第7話 調査任務2
朝になって目を覚ますと同室のはずのヨランダさんの姿はなく、あるのはキレイに整えられたベッドだけだった。
身支度をして廊下に出て、1階に降りると既にヨランダさんがいて、宿屋の店主と話しているようだった。
邪魔するのはどうかと思ったので、一段落するのを待ってから声をかける
「おはようございます。ヨランダさん、あの、体調はとうですか」
「おはよう、フェリシアちゃん。昨日はごめんね。ちゃんと眠れたかしら」
昨晩の様子を全く感じさせないいつも通りのヨランダさんに驚愕していて、何も言えないでいるとさらに大丈夫かしらと不安にさせたようなのですぐに否定した。ここの宿屋は朝食を頼めば提供してくれるようなので二人で朝食を取ることになった。
「昨日は本当にごめんなさい」
食事を頼んで席に着くとすぐにまた謝罪をされてしまった。もう一度気にしていないと伝えたがそれよりも気になったのは
「本当に体調は大丈夫なんですか、無理せずに寝てていいんですよ。私起こすので」
「ありがとう、本当に大丈夫だから。私って結構お酒が抜けやすい体質みたいなの。だからこそちゃんと昨日自分がしたことはしっかり覚えているの。本当にごめんなさい」
「私は大丈夫ですから、それよりもいつもあんなになんですか」
「そんな毎回ああじゃないのよ。最近仕事が溜まっていて、それに加えて急にこんな無茶な仕事をあのアホが勝手に引き受けるから」
と続けた。あのアホとはおそらくベルトラン隊長のことだろう。この独立部隊は仕事が少ないと騎士団で有名だがそれは彼女の尽力があってのことだろう
「あの私これからはちゃんと頑張りますから。書類仕事ももっと覚えますから」
「フェリシアちゃんありがとう、でもね大丈夫だから。だけどたまにこうして愚痴に付き合ってくれると嬉しいかしら」
「はい、いつでも大丈夫です」
と言ったものの本音としては頻繁なのは遠慮したいが、この人にそんな事は言えない
王都に来てテオ以外の人とこんなに話すのはいつぶりだろう。ヨランダさんは優しくて、真面目で凄い人だ。きっと他の人ともこんな風になれる日が来るかもしれないなどとおもっていると、ヨランダさんが少し真面目な顔をしたので、話すのをやめた。
「本当はね。フェリシアちゃんは魔術に専念するべきだど思うの書類仕事や調査みたいな仕事をあなたにやらせるのは勿体無いことだから」
ヨランダさんも私の魔術の才能を評価してくれているようだ。私にはそれだけの才能があるのかと私は実感することはない。テオや他の人のほうが魔術に詳しく、私と違ってうまく使いこなせるていふのに
そんな話をしているとマティアスさんが眠たそうな顔をしてやって来る
「おはようございます」
「マティアス君、おはよう。そんな顔して大丈夫なの。今日から本格的に始めるのよ」
「誰のせいだと思ってるんですか、もういいです。ちょっと顔洗っています」
「ごめんね、今度なにか奢るから許して」
とマティアスさんは水場に向かった。話を聞いていると彼はヨランダさんの事情を知っていて、昨日は止めずに付き合っていのがわかる。彼も口はあまり良くない心根は優しい人なのだとわかった。戻って来て朝食を食べ始めたマティアスさんに対して
「そういえば、テオくんはまだなの」
「まだ寝てますよ。そういや窓際に変な鳥がやって来てずっと朝だどーとかうるさいんですよ。それで寝てられなくて」
と眠そうに目を擦っているマティアスさんをよそにその鳥の正体に気づく、ビアちゃんだ
「それは災難ね」
などと話している二人をよそに私は宿屋の外に出て、テオ達の部屋の窓を見る。すると色鮮やかな鳥がいることがわかる。そちらも私に気づいたようでこちらにやって来る。
仕方がないので、宿屋の店主に声をかけて、許しを得てからビアちゃんを連れて二人のところまで戻る
「あー、こいつだよ。こいつが言ってた変な鳥ですよ」
私達を見るや、マティアスさんは驚いた。
ヨランダさんも不思議そうにこちらに尋ねてくる
「フェリシアちゃん、この子は」
「えと、この子ビアちゃんじゃなくて、バイアーちゃんです。テオと小さな頃から一緒にいるんです。何か王都から付いてきちゃったみたいで」
「そんな事あるの、テオくんのペットってことはわかったけどどうしてここにいるのかは理解できそにないわね」
「何だよ。こいつも飼い主と一緒で訳解んないやつだな。普段人に世話されてるやつがペットなんて飼えるのかよ」
とそれぞれの反応をしていた。故郷の村から王都に行くときも気付けばテオの側にいた時は私も驚いた。
「それでその御主人様はどうしてるの」
「だから寝てますって、あんなに騒がしくても寝てられるなんて、あいつの耳どうにかしてますよ」
二人が急なことに困惑しているようだったので
「あの、起こしてきましょうか」
と尋ねるとすぐに了承されたのでテオの元へ急ぐ。部屋の前に着くとノックをして入った。
するとわざわざ何時間もかけて着いてきたこの愛鳥の御主人様はまだ夢の中のようだ
「テオ、とりあえず早く起きて」
と肩を揺らすと彼の目が開いた。彼はあたりを見回しておはようと呑気に言うものだから、ビアちゃんを彼の顔の前にやる。
それでも彼は
「なんだ、おまえまた着いてきたのか」
というものだから、流石に少し呆れてしまった。身支度もままならない彼を急かして1階の二人の元に戻る。
4人揃ったところで、任務よりビアちゃんの話を先にすることになった。現状の話を聞いたテオはそんなことかと自分のパンをビアちゃんにやって窓の外に離してしまった。そのことに私達は驚き、マティアスさんが
「そんなことして、大丈夫なのかよ、戻ってこないかもしれないだぞ」
「ああ、大丈夫。腹が減ったから俺のところに来ただけだよ。また腹が減ったらそのうち俺のところに来るさ」
心配されていることを解さないような様子で返す。それに二人は追求する気も起きていないようだった。おそらく納得したのでなく、理解することが出来ないと判断したのだろう
朝から一騒動あって疲れてしまったもののら約束した馬車の時間は変わらないので、早々二手に別れて任務にかかることになった。
そこでわかったのは、この街には賊の脅威はないということ。
誰に聞いても賊のことを恐れている人などいなく、むしろ衛兵の増員に伴い安全になったくらいだという声があるくらいだ。
一通り聞き込みがおわってから、再度集合した。ヨランダさんが切り出す
「で、どう思う。何か変なことはなかった」
「何の異常もない平和な街でしたよ」
「まぁ、だから変というのもあるんだけど」
「どうしてですか、平和なのはいいことじゃないんですか」
とつい質問してしまった。それにテオとヨランダさんが返す
「10年以上前とはいえここで戦争が起こっていたんだぞ。ましてや敵国のすぐ隣だ。戦後に敗残兵や戦争孤児なんてのもいたはずだ。それなのに街の中にも浮浪者や傭兵崩れみたいなガラの悪いやつもほとんど見かけない。整備されすぎているんだよ」
「そうね、いろんな御者に聞いて周ったけどこの辺の交易は他所の場所に比べて特に安定しているみたい」
「護衛の傭兵にも聞いたが、ここら一体では野盗すらほとんど出ないらしい」
「ただ衛兵に軽く聞いたら、モンタグ村の側にの山に本当に賊が住み着いているみたいなの」
二人の会話に入っていけずにいると
「平和で整備されているのはこの街の運営がうまくいっている証拠ってだけだろ」
とマティアスさんが怒りを隠さずに二人に言う
「ごめんね、マティアス君あなたのお父さんを悪く言うつもりはないの。ただこれだけ見事な運営が王都にまで伝わらないのが、ちょっと気になってね。それに山賊が放置している理由も分からないし」
「あのお父さんって」
「俺の父上だよ。この壁の向こうにある自治区に配属されているんだよ」
とぶっきらぼうにマティアスさんは答えた。彼からしたら自分の父親が何かの不正に関わっているかもしれないという疑うようなことを言われることに対して神経質になっているようだ。今はこれ以上聞いても答えてもらえないだろうと思い深くは聞かなかった。ふと自分が手に入れた情報をを思い出して、意を決して口を開く
「あの関係ないかもしれないんですけど、薬屋のお婆さんにからは戦争より前は野盗の被害はあったそうです」
それを聞き、テオとヨランダさんは顔を合わせた。そしてマティアスさんの表情はさらに険しくなった。それを無視してテオが
「戦後復興に乗じて何かしたのかもな。ここにいても何も聞けなそうだし、村に行くしかないか」
それを聞いてマティアスさんはテオを睨むが、ヨランダさんが
「はいはい、ただ街の運営は健全で今回のこととは何も関係ないかもしれないし、憶測だけで話を進めない」
と割って入って私達はとりあえずモンタグ村まで向かうことになった。
今回は荷馬車のようで、前日と違う空気も相まって余計に居心地は良さそうに思えなかった
私達は荷馬車に揺られながら、誰も口を開かず、ただ到着するまでの時間が過ぎるのを待つ。そんな事情知らない少し年老いた御者さんが
「あんたら、冒険者か何かなのかい、あんな何もない村に何か用かい」
と聞いてきた。事情を知らない人から見たら、若い男女の集団なんて真っ先に思いつくのは冒険者くらいだろう
その冒険者というのは各地を旅し、その土地でしか手に入らない貴重なものを調達して生計を立てている人たちだ。王都にも調達品を売りに来ているのを見たことがある。故郷の村にも極たまに冒険者と名乗る人が来たことがある。私はあまり気軽に話かけられるような風貌ではなかったので、遠目で伺うのがやっとだった。テオは私と違って、彼らに話をよく聞きに行った。彼も自ら話に行くような性格ではなかったので以外に思った。祖父が彼の様子を見てあいつもちゃんと男の子なんだと嬉しいそうにしていたのはよく覚えている。
「そんなところです。あの村に私の恩人がいるという報せを聞いたので、街に寄ったついでに久しぶりに会いたくなりまして」
ヨランダさんが事前に考えていただろう作り話をした。御者が興味を持ったようで続けて
「へー恩人ね、俺も村にいる人の名前くらいは知っている。なんて名前なんだい」
「オルゲンさんと言います。ご存知ですか」
ヨランダさんの言葉に全員の動きが止まった気がした。先程まで愛想の良かった御者さんは急に態度を変えて
「知らないね。本当にそんなやついるのか」
「ええ、もらった手紙にはそう書かれていたんですけど」
「まーなんでもいいが、窮屈だからって文句言うなよ。タダ同然で乗してやってるんだから」
と言って黙ってしまった。
そのことに全員不信感を持っていたようだが、その様子に誰も追求出来なかった
しばらく誰も口を開かず、重い空気の中、テオが急に口を開く
「さっきは悪かった」
謝罪の言葉に少し驚いた。その相手はマティアスさんなのはすぐにわかった。それは本人も同じなようで、バツの悪そうな顔をして言葉を探しているようだった
「俺も戦争孤児でさ」
彼が自分のことを話したことに私はさらに驚いた。彼は基本的には自分のことは話さない。私も彼の事情は祖父から聞いただけだった
「だからかな、あの平和な街を見たら、何で俺は違ったんだろうって思って」
そこまで何も言わずに聞いていたマティアスさんは
「俺もゴメン。わかっているんだ、あの街に何かあるかもしれないなんてことは」
「でも、父上は優しくて真面目な人だから」
謝罪をして、父親のために何か言葉に探しているようだった
「そこは疑ってない。お前は見ていたらわかるよ」
テオの言葉にマティアスさんは驚き、顔を背けて
「何言ってんだよ。恥ずかしくないのか、それに先輩に向かってなんでずっとタメ口なんだよ」
と言った。テオは軽く笑うのみで、二人の会話が終わり、また静寂が訪れた。
先程とは違い、心地良い空気となった。一連のことに嬉しくなり、顔がニヤけているのが自分でもわかった。そのことを指摘してくるテオに対して
「秘密だよ」
と返した。私は彼が人に歩み寄ろうとしていることがなぜかとても嬉しく感じた。
そうこうしているうちに景色が変わっていき、もう少しで村に着くようだった
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