第12話 獣と鎖2

帰ってきたのは夜が明ける頃だった

ヨランダが明日は休んでいいよ言われたので、流石に疲れたのでその言葉にあまえることにした。


次に意識がハッキリしたのは、昼ごろだった。空腹により目が覚めたようだった。せっかくの非番だったので食堂で食べるのも味気ないし外で食事をすることにした。


適当に身支度を済ませて、城下町に繰り出す

いざ行ったはいいものの、いちいち店を探すのが面倒になったので結局知っている店に行くことにした


「あらテオちゃん、いらっしゃい。一人で来るなんて珍しいじゃない」

と店に入るとすぐに店主が俺に気づき声を掛けてくる

この店主はこんな話し方をするが女性ではなく、男だしかも顔はいいが中々の長身で年齢もおそらくベルトランよりも上だろう

この奇抜な話し方の理由は

本人が言うには、そういう趣向の持ち主ではなく給仕の店員たちに怖がられず、馴染みやすいからということらしいが、真偽はわからない


この店

アースレンは厨房にこそ男はいるが、給仕は全て女だ。昼間はともかく夜は所為そういう店と経営されている。当然酒によって給仕の女にしつこく絡む客にもいるがこの店主が店から追い出せる。言動とは違い腕っぷしが立つのだ


ラウルにしつこく誘われるので、マティアスともに何度か来たことがある

こういう店だが食事も中々にうまいときた。酒さえ飲まなければ、値段も手頃でいい店だ


「今日はどうしたの、もしかしてうちで働く決心が出来たのかしら」

「冗談はやめてくれ、今日は非番で食事に来ただけだよ」

と楽しげに言う彼はあら残念と言いながら、席に案内してくれた

食事を適当に注文して、食べ終わると時間は何とも中途半端な時間なので少し考えたのち店主に声を掛けて、地下室に通された


店を出ると日は完全に落ちていた。足早に寮の部屋に戻る。結局夕飯もあの店で済ませたので、机に向かっていると

扉をノックする音が聞こえて、フェリシアの声が聞こえたので中に入るよう声を掛ける


「夜に来るなんて珍しいな」

「うん、ヨランダさんが今日の朝に帰ってきてるって教えてくれたから」


ヨランダは朝一に仕事の報告を済ませた後少し仮眠を取ってから書類仕事をしていたと聞いた。仕事熱心な彼女に同情して、ベルトランも彼女の爪の垢を煎じて飲めば少しは彼女の負担がなくなるだろうに


「でどうしたんだ、顔を見に来ただけって訳じゃないんだろ」

「えっとね、話したいことがあるんだけど」

と彼女は申し訳なさそうに机の上を見るので、魔術書を閉じて、了承すると嬉しそうに昨日あった事を話し始めた


ノルベルト・クレマンにあって、魔術を指導してもらったこと、自分の魔術の資質について

そして第2王女と友達になったこと


彼女は初めての友達がよほど嬉しかったらしく、第2王女の話をとりわけ熱心にしていた

申し訳ないが、あまり興味がないので話を遮って魔術の話にもどす


「良かったじゃないか、あのノルベルトに魔術を教われるなんて貴族の人間でもなかなかないぞ」

「そんなに有名な人なのは」

「そりゃな、この国で魔術に携わるやつで知らなかっのはお前くらいだろ」

というと彼女はすねた顔をして

「そういばノルベルト先生もクレマンだしテオが言ってた家族からもしれないって話になったんだけど、先生は家族いないって言ってたの」

「まあ、そう簡単に見つからないよ。俺も本気で探す気はないし

それより魔術のことだけど、俺もノルベルトの言うようにむやみに言わないほうがいいだろ」


と言うと彼女は尋ねてくる

「テオはどこまでわかってたの」

「お前の魔力が尋常じゃない量ってことくらいだよ」

と適当に答えるといい時間だったので、彼女を部屋の近くまで送ると自分の部屋に戻る間に考える


フェリシアが思いのほか早くノルベルトに接触出来たのは偶然にしても出来すぎている気はするがそれはいいだろう

問題はあの男がどこまで気づいているかということだ

口外はしないだろうが、変に騒ぎ立てられたら面倒だ。彼女はノルベルトの家に今後通うそうだから、俺は会わないほうがいいだろう



次の日の朝

フェリシアと共に部隊室に行くとそこにはガスパールがいたので、嫌な予感がした

彼はやはり仕事を持ってきたらしい、ただ今回は正式に騎士としての仕事だ


ガスパールは軽く挨拶をしてすぐに部屋を出ていった


内容は地方貴族のベルヌーイ伯についての身辺調査だった

「今回の仕事は、ベルヌーイ伯の不正の証拠を手に入れることだ」

とベルトランが言う

「不正ってなんの」

とマティアスが聞くと

「ベルヌーイ伯ってのはね中々女好きで有名な人でね」

と答えられると全員がラウルの方を見た

ラウルは気まずそうに苦笑いをしていた

こほんと咳払いをしてベルトランは話題をもどした

「ただの女好きなら別にいいんだが、どうやら人買いからも奴隷を購入しているようなんだ」

この国には奴隷制度は存在しない。たしかに犯罪ではあるが王都の騎士団が動くほどのことなのかという無神経な疑問を持ったが黙っておくことにした


「そこまでわかっているなら、さっさと捕まえたらいいじゃないですか」

「甘いなマー坊、相手は腐っても貴族だ。いざ乗り込んで証拠がないじゃ話にならないんだろ」

各々が話していると

「だから、今回の僕らの仕事はその証拠を確保して本隊に渡すことだ。上層部は証拠もなしに動かないからね」

「それにベルヌーイ伯は人買い以外にも色々やっているという噂もおるくらいだが、なかなか注意深い男らしくてねガスパールも尻尾を掴むのに相当苦労しているようなんだ」


なるほど合点がいった

どちらかというと奴隷よりもそちらが問題のようだ。それでまずは証拠の集めやすそうな人買いで捕まえて、その後じっくりと調べるためのようだ


「それで今回担当してもらうのは、ラウル君と君たちにしようと思ってね」


君たちとは俺とフェリシアとマティアスのことで間違いないだろうが

「あの、ヨランダさんは」

とフェリシアが尋ねる

「ヨランダ君は最近満足に休みも取れていないんだ。今回はさしたる危険もないだろうし、休んでもらうことにしたんだ」

とその元凶がさも心配しているかのように言う。当然昨日まで王都を離れていた俺のことは触れられなかった


「後輩たちよ、今回は俺がいるんだから何とかなるさ」

とラウルが言う。こちらを安心させようとするならもう少し言い方を考えてほしいものだが



ベルヌーイ伯が納める領地バイルは王都から南の方に位置している。ブドウの名産地でワインが有名な場所だ

今から出れば日が暮れる前にはバイルに着くので、俺達は騎士団が保有する馬で目指すことになった

余談だがあまり運動神経のよくないフェリシアは乗馬に関しては騎士団に入って初めて乗ったものの中々の上達ぶりで今では俺なんかよりも馬を乗りこなす。彼女の意外な特技の1つだ


日が暮れ始めた頃にバイルに到着し、現地に配属している騎士に馬を預けて話を聞く


「いやー王都からはるばるお疲れ様です。今日は我々の宿舎でお休み下さい」

と恰幅の良い男がいう。彼はティボー、この街の騎士を取りまとめている責任者だ



「お気遣いありがとうございます。休む前にベルヌーイ伯のことをお聞きしたいのですが」

と丁寧にラウルが尋ねる


「いやー恥ずかしい話ですが、人買いの証拠はさっぱりなんです。警戒心の強い人で我々も苦労しているんです」

「では何故人買いの疑いが」

「あの屋敷を抜け出していた女がいましてな、なんでもオルアルゴンの出というので」


オルアルゴンとは命の国のこと

海を渡らなければ、こちらに来ることは出来ない


「本当に女好きのようで各国の人間を人買いから買っているようなんですが、如何せん証拠がね。身元もはっきりしない人間の証言だけでは動けないんですよ」


とある程度の説明を受けて、俺達はその日は休むことにした

ラウルは夜の街に繰り出すそうで、俺たちにも声を掛けたが、当然全員が断った

こんな任務さっさと済ませて、王都に戻りたいので今日はすぐに寝ることにした






翌日

私達は部屋を借りて作戦会議をすることになった


「さてとこれからどうするかだけど、何か案ごある人いるか」

と呑気にラウルさんが口を開く

「とりあえず屋敷に侵入するんだろ」

「だからそれをどうするかだよ、それに侵入したとしても何の手がかりもないしな」

と言われるとみんな黙ってしまう

「帳簿があるだろ」

とテオがいうので

「どうしてわかるの」

「少なくとも船を使える連中から定期的に買っているならそれなりの額は使っているはずだ」

「ま、そういうことだ。こんなことするやつが自分の金でってわけでもなさそうだしな」

とテオとラウルさんが答えてくれた。ラウルさんにいたっては、はじめから本当にそう考えていたか分からないが、それならそうとはじめから言えばいいのではないかと思っていると

「それで侵入の方は」

とラウルさんが私を見るとテオがラウルさんを睨む

「分かった分かったでも、屋敷の中を歩いていて、他に不自然じゃなさそうなやつは」

と今度はテオを見た

「こいつ男だぞ、ベルヌーイは女好き何だろ」

とマティアスが呆れながらにいう

「いやわからないぞ、女好きでもベルヌーイは人種を問わないからな。もしかしたら意外と気にいるかもしれないぞ」

と言うラウルさんをテオは心底不愉快そうにしていた

「まあ、そう睨むなよ。昨日俺が君たちが寝ている間にも情報収集していて分かったことだが、ベルヌーイは娼婦もよく呼ぶらしいそれを上手いこと利用すれば侵入も楽になるはずさ」

と言うラウルさんにまたしてもマティアスが呆れた様子で

「女遊びをしてたら、たまたま知っただけだろ。それに結局侵入方法はっきりしていないし」

と言う

「ちゃんと考えているから安心しろ。昨日飲み屋で協力してくれる人が見つけておいたんだ。まずはその人に協力を頼もう」

「素人に調査を任せるのかよ」

「ちゃんと考えているって、言ったろまずはついて来いよ」

と終始彼のペースに翻弄されて話が進む。案内されたわたし達はあるお店に行く。そこは酒場だった

そこでラウルさんが扉を開いて

「メリンダちゃんはいるかい」

と声をかけると奥から派手な格好をしたきれいな女の人が出てきた

するとラウルと言って、彼に抱きついて熱い抱擁をしていた

私達は何を見せられているのだろう

たまらずマティアスがおいと声をかけると


「紹介するよ、彼女はメリンダちゃん。今回の協力者だ」

紹介されてもよく分からず、説明を求めると

「俺も考えたわけよ、侵入するなら娼婦のふりをするのが手っ取り早い。でもフェリシアちゃんに行かせて万が一のことがあったら大変だ」

そこでと言ってラウルさんはテオを指す

「さっきも言ったが、テオに行ってもらうのが適任と判断したわけだ」

「もしかしてお前」

とマティアスが怪訝な顔でいうと

「そう、テオには女装して侵入してもらう。どうだこの隙のない完璧な作戦は」

得意気に言うラウルさんにテオがおいと抗議の声をあげようとしたとき

「自分で行くのとフェリシアちゃんが行くがどっちが良いんだ。それとも他に作戦があるなら聞くが」

ラウルさんが真剣な顔で聞かれて、テオは観念したようで死んだ魚のような目をして自分がいくと答えた

流石にマティアスも同情したようで

「やるだけやってみて、だめなら他のホウホウを考えよう」

少し検討違いなことを言っている。無理もない私もテオに何て声をかけるべきか分からない

メリンダさんはテオを見て

「あら、この子も良い男じゃない。この子なら絶世の美女になるわよ」

と楽しそうに言って、ラウルさんと二人でテオを奥の部屋に連れていってしまった。


残された私とマティアスはただ呆然と見ているだけだった


テオには申し訳ないが、私もほんの少しだけ興味があったので一連を見ているだけだった


「どうなるかな」

「女の格好したあいつが出てくるだけだろ、でもよっぽどやだったんだな」

「何が」

「お前をベルヌーイのところに行かせることがだよ」


そう聞いて、私のために彼が決断したことだとを思いました。彼が駄目なら私が行こう。みんなの役に立つためにと決心を重ねる


しばらく待っているとラウルさんが部屋を飛び出してきて興奮した様子で


「お前らやばいぞ、来てみろよ」

と言われて部屋に入るとそこにはメリンダさんと赤い髪の背の高い女の人が立っていて、テオは着替えているのか見当たらなかった

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