第13話 熱い実験
「え、えっと……!」
言葉がうまく出ない。顔全体があり得ないほど熱い。ウェルナークの瞳に真っ赤になったフリージアが映っているだろう。そう思うと顔だけじゃなく身体全体が熱くなってきた。
この熱は昨夜のときと同じだ。
「――あ」
見ると腕から青い魔力が出ている。
「んにゃ。成功だ」
「やったわ! ちょっとだけそのままでいて!」
「そのままって……どうするんですか!?」
塔の上にある小さな板が、ぐるんぐるんと高速回転する。でも身体の熱は少し落ち着いてきた。同時に腕から出る青い魔力がちょっとずつ弱まっているように感じる。
「ああ! 反応が小さくなってる! 魔力の発現はそのままにしておいて!」
「で、でも! 勝手に小さくなっていきます!」
「……ならば、これはどうだ?」
ウェルナークがすっとフリージアの髪をかき上げる。
寝ている間、背後から抱きしめられていたのに比べれば、大した接触ではない。ウェルナークの白くて長い指がフリージアの髪をいじり、おでこに触れる。
たったそれだけなのに――ウェルナークの体温に接すると、今はなぜか身体がかっと熱くなる。
「うっ、うう……っ」
「そうだ、その調子だ……」
ウェルナークの柔らかい指が、ずっとフリージアのおでこと前髪を触っている。フリージア自身でも全くわからないが、熱が高まり続けていた。
「おおお! いい感じ! あともうちょっと!」
「うにゃにゃ! ぐるぐる回ってる!」
「だめだよ! 触っちゃだめ!」
「わかってるにゃ! 見てるだけ!」
ミーナとラーベは絶対にこちらを見ていない。自分の目の前しか見ていない!
でもそれで良かったかも。真っ赤な顔を見られないで済むのだから。
「やれやれ……。身体に異常はないか?」
「あっ、えーと……はい。うまく魔力は出ていますか?」
「問題ない。昨夜に比べると安定しているように見える」
「言われてみると、そうかも……」
髪を触られながら、フリージアはじっと両腕を見てみた。熱はまだ続いており、魔力も出ている。
「目を閉じて深く息を吸って吐いて――身体の魔力を押し出すような感じだ」
「やってみます……!」
フリージアは目を閉じて、息を吸って吐いた。
……こうしているとなおさら、ウェルナークの指先を感じる。でも同時に胸の奥に熱があるのがわかってきた。
(この熱を前に……)
さらに強く目をつぶって……熱を手で動かすよう考えてみる。するとぐぐっと熱が少しだけ身体の奥から表面に動いた気がする。
「そうだ、よくできている。その調子で、ゆっくりでいいから」
「は、はい!」
熱は放っておくと身体の奥に戻ろうとしてくる。目は閉じたまま、フリージアは身体の熱を前に出そうと続けてみた。しかしだんだんと熱が『戻ってくる』力が強くなっていくような?
落ち着いてきてしまっているのかもしれない。
少しの間そうしていると、耳元でウェルナークがささやく。
「焦らないでいい。失敗してもいいから」
「ひぁぁっ!?」
ウェルナークの息が、左耳に当たった!
同時に熱が戻ってくる力が弱まり、外に出しやすくなる。
(ま、まさか……! この実験の間、ずっとこんなことが!?)
やがて10分ほど経って、ようやく実験が終わった。
フリージアは椅子に座ってぐったりとしてしまっている。魔力を出すのに疲れた、というよりはウェルナークのあれこれに反応しすぎてしまった。
いや、考えてみると大したことはされていない……。ちょっと顔や髪を触られ、耳元で励ましてもらっただけだ。接触で言えば、寝ているときのほうがずっと多かった。
でもどうしてか、熱を持っているときにウェルナークに触られるとおかしくなってしまう。
(そうだ、さっき愛してるとか言われたけど……あれは嘘だよね……)
さすがのフリージアでも、あれは魔力を引き出すための嘘だとわかった。そうでなければ、ウェルナークがいきなり愛しているなんて言うはずがない。
フリージアの目の前にはウェルナークが用意してくれたリンゴジュースがある。飲むと、じんわりとした甘さと苦さが身体に広がっていった。
――そう、わかっているはずなのに。
ウェルナークはとても優しい人で、こうしてフリージアに付きっきりでいてくれる。昨日から、夜の寝ているときも、今もだ。
「どうやら実験は成功のようだな」
「よ、よかったです……」
なのにどうして、フリージアの胸がちくちくするのだろう。まるで木の棘が胸の奥に、見えない奥に刺さったみたいだった。
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