1章少女はまだ何も知らない
第5話 幕間 鍬を握る理由
今日も農作業をする
戦争に敗北し主を失い、ただ逃げるだけの日々せめて生きている仲間だけはと思い斧を振るったが次第に力が抜けていき、ついには斧すら握れなくなった
真の忠臣なら仇討ちにと命を投げ出してでも戦うはずなのに、俺にはそれが出来ない
理由を分かっているくせに考えたくなかった
それでも仲間は俺を生かしてくれた
こんな戦いから、現実から逃げているだけのこんな俺を
敗北の日からどれだけ経ったかは定かではないが、自暴自棄になっていたそんな俺にある日
あの御方が訪れた、主を殺した女とともに
あの御方が言う
「まだ何も終わっていないよ、君に頼みたいことがあるんだ」
「勘弁してください。王があんな状態になっていたことにすら気付けなかった俺に出来ることなんてありゃしないですよ」
「あの事実を知っている君だからだよ、君にしか出来ないことなんだ」
俺の次の言葉が出る前にあの女が側まで来た
それに気づいても俺にはもうどうでも良かった
すると女が赤子を抱いていることに気づいた
それを見るとあの御方は
「この子を君に託したい、この王の血を引く子を」
俺の見ている景色に色が付いた同時に一気に現実に引き戻された
「どういうことですか、俺なんかより貴方が育てたほうがずっといい」
「それは出来ない、一番重要なことはこの子が王の力を継承出来る年齢になるまで守ることだ
それなら常に命を狙われ続ける私より腕っぷしのある君のほうが適任だ」
それを聞いても俺にはすぐに引き受けることが出来なかった、怖気づいてしまった
一度逃げた俺に本当にこんなことが出来るのかと
そんな俺の手をあの御方は優しく取り
「頼む、もう私に信用出来る者は君しかいないんだ、この子の力が将来必ず必要になる時が来る、それまでの時間は私達が稼ぐよ」
気付けば俺は手を強くに握っていて、あの御方は顔をしかめていたが、それでも何も言わずにいてくれた
それに気づくと何も言わずに手を離し、赤子に手をやった
小さな体だがやがて王の力が宿る
それはまた祖国を取り戻すことができることを意味している
女は無言で赤子を俺に手は渡すのでそのまま受け取ると女は深々と頭を過ぎた
それを見て
「あんたを責める気は元からねえよ」
その言葉に女は少し驚いた様子だったが、すぐに申し訳なさそうな顔をした
そしてあの御方に顔をやり
「任して下さい、この子を立派な王に育てあげてみせますよ」
するとあの御方は見たこともない優しい顔で
「ありがとう、もう会うこともないだろうが
どうか元気で」
と言い残し、女とともにこの場を去った
その姿が見えなくなると赤子に目をやると服に刺繍で
ルードウィク・フォン・エスターヘルム
それがこの子の名であることはすぐにわかった
だが別の名前を用意しなければ行けない、それにこの子の分の食い物もどうにかしないと気付けばやらなければいけないことで頭を埋め尽くす
そうこの子が俺の生きる目的になったのだ
あれから数年風の噂であの御方と女が死んだことを耳にした深い悲しみこそあれど絶望するほどではなかった
俺にはこの子がいるのだから
だから今日も鍬を握り、畑を耕す
その日が来るまでやれることはやる
あともう少しだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます