第12話  演劇部員の熱情(4月10日昼)

お昼休み 

まだ午後の授業まで時間があった。

奇跡的に彼女と和解出来た僕は、クラスに帰るなり副委員長に捕まった。


「朝はどうして逃げたのよ!」

「いや・・・つい?」

やっぱり朝の件を聞かれた。校門で僕と彼女がやった寸劇のことだ。


「なんですか今朝のあれは!どこの劇団に入っているんですか。でなければあの演技は納得できませんよ。思わず見とれてしまったじゃないですか。さあ今すぐ正直に吐きなさい!あなたのその秘密を!」

彼女の剣幕に周りのクラスメートは興味津々だった。


(はい昔やってました。あとプロダクション的にはまだ在籍してます。今はただの素人ですよ)


絶対面倒なことになるよね

僕の平穏な生活のためにシラを切ろう。


「えーっと、どこにも入ってないよ。独学だよ」

そう言ったら彼女は目を見開きプルプル震えだした。

あれ怒っている?


「そう!わかったわ。天才ってわけね! いいでしょう」

高橋さんはそう言うと、僕をきっと睨んだ。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「あなたがあくまで秘密にしたいなら、これ以上は聞かないわ。それに悔しいけど今の私じゃあなたに勝てない。」

勝ち負けだったんですか。 あと睨むのやめて!


美少女に睨まれるなんて扉が開きそうだよ!

なんの扉かは言えないけど!


「言いたくないならもう聞かないわ。だけどお願いがあるの。私と次の演劇祭に出て欲しいの」


「演劇祭?」

僕がポカンとしていると、隣の席で聞いていた井上さんが説明してくれた。


「演劇祭って言うのはね、この辺りの中学高校などで年一回やっている演劇のイベントのことだよ。優秀な団体は全国大会に推薦される特典付きだよ。」


「マジか!」

今はそんな物があるんだ。ちょっと楽しそう!


「井上さんが言う通りよ。私は今度の大会でなんとしても優秀賞を取りたいのよ。でも主役を張れる人が引退しちゃってね。いまじゃあたししかいなくて困っていたんだ。そんな私に希望の光がさしたの!」

そう言うと彼女はすっくと立ち上がり、両手を広げて叫んだ。


なにか始まったよ!


「そんな悲しみと絶望に打ちひしがれた時、燦然と現れたのが田中くんあなたよ!その卓越した才能!見るものを虜にするカリスマ性!愛らしい笑顔!思わず心のなかでキターって叫んじゃったわ!」


うん。現れるんじゃなかった。

あと最後の方の愛らしいって


「そんなに演劇が好きだったんだ」

これは母さんの話も受けてくれそうかなー


「それでね!今年は流行にのって「ざまぁ系」やるつもりなの!」


ざまあ系?・・・なにそれ


「ざまあ系っていうのはね、主人公をいじめてた悪役が転落するラノベ流行のジャンルだよ」隣から井上さんが説明する。

でも悪役が主人公だなんて ラノベ始まったな!


僕はわくわくしながらそんな事を思っていた。


「婚約破棄された令嬢が隣の国の王子様とラブラブした挙げ句、婚約破棄した王子の方が逆に廃嫡されたり。 他にも冒険者パーティーを追放したイケメンパーティーが転落する、主人公俺つえー物とかもあるわね!

井上さんがイキイキして喋りだした! めっちゃ語ってるよ!


「彼女の言う通りね。勧善懲悪でスカッとするストーリーなので、まず外れはないわ」

「そうなの!スカッとするの!だからあたしはそればっかり書いてるの!」

最後ポロッと言っちゃったみたいだけど。作者さんですか。投稿とかしているとか


「今朝の貴方の紳士っぷり。これだわって感じたの!」


ふむ。やっぱり才能は隠せないか

ふへへ

僕はだらしなく笑い彼女に聞いた。


「なるほど。僕が王子様役なんだね」

「え、違うよ」


ん 話の流れだと、僕がざまぁされる王子様役だよね。あってるよね。

それとも俺つえーのイケメンか?


僕が混乱していると彼女はスマホである画面を見せた。

委員長にやって欲しいのはこれよ!


【異世界にTS転生したけど、能力が保母だったので全力でシスターやってます!可愛い子供達を守るため襲いかかる借金取りに借用証書を書き換えるスキルが無双する!】


見るからにやっつけ仕事だよ! 

あと文書偽造を宣言したよ!


「ゆーくんにはこの可愛いお姉ちゃんをやってもらいたいの!」

「シスターじゃないの?」

「なに女の人やりたいの?」

彼女たちは冷たい目で僕を見る。


「いや違くて。そんなんじゃないから

ただ主役というからそう言っただけで、自分から女装がやりたいわけじゃないから!」


「大丈夫安心して。あなたの役は【お姉ちゃん】よ!」


は それ女性役じゃないの?

「お姉ちゃんは性別【お姉ちゃんよ】!」

「なに高らかに宣言してる! お姉ちゃんだって女性でしょ」

「田中くん、あなたお姉ちゃんをそんな邪な目で見てるの。ひくわードン引きよ」


いや・・お姉ちゃんだと・・

幼少期の悪夢 を思い出すから。現在進行形でもあるけど。


「それじゃあ早速だけど、今日の放課後からよろしくね。部長からあたしが話しておくから!」

はい決定 

拒否権を発動します!



とりあえず仮入部ならと言ってようやく開放してもらえた。


あ 母さんに頼まれてた事聞くの忘れた


「がんばるぞー」

「おおっ!」

いや井上さんも参加するの。あ、脚本ね


なし崩し的に 流される葦のごとく 僕の演劇部仮入部が決定してた。


どさくさに紛れ母のトレーニングの話をしたら

今はそれどころじゃないと断られた。

案外欲がないね

まあ有名な女優とは言わなかったけど


*

「じゃあこれちょっと読んでみて」」

そう言って手渡された脚本を見ながら演技をする。

「え、なんで? どうしてそんなに短いセリフを間違えてるの。嘘でしょ?」


嘘なら良かったです


高校生になって記憶力が上がったけど

やっぱり僕は台詞は覚えられなかった。


「覚えるまでは返さないよ!

「せめてもう少しセリフ減らして下さい」

「却下!」

はい


でも久しぶりの劇は厳しかったけど、少しだけ楽しかった。

 


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