第4話 独立部隊
扉を開けると
「また寝坊なのテオ、急がないと今後こそヨランダさんに叱られるよ」
と何処か楽しげにいうフェリシアに理由が分からないので尋ねようとも思ったが
「はい、今日も朝ごはん持ってきたよ」
とサンドイッチを渡されたので黙って食べることにした。
その間に彼女はバイアーにもおはようと挨拶をしてビアちゃんと頭を撫でて楽しそうに可愛がっていた
このバイアーは俺よりも年上で気付けばずっと一緒にいる。王都に来る際にも着いてきた。俺の居場所がわかるようでいったいどういう方法を使っているか知らないが、
バイアーは窓を開けたままにしておくと勝手に外に行き、また夕方に戻って来る。いったいどこに行っているかわからないが、こちらも日中に世話が出来るわけではないので特に責めるつもりもない
今日は珍しく、俺について行くつもりのようで俺の肩に止まる
身支度を済ませて部隊室への二人で向かう
この部隊室は騎士団本部内にあるものの一番外れに位置している。当然寮からも遠く着くまでに時間がかかる
それが毎朝さのだからたまったものではないとを恨めしく思っていると
「いったい夜遅くまで何してるの
おじいちゃんも心配してたよそんなんであいつはやっていけるのかって」
と彼女が自分の祖父の似てない物真似をしていることに微笑ましくも感じるが答えはいつも変わらない
「秘密」
「何で秘密にするの、ずっとだよ」
「秘密だから秘密なんだよ、当然だ」
「ヒミツ ヒミツ」
と中味のない会話をしているうちに部隊室の扉の前に着いた。するとバイアーは俺の肩から離れて何処かに飛び去ってしまった
扉を開けて、中の様子を伺おうとする前に
「遅いわよ、テオくん
今日も遅刻じゃない、何時になったら一人で時間通りに来れるようになるのよ」
人の顔を見るなり、ヒステリックに声を荒げるの女は ヨランダ・シャルレ 年齢は聞いたことないがおそらく10ほど離れて、丁度フェリシアの叔母でコレットと同じくらいだろうか。この隊の副官で俺たちの上司で、基本的にはこの人が現場で指揮をとる
「あの、ヨランダさん、その、ごめんなさい
私がちゃんと早く起こさなかっから」
「フェリシアちゃんも甘やかさないの
こんなんだからつけあがるのよ」
「それに悪くないのに簡単に謝らないで、
一応騎士なんだからね」
名前を言われてもいないのにフェリシアが不安気に謝る
こいつは別にヨランダが怖いのではなく、単に人見知りをする性格で反射的に謝っただけだ
配属して半年が経とうとしているがまだ慣れていないそうだ。
当然ヨランダもそれを把握して、フェリシアに対しては困った表情で言う優しい声色になる
これもいつものことがなので、無視して自分の席に着こうとすると
「テオくん」と大きな声が響くのでいつものように
「すいません、ヨランダさん
以後気をつけます」
と謝罪をしてそのまま席に着く
その様子に彼女はまだ続けようとしていたが
「まぁーいいじゃいか ヨランダ君
この通り謝罪しているし、彼の遅刻癖はそう簡単になおらないよ
それよりもそろそろ本題に入りたいんだが皆いいかな」
静止というか諦めろと諭しているこの人は ベルトラン・パラディー 俺たち独立部隊の隊長その人だ
基本放任主義で牧歌的なようで掴みどころのない人というのが現状の印象だ
現場は基本ヨランダに任せきりで、自分はいつも机にいる。
年齢は30後半で、あまり整えられていない髪、隊服はいつもくたびれている
ちなみにフェリシアの文官の試験管の一人だ。この人が魔術を披露するフェリシアに強く興味を持ち強引にこの隊に入れたそうだ。おそらくこの人がいなかったらフェリシアはこの場にいなかっただろう
そんな様子を正面の席から冷やかして見てくる小太りの男がいる
その彼に目を合わせて微笑むとつまらなそうな様子で目をそらす
こいつは マティアス・ローラン 一応俺とフェリシアの2年先輩で騎士学校出身だが、体を動かすのが不得意で卒業はギリギリだと小耳に聞いたことがある
その代わり魔術を扱うことが出来、仕事に真面目な男で父親は僻地に飛ばされたが、騎士団の中ではそれなりの役職についているそうだ
ベルトランがそれぞれ仕事にかかるように指示する代わりに、こほんとせき払いをした
それと同時に扉が勢いよく開いた
「調査隊、仕事を頼みたい」
とノックもせずに男が現れた。凛々しい顔立ち、とシャンと伸びている姿勢、いかにも立派な騎士と名乗っているかのような風貌だった
調査隊とは当然俺たちのことである
独立部隊バフォメットこの大層な名前を使う人間は騎士団にいない、ほとんどは調査隊と俺たちのことを呼ぶ
独立部隊の仕事は本来魔術や呪術といった武力以外の力に対抗するためのものだが、そこまで複雑な魔術を使用できる出来る者なんてほとんどいない
居たとしても貴重な存在として研究機関や学院などでさぞ重宝されていることだろう
だから、俺達の仕事は騎士団本隊やその地方の衛兵では手が回らないような地方や未解決な事象を現地に赴き潜入し、調査することが主な仕事となり、なので調査隊と呼ばれている。現地に行くことで多くの時間が必要となり、成果を約束されているわけではない
こういう割に合わない仕事に就きたがる者はほとんどいなく、安易に騎士になれるから入った物はこの待遇に絶えられずやめてしまうものが多い。と言っても普段からそのような大層な仕事かあるわけではない。現に俺とフェリシアが配属されたから、王都を出るような任務はなかった。もちろん新人だからという理由もあるだろうが、ヨランダ以外のほとんどは他から回された書類仕事や簡単な雑務をこなし、各々好きにして過ごしている
だから
騎士学校の落ちこぼれや
出世競争に負けた者
能力があるものの、それをろくにあつかえない者
剣や魔術が出来ても特段重宝するほどでないものなど
他にも数名いるがどいつも似たりよったりだ
といった他の隊には入ることの出来ない半端者を集めるには丁度良い部隊となった
こんな弱小部隊ではあるが、2名上の入隊は数年ぶり依頼だそうだ、そいつらももうこの隊にはいないが
こんな所に志願して来ている変り者はヨランダぐらいのものだ
こんな隊が存続しているのは、王が大きく関わっている
理(コトワリ)の国 ファムドラクス
現王 ブレイズ・ルネール=ド・シェヴァリア
9年前に王自身が発案し、組織した
今のところ最もらしい成果は挙げられていないが、それを堂々と非難出来るものはいない
王の真意は分からないが、そのおかげで俺達は一応騎士でいることが出来る
先程力強く扉を開けて、神妙な面持ちで入って来たのは
ガスパール・フォール
騎士団本隊の隊長であり、ベルトラン隊長と同期で仲も良好だそうで騎士学校を首席で卒業し、そのまま出世街道を進んでいるらしい。
正義感が強く、人望も厚い、困った人は見過ごせなく本隊隊長という肩書のため自由に動くことが出来ないので時折この落ちこぼれ部隊に仕事をまわしてくれるありがた迷惑な人だ
でも隊長直々に来るなんて、珍しくいつもより険しい顔をしている
こちらの反応を確かめず一方的に
「山賊の調査を頼みたい」
「調査をですか
逮捕や討伐じゃなくて」
すかさずヨランダが当然の疑問を返す
すると ガスパールは周りに聞こえないように声を細めて
「あぁ 調査で間違いない
国境近くに住み着いた賊に剣(ツルギ)の残党の疑いがあってな」
それを聞いた一同に緊張が走る
この世界には5つの国があり
理(コトワリ)の国、剣(ツルギ)の国、明(アカシ)の国、命(ミコト)の国、牙(ソウガ)の国
それらを五大国といい、どの国ももうすぐ国立千年となる
その剣(ツルギ)とは剣の国メディスカルのことを指し、この国は16年前に理の国との戦争に敗北して王と共に滅んだはずなのだから
その様子を見てベルトランが
「まぁ皆一度話を聞こうじゃないか
それにガスパール、いきなりそんな話を出されて皆が混乱するだけだよ
あと、聞かれたくない話は静かにしたほうがいいと思うな」
ガスパールはすまないと一言謝り、そのまま状況を説明する
元剣の国との国境付近の山にでここ数年前から賊が住み着いていること
周辺の村にとくに目立った被害が確認されていない事
そしてその中に巨大な斧を持った熊のように大柄な男を見かけ物がいる問いうこと
話し終わるやいなや
「国境近くだからって剣の残党とは限らないでしょ、それに残党が関所を通れるはずがありません」
マティアスが興奮した様子で言う
マティアスが言う事は最もである。元々あった国境の関所は戦後すぐにより堅牢に改修され、警備も強化された。身分を保証できない者が通れるはずもない
「君の言う事もわかる、ただ斧の男というのが問題なんだ、そいつが俺達の思っているやつならまた戦争になるかもしれない」
戦争という言葉でマティアスが怯んだのを見て
ベルトランが説明する
「かつての剣の国では、巨大な斧を扱い名を馳せたオルゲンという猛将がいてね、今回はそれを確認するのが僕たちの仕事ってことでいいのかな」
「あぁ 話が早くて助かる、たが内密に頼みたい」
「ならもっとやり方があるだろう、相変わらず君はこういうのに向いていないな」
とベルトランとガスパールが話を続けていると
「ちょっと待ってください。そんな重大な事なら本隊が動くべきじゃないんですか、それに関所の衛兵は何をしているんですか」
とヨランダが割って入る
ヨランダの問にガスパールはなぜか言葉を詰まらせる
その様子を無視して俺も質問をした
「で、情報の出処はどこなんですか
関所からの報告ってわけじゃないんでしょ」
ガスパールはいや、そのと歯切れが悪い言葉を口にして観念したかのように話し始めた
「王城の使用人のジャンが国境付近の町と王都を行き来している行商から聞いた話だ、その行商も周辺の村から聞いた話だそうだが」
「それってただの噂話を確かめろってことですか」
戦争という大層な話からなぜか村人の噂話になってしまったことに一同が呆れていると
「いやお前たちの言いたいこともわかるが、万が一ってこともあるかもしれんだろ、見過ごすわけにいかない」
「それに害がないから放置こそされているが、賊の存在自体は確認されているしな」
正義感あふれる本隊長の言葉にどう返したものかと思案しているところ
「要は噂話に騎士団本隊が動いて、かえって混乱を招くより暇な僕らがいったほうが都合がいいっていう話だろ」
とベルトランは微笑みながらそう言うとガスパールは居心地悪そうな様子だ
「本隊長様直々のお願いだ無下には出来ないな、丁度今いる4人に行ってもらうことするよ」
ベルトランの言葉を聞いてガスパールは表情が明るくなる
「助かる、お前が同期で良かったよ」
とほっとしている
その指名された俺とフェリシアとマティアスはヨランダの顔を見ると、苦笑いで首を横に振られたので抗議することに意味がないことを理解した
かくして、騎士団に入団後初めての遠征任務が決まった
任務の詳細は山賊にオルゲンという男が本当にいるのか確認すること
期限はとくに設けられず、方法もこちらに任せるそうだ
出来る限り山賊と王都両方を刺激したくないので騎士団として行動せず、表向きにはしばらく休暇となるその間の俸給と軍資金はガスパール隊長本人の財布から出してくれるそうだ
ちなみに軍資金は俺達の一月分をゆうに超える額に一同おどろきを隠せなかった。流石同期一の出世頭だと関心した
フェリシア、マティアス、ヨランダと俺の4名で調査任務に当たることになった
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