第17話  とある会議室での日常(4月某日)


某会議室

「みんな揃ったようなので始めましょう」


私はそう宣言して書記の子を見る。


里美さんは軽く頷くと、きれいな字で黒板にチョークで議題を書き出す。


【本年度の新一年生の大華】と


描きながら、だんだん彼女の眉間にシワがよるのが判る。


「ねぇ、いい加減ホワイトボード買ってくれない? これ結構手が汚れるんだよね。 あと制服にチョークの粉がついて落とすの大変だし」


「なら素直にスモックを着なさい。

ピンクで可愛いのが有るでしょ」


私がそう言うと彼女は心底嫌な顔をする。

贅沢な子ね あれ可愛いのに


「あのスモック幼稚舎から変わりませんね」

会計の小林さんがぽつりと言う。


「ええ、とても愛らしいわ」


キリンさんとか熊さんとか象さんが描かれていて!とても可愛い!


「私は好きだけど」

そう言ったら


会長はアレだからとかんとか失礼な声が聞えてきた。


「贅沢は敵よ!うちの学校は貧・・・コホン・・・物持ちが良いのよ 」


「いや言い直しても皆知ってますよ」


私は話題を変えるべく無理やり声を貼りあげる。


「ええっと、皆さんも既にご承知の事と思いますが、我が高校は今年度から男女共学へと生まれ変わりました」


わーぱちぱち


そこ拍手はいらない

「どの県でも生徒数減少は止められなかった。

それは地方都市の女学校の経営を直撃。

今年も定員を割った

共学待ったなし


対策として、3年前からすでに中等部は共学化している。

お陰で中等部はそこそこ人が集まったらしい」


実に羨ましいことである。


「だから、高等部生徒数減少を食い止めるのは今年4月からの中等部からの男子生徒に架かっています」

居ないよね。男子


「その男子なんですけど、ほんとに居るんですか。数字だと20人は高等部へ進学している筈なんですけど」


「そんなに居るの?見たことないよ」


「そうね」


ほんとどこに隠れているのかしら

出てきなさいよ。


「男子生徒もう絶滅したんじゃない?ほらレッド何とかだよ」


うん、わからないなら言わない方がいいよ


実際、彼以外校内で見た事が無かった。


「まぁ、どこかにはいるはずだからさ。気長に探して? 」

「頑張るわ!」


彼氏いない歴年齢の彼女は、実は年下好きと・・・

うん、ゲットできるといいね


*


「でも今年の新入生大当たりよね。大輪が3つも咲いているわよ」


女子校時、外部からの新入生の事を華が咲いたと例えていた。

花園だからね


その中でも一際目立つ女生徒のことを大輪の華と呼んだ。


外部性が早くなじめるようにと希望をこめて。



因みにそのアイディアの大元になったのは、とある少女向け小説だったらしい。


私は知らないけど。

考えた人偉いよね、感謝を


*


大輪の華に選ばれた生徒には上級生からのサポートが付く。


外部生だけで固まること無く、少しでも早く学校に馴染めますように。


そして時代は移る。

今では外部生に限らず、新入生全般を華と呼び、特に目立つ子をサポートしている。


理由は酷く生臭いものだった。

女子高とは残酷でもある。

仲間意識が強すぎて容易に他者を排除してしまう


出る杭は打たれる。

ならこうしましょう。


【折れない位太い杭にしましょうと】


まさに脳筋である!

うんと目立たせましょう。


それこそ虐めなんて起きないくらいのスター性を持たせる。

何とも荒っぽいやり方だけどそこそこの成果は出していた。


それが今年は3人も居るとは


*


1人目

1年C組のお嬢こと吉田優子さん。


白い肌にロングストレートヘア。

いかにも清楚系な見た目に反し、とにかく口が悪いとの事


とにかく見た目に騙されて告白した中等部男子生徒多数。

その純情な男の子達を満面笑顔で奈落へと突き落とす容赦なさ。

撃墜王!

そんなあだ名すら生ぬるい

冥府の女王

黙っていたら美少女なのが残念。



次は1年A組の演劇少女 高橋こずえさん。

170を超える高身長に長い手足で舞台中を駆け巡る。


その舞台映するメリハリのある顔。大きくて良く通る声。

兎に角暑苦しい!

いや元気があってよろしいよ。


最後に

1年A組のゆーくんこと田中雄一君彼は男子初めての華。


とにかくかわいい!


その声も仕草も話し方さえも。

中性的なその声はボーイッシュな女の子を彷彿とさせる。


故に男子でありながら、ヅカ的意味で女子のファンが多い。

可愛すぎて好き!


「会長鼻血が」

ぐはっ、テッシュテッシュ。


はぁ・・・ゆーくん。すき過ぎて辛い。


彼の名前を呼んだだけで、悶え苦しむ。

こんなにわたし達を惑わすなんて、とんだ悪女だよ。


この高校に入ってくれありがとう。

こんな私この先まともな恋愛できるかな。

少し心配だよ。

ゆーくん基準でバグるから。


入学式に生徒代表として参加した私は、その日のうちに彼のファンクラブを結成した。


あ、新しい動画アップされてる!

スマホを操作して動画共有サイトにアップされたばかりの動画を再生する。


登校途中のゆーくん


挨拶運動で頑張ってるゆーくん。


複数の会員によってアップされた動画は、お昼の時点で再生回数4桁。


さすがだよ。我が同士たち!


どの部活動よりも最多部員数を誇る

のは伊達じゃないから!

その機動力は報道部を軽く凌駕する。


ウワサでは生徒会の上部組織と言われてるよ!真実だけど。



「あの会長? 盛り上がっている所悪いけど、そろそろ議題の方始めますよ。今のペースだと予算間に合わな良いから。良いの?推しの活躍見れなくなるよ」

「やだ」

はぁ 私は身を切られる思いでスマホをそっとポケットにしまう。

またねゆーくん。


「待たせてしまったわね」

「いえ予定通りです」 そうですか


そんな小憎らしいことを言うさーちゃんにわたしは軽く頷く。


「それではこれより第17回天文部主催の町おこしイベントについて説明致します」


私は笑顔で宣言した。


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