第10話 和解と妥協(4月10日月曜日昼)
戻ります
昼休み
約束なので、高橋さんに説明しないと。
僕は彼女に説明しようと席を立ったところ、誰かに腕を掴まれた。
振り返ると僕の元カノだった。
「どうしたの?」
「ごめん、ちょっと来てほしいの。 大事な話があるんだ」
「ここじゃ出来ない?」
彼女はコクリと頷く。
「高橋さん話は後で」
そう言うと僕は教室をあとにした。
*
風紀委員室前
・・・どうして風紀委員室の前に
「ここは人が来ないから」
「いいけど高橋さんも一緒の方が良かったんじゃない?」
「別にいいわよそんなこと。あたしはどうしてもゆうくんに話さなくちゃいけない事があるんだ。」
だからお願い聞いて下さい。
*
部屋に入るなり、彼女は僕に向かって深々と上体を曲げ頭を下げた。
「ゆーくんごめんなさい!きっとあたしはゆーくんを傷つけた!だから誤りたいの。本当にごめんなさい!」
僕は驚いて彼女を見る。
その目には薄っすらと涙が浮かび、握った拳は小さく震えていた。
*
「ゆーくんが携帯壊れたって言った日、私は兄さんと偶然会ったの。
でも数日ぶりに会ったお兄さんはちょと疲れた様だった。
私は少しでも元気になってもらおうと、嫌がるお兄さんを無理やりフードコートまで引っ張っていったの。
「2人で会ったのはその時だけ。何もしてないよ」
あ、ごめん手は繋いだかも。」
「まだ好きなんだ」
僕は無意識にそう呟いていた。 違う。こんなことを言いたかった訳じゃない。
彼女は首を振ってみせる。
「ううん、今はゆーくんが一番好き。 お兄さんの事はとっくに吹っ切れてるから」
そう言いきった目は驚くほど真剣だった。
*
彼女は昔から兄の事が大好きだった。
最初の告白は彼女が小学校を卒業したその日。呼び出した兄に見事玉砕。
「うーん。妹としか見てなかったから。ごめんね」
「ふえええええええええ」
その日ギャン泣きして大変でした。
その日はいつまでも彼女を慰め続けた。
*
「ゆーくん?」
彼女がおそるおそる僕を見上げる。その瞳は小刻みに震えていた。
きっと彼女の言葉は本当なんだろう。
でもきっと、今でも好きが残っている。消えないだろう。
「僕の方こそごめん。なにも聞かないで勝手携帯解約して。」
やっぱり・・そう彼女は小さくつぶやく。
彼女も多分気持ちが追いついていなかったんだ。
*
彼女が僕に告白したのは、兄に振られてからわずか2週間くらいあとだった。
だから本当に僕のこと好きなのか疑問だった。
失恋の痛手を忘れるには新しい恋が一番! 古今東西不滅の条文である。
だから彼女は時を開けずに僕に告白したのだろう。
それでも思う。
もっとゆっくりと時間をかけていたらと
彼女の兄への気持ちの整理はそんなに軽いものじゃないんだから。
*
兄の高校の卒業式
彼女は決死の思いで告白し、見事散った。
今だから思う。
あのときの告白は変だった。
振られたというのに彼女は泣く事がなかった。
これが成長したという事か!
それどころか
「ゆーくん聞いてよ! あたしまた振られちゃったよ! こうなったらやけ食いしかないわ、ケーキ食べに行こう!ショッピングモールのケーキ屋さんで。もちろんゆーくんの奢りで!」
「なんでそんなに元気なんだよ!少しは落ち込むだろう普通」
「ふへへ」
彼女は振られた直後だと言うのに笑顔だった。なんだかスッキリとした表情。
意味がわからなかった。
だけどそんな彼女を見るのは好きだった。
その時落ちてしまった。不治の病に。不覚である。
振られたばかりの彼女はそれを感じさせないくらい輝いていた。
今まさに大輪の花が咲き誇るかのように。
いつのまにか、僕の幼馴染は誰もが認める美少女になっていた。
これはまずい
今を逃せば、彼女は二度と僕に告白することはないだろう。
今は失恋した動揺で混乱しているはずだ。
その証拠に振られたばかりだと言うのに、僕と楽しそうに話しているじゃないか。
あと数週間もすればこの笑顔は共通認識となり、僕は独占視聴権を失う。
イケメンに取られるくらいなら僕が取ろう!
そうして僕は 彼女の彼氏になった。
*
僕は大きく深呼吸して彼女を見て言った。
信じるよと
「ほんと、良かった」
安心して彼女は床の上に座り込みそして
今日始めての笑顔を見せた。
「嫌われたかと思ったんだから」
僕が嫌うことはないよ
ホントかなーって彼女は小首をかしげている。
ホントだから
そうと決まれば覚悟しよう
まずはノーガードで彼女を信じる
そして裏切られたらギャン泣きして困らせてやろう
ドン引きした彼女を想像して、僕は少し笑った。
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