが構築でどのようにそれを成すのかを考えるのが演算だと

普通の魔術師ならその2つを正確に調整することで魔術の効率化を行い、時間と魔力量を最低限で済ませる

先生が言うには私の場合魔力量によって、構築と演算のバランスで狂ってしまい暴走してしまう

なので緻密さよりも、より簡素な構築で演算もどのようにしたいかその結果をイメージするだけではどうかと教わった


私は先生の教え通り単純な熱の魔術の陣を構築し、扉に穴を開ける、人が簡単に出入りできる大きさをイメージする


しばらくそれのみに集中すると私を呼ぶ声に我に変える

目を開けると鉄は赤い色になって、大人一人が通るのに問題がない大きさの穴が空いていた


「出きた」

「出来たじゃないよ。これじゃ熱すぎて通れないだろう」


文句を言いながらマティアスさんが魔術で熱が籠もっている部分に水をかけると辺りは水蒸気で包まれた


「二人とも大丈夫か」

「ああ、フェリシアが上手くやったよ」

「やるな、フェリシアちゃん」

私一人じゃないと否定しようとしたが

「二人共今のうちに行け、俺はここを維持する」

「ならば私も残ろう」

とラウルさんとオルティノさんが残ると言うので止めると

「脱出まで考えるならこれが最善だ、別に出口があるなら別だけど」 

「地下の出入り口はここしか知らない」

だとさと言ってラウルさんは私達に背を向ける

「大丈夫なんですか」

「フェリシアちゃんこれだけは覚えておいて、男はね馬鹿だから、女の子に大丈夫と言われるより頑張れって言われる方が力が出るんだ」

「ラウルさん、オルティノさん頑張ってください」


私とマティアスは地下へと進む


「あんたは息子のことは良かったのかよ」

「勘違いするな、私の最優先はあくまで息子の無事だ」

「それは殊勝なことで」

後ろからそのような会話が聞こえてきても


階段が終わりると石畳みの廊下が続いていた

仄暗いその道を歩くいていると扉がある開けると牢屋が続いていた


その牢屋の中にいるのはほぼ全員若い女性だった。牢屋には鍵がかかっているようで、先程の魔術を使えば開けられそうだが

「今、全員助けようなんて思うなよ」

「どうして」

「わかるだろ、そんなことしてたら時間がかかって本当に上の二人が死ぬぞ」


その光景を目にしながら、私達は目を背けずに進む


すると奥の牢屋の中に小さな人影があった


「ジョディ君」

「誰なの」

「俺達はオルティノ、君のお父さんに頼まれて来たんだ」

「お父さん」

彼が近づいてきた

彼の様子は食事はもらっているようでそこまで痩せてはいないが、子供なのが嘘のようにやつれていた。無理もない毎日一人であるこの状況で父を案じながら助けを待っていたのだから


「今開けるから檻からすこし離れてね」


先程と同じ要領で魔術を使う

檻は先程の扉に比べれば細いので、容易に出きた


ジョディくんは開放されると私に抱きついた

その身体は震えていて、涙で濡れている顔で私を見て


「父ちゃんは」

「上で待っでるよ、早く一緒に行こう」


急いで戻る背中に、私達も助けてという声が聞こえて足が止まる


「おい、お前まさか」

「私は残ってこの人たちも助けるから、マティアスはジョディ君を」

「何言ってるんだ、ここまでわかったなら。後で騎士が助け来るんだ。少なくとも今はその情報を伝える方が先決だ」


彼の言っていることは正しい、私が助けようとも騎士が助けようとも大きく時間が変わるわけでもない。それでも今助けを求めている人を裏切りたくない


これがただの自己満足だとしても


彼の静止を無視して魔術の構築を始める

幸いなことに牢屋は個室だが、正面の檻は全て繋がっている

これならそこまで時間がかからないだろう


「お前みたいなバカ、見たことないぞ」

マティアスはジョディ君を連れて階段を駆け上がっていった


「皆さん、今から檻に穴を開けます。危ないので檻から極力離れてください。時期に騎士が来るので安心してください」


しばらくして魔術が発動した今度は目を開けながらその様子を見ると私の手に近い方から徐々に溶け始めた。次第にそれが広がって行きしばらくして全体に広がった

その後、マティアスと同じ要領で水の魔術を使う。水蒸気が晴れたあと

「皆さん上には館の人間がいるので慎重に行きます。ゆっくり着いてきてください」


上の様子を伺いながら、小走りで進む

上に進むに連れて静かなことに違和感がある

もしかしてという不安を抱えながら

鉄の扉のそばまで来たのでそこから廊下の様子を伺うと


戦闘はしている様子はなく、生死がわからないが倒れている兵士がいるだけだった。

牢屋にいた人たちにはそこで静かにして隠れているように言い残し

一抹の不安を感じながら、今度は窓を割った部屋を目指す 


その部屋にも倒れている兵士はいたものの、静かなもので誰もいない更に私が不安になると


フェリシアちゃん


と呼ばれて窓の外を見ると茂みの中にみんながいた


その後、女の人達を連れて屋敷をあとにした

元々隠れていた場所あたりに戻ってきた


「何があったんだですか」

「いやー、フェリシアちゃんみたいな可愛らしい子に応援されて、お兄さん頑張っちゃったよ」


マティアスがラウルさんを小突く

ラウルさんは観念したように

「屋敷の連中、オルティノにビビっててさ、2、3人のしたら全員逃げていってさ」

「この見た目だからな、それより息子のことを礼を言う」


オルティノさんの影で気付かなかったが、ジョディ君も無事脱出出来て安心して


「それよりも皆さんなんで屋敷から離れなかったんですか」

「それはどっかの馬鹿が、フェリシアちゃんもすぐ来るから待ってあげようって」

マティアスがまたラウルさんを小突く

今度さっきより強く


とにかく私達は全員屋敷を抜け出すことが出てきた。いかにも奴隷のような格好をした十数人の女性の救出もできた。これで騎士団が動くには十分なはずだ


あとはテオだけだ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る