第9話 調査任務4
今、私達は斧の男オルゲンであろう男の家にいる
「いやー、うちの馬鹿がすいませんでした。お客人」
と豪快に笑いながら大柄な男が言った。その脇には済ました顔のロゼッタとそれとは反対にアロイスと呼ばれた少年が頭を抑えながら不貞腐れて立っていた。
あれから私達は山の中を男とロゼッタを追いかけて進むと開けた空間にでた。そこには少数の家屋があり、ちょっとした集落のようになっていた。そこにはロゼッタやアロイスのよりも幼い子供やいかにも山賊という風貌の男たちがいた。男たちの中には目や腕などを失った者もおり、ただの集落でないことが一目にわかった。
何も言わない私達に男は尋ねる
「で、お客人たちは俺に一体なんのようだ」
「あなたがオルゲンで間違いないのね」
ヨランダさんが質問を質問で返す形となる。ちらりと彼女の表情を覗くと顔が強張っていた。そんな彼女の表情を見て、男は愉快そうに言った
「ああ、俺の名前はオルゲンだ。それがどうかしたか」
「あなたが剣の国の猛将オルゲンかってことが聞きたいの」
「だとしたらどうするってんだ。街の衛兵にでも突き出すか」
男の言葉に絶句した。男の見た目からあのオルゲンかもしれないということは想像に容易いが、こうも簡単に認めるとは誰も思わなかった。さらになぜ私達の前に自ら現れたかその理由は検討もつかない。そんな中テオが問いかける
「あんたの目的はなんだ」
「変なことを言う、お前たちが俺に用があったんだろ」
「わかった、俺達はあんたが本当に理の国にいるかを確かめに来た騎士だ。それ以上の目的はない」
とテオが全て話してしまった。さすがのオルゲンもそれには驚いた様子でいた。さらにテオは続けた
「今度はあんたの番だ。何でわざわざ自分から俺たちを招入れるような真似をした」
そうだなとオルゲンは少し考えてから答えた。
「それを話す前に少し外を見てくれ」
と外の様子を見ると
無邪気に走り回る小さな子供たちやビアちゃんを物珍しそうに見て集まっている子、少し大きな子は大人たちの手伝いで炊事をしている。大人たちも朗らかな表情でそれぞの仕事をしている。来る前にはとても想像できないまさに争いのない平和な空間が広がっていた。
私達が外の様子を見て、再びオルゲンを見ると
彼は話し始めた
「そろそろ追手が来る頃だと思ってな。変に隠し立てして方が皆に被害が出るかもしれない。こちらから話せば少しは事情を聞いてもらえるかと思ってな」
「事情って」
と尋ねると男は話し出す
敗戦後、国帰れず困り果てていると村人に助けられ、
他の敗残兵と共に村に移り住み、畑仕事を手伝いながら自らで山を切り開き集落を作ったこと
戦争で行き場を失った者達を招き入れていることなどがわかった
その事により山賊がいるのに平和な街や村
村の中にいる屈強な男、集落にいる子供たちの理由がわかった。
最後にオルゲンは自分はどうなってもいいがどうか他の者は見逃してくれと深々と頭を下げた。先程まで上機嫌だった彼が真剣な様子に嘘はないように感じた
おそらく彼がここで私達を殺して一人で逃げるのはそう難しくないだろう、それでも自分の命を差し出そうとまでするのはそれだけ大切なものがあるのだろうと私は思った。
少し困った表情をしてヨランダが彼に言った
「顔を上げて下さい。私達はあくまで非公式な調査で来ているだけです。今すぐここであなた達をどうにかしようとは思いません」
それを聞いてオルゲンは顔を上げた
「どういうことなんだ」
「さっき言ったとおりだよ。俺達がここにいることは騎士団でも少数の人間しか知らない」
テオの言葉にオルゲンは安堵した様子を見せるが
「でも報告しないわけにはいかない。あんたがこの周辺の治安に貢献していることも伝えるが、あくまで判断するのは上だ、それに少数とはいえ俺達がしばらく帰ってこなければ、その内騎士団本隊が動く。潮時なんたよあんた達は」
とテオは言い捨てる。彼がいっていることは間違いではない。オルゲンについては今のところ噂話だが、ガスパール隊長のように確かめようとする人はまた現れるだろう。ましてや街に近いこの村だ、まさに時間の問題なのだろう。オルゲン自身もそれがわかっているからこそ村の外から来た私達に自分から接触した。でも私には何をすれば彼らがこのまま過ごせるかはわからない。それでも諦められなかったので
「本当にどうにもならないの、このままこの人たちを追い詰めてもまた争いになるだけだよ」
と声を上げることしか出来なかった。
「俺もそう思うよ。現に街も村もなにもないんだぞ、街の衛兵だってこいつらの存在を知っていた上で放っておいてるぐらいなんだ」
とマティアスさんが続いてくれる。他の二人は何か考えているようだった。オルゲンはその様子を見て再度声を上げて頭を下げた。
「この国に危害を加えようなんてもう思っちゃいねー。俺達戦争に参加していた奴らはともかく、子供たちに何の罪もねーのはわかるだろう。だから、どうか」
その後、ヨランダさんがよしと声を出してから離し始めた
「わかりました。穏便に済ませてもらえるようにベルトラン隊長とガスパール隊長に進言しましょ、二人ならわかってくれるわ」
とヨランダさんが言ってくれた。それにどういことだとオルゲンが尋ねると
「この村が何とかなるかもしれないってことだ。ま、約束はできないが」
とテオが答える。それにオルゲンさんとアロイス君は喜びの表情を見せる
どうなるかと思ったが、とりあえずは話が纏ったのでほっとした。始めは信憑性のない噂話を調査するだけのはずだったが、まさかこんな終わり方になるなんて思いもしなかった。
オルゲンさんは私達にお礼を言って、昼食の用意をしているだろうから一緒にどうかと提案した。それを聞いて始めて自分が空腹だということに気がついた。それは私だけじゃなかったようで、少し考えてご相伴に預かることになった。
用意を手伝おうとしたが、オルゲンさんがくつろいでくれと言われて、手持ち無沙汰に待っているとアロイス君がテオの前に来て
「おい、おまえ、さっきのは何だったんだよ」
「何のことだ」
「俺と戦った時のことだ」
と話しかけて来た。テオも質問の意図がわからないようで
「吹っ飛ばされたことを謝ってほしいなら、したのはあいつだぞ」
とマティアスさんを指差した。マティアスさんは、はぁっと声を出したテオを睨んだ。彼の真意はそうでなかったようで
「ちげーよ、何でサシで俺とやらずに仲間に頼った」
テオは困惑していた。あんな表情をするのはなかなか見れないと呑気に思っていると
「だから何で腕が立つのに一人で勝ちに来なかったんだよ。仲間を当てにして時間稼ぎしてたことくらい分かってんだからな」
ここまで言われてテオは質問の意味を理解したようで
「訓練とは違って死ぬかもしれないんだぞ。可能性の高い方を選ぶのは当然だろ、ましてやあの時は敵が一人とも限らなかったわけだし」
それを聞いても引き下がりそうにない彼に
「勝つのは俺じゃなくていいんだよ」
と言って黙ってしまった。それを聞いて反応したのはオルゲンさんだった
「わははは、若いのに年寄りじみたを言うな」
と豪快に笑って、テオを見て
「どうだ、飯の後に手合わせをしないか。今度はサシでだ」
「わかった」
オルゲンの提案にテオはすんなり快諾した。そのときの彼は笑っていた。彼が本当に機嫌が良いときの笑顔は悪人のようになる。今回はそれだ
それに私達3人は驚いた。騎士団にいる時の彼は誰かと自主的に訓練する姿など見たことがなかったからだ。彼はどちらかと言うと剣よりも魔術を優先しているようで暇があれば魔術書を読んでいる姿をよく目にした。
そうして昼食を終えると二人の手合わせを見学することなった。今度は真剣ではなく、二人とも木剣を使うことになった。テオは一般的なサイズでオルゲンさんはその倍以上の大きさの剣を手にした。オルゲンさんはそれを軽々と片手でニ、三度素振りをした様子に彼の尋常じゃない怪力が見てわかった。それに不安を感じた私はテオの方を見ると気にしている様子はなかった。
二人は間合いをとって、しばらく動かなかった。
テオが先に動いた、オルゲンさんはそれにタイミングを合わせて巨大な木剣を横に振った。テオは身を低くすることで避け、そのまま足を狙うとオルゲンさんはそれを靴のは裏で受けた。そのままオルゲンさんは剣を真下に振り下ろした。テオは後ろに下がることでそれを避け、さらに距離を開けて、剣を持っていない方の手を出して陣を構築して魔術を使うようだった。それを見ると今度はオルゲンさんがテオに向かって走り剣を振り下ろそうとしていた。間に合いそうにないっと思ったときにはテオの魔術が発動し、辺りは霧に包まれた。
霧によって、二人の様子がわからないが何度かの打ち合いの後ボキッと鈍く何かが折れる音がした。霧が晴れていくと二人とも立っていることがわかりそれに安堵しているとテオの木剣が折れていることに気づく、手合わせはオルゲンさんの勝利となった。
それに一番に反応しているのはアロイス君だった。
「お前、剣と魔術両方出来るのかよ」
と興奮してテオの方にかけていった。
私は一連の流れが理解できず
「何があったの、何でテオの魔術は間に合ったの」
と二人に尋ねた
「演算の速さだよ。比較的簡単な魔術とはいえ、あれだけ迅速に発動出来るなんて、悔しいけど王都でもそうはいないよ」
「オルゲンさんの実力もやっぱり相当な物よ。相手の奇襲ともいえる不利な状況で打ち合いをして、さらに木剣とはいえ折るなんて」
と説明はしてくれたが、私はただ二人の話を聞くことしか出来なかった。
アロイス君が私達というかテオを強く引き止めるので、少しの間集落にいることになった。
アロイス君はテオに手合わせを強請って断られたが、それに負けず剣や魔術のことを聞いていた。テオも渋々だが答えていた
オルゲンさんが言うには彼と実力が近いものはおらず、初めて出会ったことがよっぽど嬉しいらしい。
山を降りる際に寂しそうにするアロイス君には申し訳ないが、よほどテオに懐いたらしいことに微笑ましく感じた。
それから日が暮れる前には私達は昨日泊まった空き家に戻り、オルゲンさんが気を利かせてくれて明日の朝に馬車を手配していくれるということなので、またそこで一晩明かすことになった。
長い一日に気疲れしてしまった私達は早く休むことにしたが、テオだけはオルゲンさんに聞きたいことがあると山の集落の方に行った。
翌朝、案の定というかテオだけが寝坊した。
それに少し呆れながらも彼を起こし、帰り支度をした。
村の出入口には馬車と見送りをしに来てくれたであろう。オルゲンさんとロゼッタちゃんがいた。以外なことにアロイス君はおらず、彼も朝はあまり強くないらしい
「お前さん達には関係のないことかもしれないが、何とぞよろしくお願いします」
とオルゲンさんが昨日を含めると何度目かわからないがまた頭を下げた。それこまでされると逆にこちらが申し訳なくなる。ただそれほどまでにこの人にとってこの場所が大切なのだろう
。ロゼッタちゃんとも別れの言葉を交わして、馬車に乗り込む。来た道をそのまま戻る順路に少しうんざりするが、調査の方が順調に終わったのだからと自分に言い聞かせる。馬車が走り去ると二人に手を振り、この村を後にする。この村がどうなるかは私達に掛かっているのだと思うと少し怖いがみんながいるから大丈夫だらう
返りの道中ヨランダさんが何か気がかりがあるようだったので尋ねると
「変な話かもしれないけど、なんか順調すぎるような気がして」
「どういうことですか」
「えっと、誰かに操られている、みたいな」
珍しく歯切れの悪い事を言うヨランダさんに何と言っていいかわからないでいると
「ごめんなさいね、仕事柄疑り深くなっているみたい気にしないで」
と会話は終わった。私も今回のことを自分なりに考えてみたが答えは出なかった
テオとフェリシア達が去った後の村の入口で大柄の男と少女が話をしている
「良かったのか付いて行かなくて」
「当たり前です。私が一緒にいればかえってあの子にも危険が及びかねます。当面は彼に任せることにします」
「ならいいが、お前あいつから聞いたが余計なことまで話したらしいな」
「仕方がありません。私はまだ貴方がたを完全に信用しているわけではありませんので、無理矢理にでも自分で確かめることにしたのです」
「だからってな」
「仕方がないでしょう。嘘がつけない性分なんですから」
「難儀なもんだな。そこまで自分の親に義理立てする必要があるのかね」
「側を離れたからといって、主を裏切ることは出来ません」
「まあ、なんでもいいさ、俺は俺の役目を果たすだけだ、お前さんの事情までは知らん」
「それは私も同じです」
という少女の表情には昨日までの無邪気さは一切なく、その容姿そのまま人形のように無表情だった。
王都に帰ってきた私達はもう日が沈みそうなのを見て明日の朝改めて報告する旨をベルトラン隊長に伝えてそれぞれの部屋に帰っていった。
翌朝部隊室に行くとそこにはベルトラン隊長とガスパール隊長の二人だけで他の団員誰もいなかった。
ヨランダがさん今回の内容を包み隠さず話すと、二人はしばらく黙って、ベルトラン隊長がそうか、ご苦労様と言ったあとヨランダさんが気になっていることを質問する
「それでオルゲンはどのような処遇になるんでしょうか」
二人は目を合わせて共に頷き、ガスパール隊長が
「現状維持だ、お前らも今回のことは忘れたことにしてくれ」
と希望通りの返答にテオが真偽を確認する
「剣の残党が確認出来ても、動かないと」
「あくまでとりあえずのことだ」
「僕も同意見だ、変に突いても争いの原因になるだけだろうし。何より直接目の当たりにして君たちの判断を信じたいんだ」
「良かった」
「勘違いするな。あいつの存在を公に認めるわけではない、あくまで当分は様子を見るという話だ」
私の喜びの声にガスパール隊長が否定する。でもと声を出すと
「周辺の治安にも役立っているという話だし、子供のことも踏まえてそうするということだからそんなに不安にならなくていいよ」
とベルトラン隊長が説明してくれる。
「はじめからそのつもりだったんですね」
とヨランダさんが呆れたように聞く
「君等が言っているときに、二人で話し合ったんだ。あくまで弾圧ではなく、この国の安全を優先するってね」
というベルトラン隊長の顔は嘘がないように感じた。普段からあまり何を考えているかわからないがこのことに関しては本当のことを言っていると思った
とりあえずオルゲンさん含めて、今すぐどうこうなることはないようで安心した。それを今すぐ彼らにも伝えたいが、かえって迷惑になることくらいは分かっているので代わり願うことにする彼らの安寧がいつまでも続くように
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