第15話 獣と鎖5

パリンというガラスが割れた音がして

そこから下が騒がしくなった気がした


フェリシアたちだろう

詳細はわからないが何やら派手な方法で屋敷の中に侵入したようだ


俺も自分の仕事をしなければ、

その前にまずは動きやすい格好に着替えることにした

カツラを外して、ドレスを脱いだ

何も着ないわけにはいけないので、ベルヌーイの服を拝借することにした


サイズの合う服はなかったがなんとか袖を絞ったシャツとベルトをきつく縛ったスボンで我慢することにした


私室の中は、ベッドの部屋とは違い、調度品に溢れていた。それだけでも辺境の貴族では持ちえないだろう大金がかかるだろうことはすぐにわかった


とりあえず

机の引き出しなどを適当にあさるとあっさりと帳簿は見つかった。人身売買だけでなく、麻薬や武器なんかも手広くやっていたようだ


証拠としては十分だが、探索を続けることにした

追加でわかったことといえば、ベルヌーイ伯という男は他人にはたいそう厳しいようだががその分自分には甘いようだ

一見すると整理されて、掃除の行き届いている部屋だが机の引き出しの中は乱雑となっている。おそらくは自分しか開けることがないからといって、せっかくの鍵付きの引き出しが開けっ放しになっているのだから


一通り調べる終わり大したものは見つからなかったので、この部屋に入ったときから気になっていた奥の扉に近づいた

この扉には鍵がかけてあったが、奪った鍵で開いたので問題はなかったが


その中は先程の部屋とは違い何とも簡素な作りだった。本棚と机だけの部屋で小さな書斎のようだった


そこを調べると本棚にある本は全て日記のようで、あいつにムカついたとか、あの女は好かったとかあまり知りたくないことばかりだったので机の方をしらべたらこの机にも引き出しがあり、その引き出しには鍵が掛けてあり手持ちの鍵でも開かなかった


すこし考えて不正の証拠も十分集めたので

強引に壊すことにした。所詮木の机なので強引に力づくで開けることが出きた

中のものに破損がないかと思いながら見ると

その中も書類のみだった


そこでわかったことは

武器を仕入れては賊などに横流ししていること

その賊は他国でも人攫いなどを行っており、それを高値で売っていること、ベルヌーイも買うだけでなく販売もしているようでその購入先など

あと個人的に目を引いたのは

王都から西側のとある街で裏カジノがあり、その中でも剣闘士を使った賭け時合をやっているようで、その剣闘士の中にはかつて剣の国の兵士だった男がいるということだろうか


書斎に籠もっていると

何やら部屋の外がやけに騒がしくなる

書斎を出て更に部屋を出るとどうやらこの街の騎士が来たようだ


フェリシア達が予想以上にうまくやってのけたのだろう

ここで騎士と鉢合わせになるのも少し面倒なので、フェリシア達と合流することにする

もちろん見つけた証拠も一緒にだ


3階という高さだが、屋根などを使えばうまく降りれそうだ

オルティノように降りることは俺には出来ない


騎士が来る前にさっさと外に出る

屋敷を出ると外は更に騒がしかった、騎士だけでなく野次馬もいるようだ

野次馬に紛れてからここを抜け出すことに決めて

正門の方に近づくと群衆とは少し離れた位置にフェリシア達がいたので合流した


すると彼らは驚いた様子で

とりわけフェリシアは鳩が豆鉄砲食らったような顔で唖然としていたので、大丈夫かと声を掛けると


急にフェリシアが抱きついてきた、更に泣いている様子の彼女がどういう状態かわからない俺は他の二人を見た


「フェリシアちゃん、今日は大活躍中だったんだけど君を見て気が抜けたみたいだな」


説明してくれるラウルに反して、マティアスは人のことを色男だなんだと言いながら軽く蹴ってくる


まあいいか

今は彼女が求めるならと頭を撫でながら抱きしめた

しばらくして、落ち着いた彼女は赤くなった目をこすりながら


「オルティノさんたちどうしよう」


話を聞く限り

彼女たちはオルティノの息子以外の屋敷にいる奴隷を全員助けたとのことだ

そこまでしなくてもいいだろうと思ったが、フェリシアが率先して行ったことに驚いた

曲がりなりにも騎士になった影響だろうか

奴隷を救出したあとはティボーのところに奴隷と共に行き、流石に十数人の奴隷を見たティボーは奴隷を保護し、騎士団を動かしたということだ


「それでラウルさんがオルティノさんは一緒にいたら不味いかもしれないからって言ってくれて」


とたどたどしく説明するので、一旦オルティノ達が隠れている場所に向かった

俺達に気づいたオルティノは姿を表した


「君も無事だったかテオ」

「あんたも息子を取り戻せたんだってな」

「ああ君たちのお陰で、紹介する息子のジョディだ」


オルティノの影から出てきたのは10にも見たない少年だった。その見た目はオルティノのように頭の上に獣の耳がついているぐらいで、オルティノより俺達に近い姿をしていた


「この子の母親、つまり私の妻は君たちと同じ理の国の出身でな」

「それって」

「ああこの子は獣人と人族両方の血を引いている」

だから故郷にも居場所がなくてなとオルティノは言った

牙の国オルオンドラクスは、他の国とほとんど関わりがなく。排他的な国とは聞いたことがある


「だから行く宛のない旅だったのか」

「そうだ、他国では獣人が珍しいのかあまり馴染めなくてな」

息子を取り戻したとしても彼らの問題は解決することはない。獣人は高値で売れると聞く

彼らも人攫いや賊に今後も狙われるだろう


「なら一つ紹介したいところがあるんだが」

「私たちを受け入れるところがあるというのか」

「ああ、モンタグ村ってところでのどかないい村ではあるんだが、そこも曰く付きの村だから」

「なるほど、可能性があるならそこに行くことにするよ。他があるわけでもないしな」


オルティノにはモンタグ村の場所に印をつけた地図とオルゲンを尋ねるように言った。少なくとも俺の名前を出せば話くらいは聞いてくれるだろう


混乱に乗じてオルティノたちはこの街を出ることにした

「君たちには本当に助けられた、礼を言う」

本当にありがとうとジョディも頭を下げて彼らは去っていった


「でもテオも良いところおるんだな」

「マティアス、いきなりなんだよ」

「お前が珍しく率先してあんなことするなんて」


あんなとはどこまでを察しているかわからなかったが

「騎士なら困っている人を助けになるのは当然のことだ」

と返すとマティアスが小突いてきた

それを避けて思う


願わくばあの二人が無事にあの村に受け入れられて安住の地を得ることを

そしてその獣人の力を俺に役立ててくれることを



騎士の詰所に行くとティボーが俺達に駆け寄ってきて


「いやー皆さん流石のご活躍で、王都の方は違いますな。流石調査の専属部隊ですな」


と若干の勘違いはあるが、俺たちの仕事振りにいたく感動していたようだった


彼の計らいで今日は宿を用意したので一日ゆっくり休んで明日立つことになった。王都への報告は彼らが先にしてくれるようなので、帳簿だけを彼に託した


時刻は日が昇り始めた頃だったので、俺らはお言葉に甘えてそれぞれ休むことにした





太陽が登りきってから私は目を覚ました。今日の興奮によりあまり寝付けなかった

生まれて初めて魔術で人の役に立てたこと、まさか自分が人の指示を聞かずに動くだなんてまだ信じられない

あの時は必死だったので、どうやったかはあまり覚えていない。戻ったらノルベルト先生にも相談しよう


あたしの部屋にノックの音が聞こえるとテオの声が聞こえた


テオと会うのはまだはずかしい。

昨晩彼と合流した時に彼の姿を見て、彼に対しての心配と安心で気持ちがぐちゃぐちゃになった泣きながら抱きつくだなんて

その後もまるで子供を慰めるように頭を撫でられるなんて


もう一度ノックの音が聞こえるのではいと答えるとテオが入ったきた

なんだ寝ていたのかと謝る彼に身支度をしていないことを思い出して、もう一度彼に出てもらって急いで用意をした


「どうしたの」

「いや、今日は非番だろ街でも見に行かないかと思って」 

珍しいこともあるものだ

暇さえあれば魔術書を読む彼が外に出るなんて

ましてや自分を誘うだなんて


「どうかしたの」

「ただの気晴らしだよ、休みたいならいいけど」

「いく」


つい大きな声を出してしまった

彼は笑いながら行こうかというので、慌てて彼について行った



宿屋を出てまずは昼食を取ることになった

昨日は夕食も満足に食べられなかったことで、私の腹の虫がなったからだ


「でどうだった」

「美味しいよ」

「違う昨日は初めてうまく魔術が使えたんだろ」


そう言われて昨日の魔術の話をした

「へぇ、結果のイメージか、俺にはできそうにないな」

「むしろ普通はどうやるのかな」

「構造を考えるだよ、魔術自体やその対象だったりそれを考えながら細かく指示を出す感じだ」


彼には申し訳ないが、何を言っているか分からなかった


昼食が終えると、しばらく二人で街を歩いた

するとある露天が目に入った

そこにはアクセサリーが並んでおり、ソーニャからももっとおしゃれをしろと言われたが自分には似合わないだろう


「買ってやろうか」

「いいよ、見てただけだし」

「遠慮すんなよ、昨日は頑張ったんだしたまにはいいだろ」


テオは私を無視してアクセサリーを手にした

そこから彼は一つ髪飾りを取って私に当ててから購入して私に渡した


それは可愛らしい花の意匠をした髪飾りだった

露天商にはこの花について聞くとアイリスという花らしくこの辺でよく見かける花らしい


大事なものなので丁寧に布で包んで懐に入れた

「つけないのかよ」

「だって大切なものだし、勿体無いから」

と言うと彼はなんだよそれと言って笑った


二人で話しながら、街を歩いているうちに気づけば夜になっていた

とりあえず宿屋方面にもどっていると


「フェリシアちゃーん」

私を呼ぶやけに陽気な声が聞こえる


そこにはご機嫌なラウルさんと項垂れたマティアスさんがいた


「何してるんだよ、一緒に飲もうよ」

夕飯の予定もなかったので、席に着く

「なんだテオ、デートかよ」

「そう思ったんなら、ほっとけよ」

俺じゃないとマティアスがまた不貞腐れた

否定しないテオになんだか気恥ずかしさを感じる


楽しい夕食を過ごしていると、隣の冒険者であろう集団の話し声が自然と耳に入る


「剣の王の遺児が生きていたって話だ」


その言葉に空気が凍った

酔っ払って陽気になっていたラウルさんも同じだようだ


私達は冒険者に身分を明かして話を聞いた

彼らも詳しいことはわからないが

何でもヴェストという街でそんな噂を聞いたということしか分からなかった


そこからは皆気分が乗らず、解散となり

それぞれ宿の自分の部屋に戻った


翌朝はこの街の騎士達にに見送られて王都へと戻った

王都につくとすぐに部隊室へと急いだ

部隊室につくとベルトラン隊長とヨランダさんがいた二人は既にバイルからの報せを聞いたようで私達を歓迎していたが、私達のただならぬ空気を感じたようで話を聞く姿勢となった


ラウルさんが中心となり昨日冒険から聞いた話を二人に話。今回もまだ噂話だがモンタグ村を知っている私達は無視出来なかった


それからテオがこれもとある書類をベルトラン隊長に差し出した。中身は賭け闘技場の事で剣の王の遺児の噂のあるヴェストと同じ街で、剣の国出身の剣闘士がいるという内容だった


何故これをバイルの騎士団に提出しなかったのか理由を訊ねられたテオは、

この書類は、帳簿よりも厳重に保管されていたことと偶然かもしれないが、遺児と同じ街だったので下手に広めない方がいいという判断だったようだ


ベルトラン隊長はわかったと言って上に報告すとのことでバイルについての報告は以上となった

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