第13話 高橋さんの疑問 (4月7日金曜日)
入学式
入学した高校のクラスに妙に気になる男の子がいた。
本人はなんにも考えてないのか、周りの女子の視線に気づくことも無くのほほんとしていた。
何が楽しいのかよく笑ってた。
あ、 かわいい
「何見てるの」
「別に」
「ああ、田中くんね」
絶対保護対象。
誰も彼の穏やかな生活を乱すべからず!
いつの頃からそんな認識が、クラス女子の間に共通認識として発生した。
だけど同じクラス委員は別なんだよね。
ふふふ
*
彼は委員長になってからも普段通りで、私は副委員長!
すぐ側で彼を見ることが出来るんだよ!
ニヤニヤが止まらないから!
一方、ジャンケンと言う戦い敗れた女子達は血の涙を流したとか。
勝負は時の運
常に非情に徹せよ
気に止めるな
あれは明日の私の姿だ。
「くっ、あたしジャンケンは弱いからな」井上さんが悔しそうに自分の手を見てつぶやいた。
ジャンケンが強くて本当良かった。
そんな人が羨むあたしに更なるサプライズがやって来た!
風紀委員
ある日担任に風紀委員の仕事を手伝って欲しいと頼まれた。
部活に急ぐ途中だった私は、話半分でその事を聞いていた。
だって部活動をしている者は委員会活動は原則免除だから。
その話はその場で忘れていた。
たまたま校門の近くまで来て、その声を聞くまでは。
校門のそばに彼がいた。
田中くん。
私達の癒し
彼は校門を潜る生徒一人一人に、大きなで挨拶をしていた。
急に声を掛けられた女生徒は、みな顔を赤くして俯きながら去ってゆく。
羨ましい。
私だって声を掛けられたいよ。
女生徒達の挙動に気付くことも無く、彼はその被害を拡大して行った。
まさに死屍累々。
そんな時、私の目に1人の女生徒が目に入った。彼と楽しそうに話していた。
しまった!
私は己の失策に気付いた。
そうだよ、他のクラスに彼の取り決めは適用されない。
そんな当たり前の事に今更ながら気が付いた。
私は慌てて彼のそばへと駆け寄った。
合流した私は、ひたすら彼の愚痴を聞いていた。
「高橋さん部活やってるんだ」
そんな彼の一言にちょっとした悪戯を思い付いた。
彼を驚かせたい。
そうして私は即興で舞踏会の挨拶のシーンをして見せた。
彼は私の演技に見とれていた。私は頬が緩むのを抑えられなかった!
好印象を残せた!
しかしあたしの小さな自己満足は、次の瞬間粉々にされた。
え、なんで!
彼は私の演技に合わせるようにして、即興で劇をして見せたをしてみてた。
彼は偏屈な辺境伯を演じて見せた。
唖然となった。
同時に悔しさを感じた。
ちょっと待って、
何これ何なの!
その洗練された動き。
流れるように繰り出されるセリフ
ほんのそれだけのはずなのに、あたしは戦慄した。
そんな時間は一瞬で終わり、彼は素早く体を戻し、何事も無かったように、風紀委員の挨拶を繰り返していた。
頭が回らない。
でもこれだけは分かった。
彼しかいない
演劇祭での主役はもう決まっていたけど実はあたしは不満だった。
私がやりたいのはもっと熱くなれるなにかだ。
その場を後にして私は再び演劇部の教室に向かった。
見つけたわ!
あの役にぴったりな彼を
あせる気持ちを抑え、私は部長に劇の配役変更を進言すべく駆け出した。
すれ違う人がなぜだか私を避けるようにしていた。
走りながら私は笑いが止まらなかった。
よし!がんばるぞおおおおおお!!
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