第7話  早朝と遭遇と(4月10日月曜日朝)


 翌日

「委員長おはよー」


「おはようっす!委員長!」


「おはよう書記長!」


おい、誰か違うこと言ったな! 

変なの混じってたよ!

混ぜるな危険って知ってる?


 

校門で登校した生徒に挨拶を交わす。

ついでに服装チェック

これって委員長の仕事でしょうか。なんだか違う気がする・・知らんけど


「1年! 声が出ていないぞ!」


「すみません!」


 考え事してたら背の高い3年生に怒られた。

 

「はあ、ちゃんとやるか」



 *


 *


「はい? 先生いま何と」


「これから風紀委員と合同で、朝のあいさつ運動に向かって」


「あれ言ってなかったっけ?」


 はい全くの初耳です。


 僕が先生を見ると彼女はさっと目を逸らした。


「まあ、いま伝えたからいいじゃない!」


「そんな~」


「じゃあよろしくね!」

 そう言うと、担任の教師は逃げるように去っていった。


 いや逃げたよね。


 *


「こんにちはー誰か居ませんか」


「居ないみたいね」


 風紀委員の部屋を聞いて向かっていると、同じように向かっている生徒をみつけた。

 彼女に聞いてみようと背中から声をかけると、タイの色から同じ一年とわかった。


「ねえ、風紀委員の場所ってここであってるよね」


「たぶん?」


「なんか頼りないなー」


 いや知らんのはお前も一緒だから。

 そんな事を考えながら誰か来るのを待っていた。


 しばらくドアの前で待っていると誰かがやってくるのが見えた。


「ごめーん、待った?」


 風紀員の方でしょうか? 先生に言われきました。


「よろしくお願いします!」


「お願いします!」


「元気があってよろしい! でもそんなに固くならなくていいからね。あいさつ運動だけは4月中は毎日やりたいのよね。でも私たちだけだと人数が足りなくてね」


 彼女はそう言って、照れながら頭をかいていた。

 彼女。風紀委員長の一条さんはとても気さくな人だった。

 1年生の僕たちにも分かるように、風紀委員の活動について説明してくれた。


「細かいことはうちらがやるので声掛けをしっかりお願いね」


「はい!」


「良い返事だよ」ふふふと笑って、はいって僕たちに腕章を手渡した。 

 おお、これは!無性に団◯長って書きたくなった!


 ちなみに風紀委員は各クラスに2名程いるらしい。全学年だと38人。

 それに学級委員が加わると ・・・え、多くね?


「そう言ってもみんな部活とか入っているから」だと。・・・まあ1割来たらいいほうだとか。


「今日は最初だからそばで見ているだけでいいから」


 そんな甘言を信じた自分を殴りたい!


 最初は確かに見ているだけだった。

 でも委員長がいなくなったとたん、2年の先輩が本性を表した。 

 目が怖いんですけど!


「言わなくてもわかるな!」


「イエスマム!」


「声掛けすればいいんですよね!」



 *



 ・・・そうして今に至ると


「何ブツブツ言ってるの?ちゃんと声出して」


「おはようございます!」


「おはよー」


「おはようございます!」


「うっす」


「おはようございます!」


「委員長おはよー頑張ってるわね!」

 そう声をかけながら近づいてきたのは、我がクラスの副委員長の高橋さんだ。


「ごめんね。あたし部活あるから朝は無理なんだ」


「副委員長この事知ってたの?」


「あたしは昨日先生から言われたんだよ。でも朝は部活があるって断った」


「僕は今朝聞いたよ!先生僕に伝えるの忘れてる」


「あはは、そうみたいだね」

 いや笑わなくたって

 少し落ち込んだ僕は何気なく聞いてみた。


「そう言えば部活って何やってるの?」

 

 朝からだと運動系か吹部かな


 僕がそう尋ねると彼女はカバンを僕に預けた。

 そしてスカートの端をつまみ上げると、右足を後ろへと引きながら軽く腰を下ろした。 カーテシーだ

 彼女はふっとほほえみながら、よく通る声でこう言った。


「お初にお目にかかります公爵様。 エアリーズ家長女ジョセーㇳ・デ・エアリーズにございます。本日はお招きありがとうございます」


 登校中だった生徒達は足を止め、ポカーンと彼女を見つめた。


 その洗練された動きは、まるでここが舞踏会会場のようだった。

 その口元からは魅惑の言葉を紡いだ。


 彼女は演劇部なのか。 


 なんだろう。

忘れていた緊張感。むずむずしてくる。

彼女が楽しそうに笑っていた。


僕は大きく深呼吸をすると一歩前へ出る。

ここは中世 僕はどこかの国の公爵 声を張る 一言でいい。威厳を込めて。


「ジョセーㇳ・・遠路はるばるご苦労であった」


そう言った瞬間、彼女の顔色がさっと変わった。

さっきまでのからかうような態度も忘れ、ポカーンと口を開け僕を見ていた。

登校中の生徒が何事かと足を止めていた。

 

「え、なに」

「演劇部?」


僕はヒソヒソ話す生徒たちに向かい、何食わぬ顔で挨拶をする。

挨拶は笑顔で元気よく

「お、おはようございます」

お、返してくれた。

僕は嬉しくなり自然と笑みがこぼれる。

それを見た女子生徒が真っ赤になって手で顔を隠す。

恥ずかしがり屋さんだ。


あたりを見渡すと、他の生徒の反応も同じで、一様に照れているようだった。


うん、みんな恥ずかしがり屋さんだよね。


その日、各クラスであの男の子は誰なんですかという話が流れていた。

高橋さんはお昼すぎまで呆然として話しかけても上の空だった。






何事もない顔でクラスに戻ったけどさすがに無理だった。

高橋さんは僕を見ると駆け寄ってきた。


「ねえ、何よあれ!きみ一体何者。なんで黙ってたの」

よかった。放置したことは怒られなかった。


「いや最初にやったのはあなただよね」


「それはそうなんだけど。でも!」


あれ、今って母の話を伝えるチャンスじゃない?

幸い元カノもいないし。チャンスだ。


「実はキミに伝えなければいけないことがあるんだ」


「え、いきなりなに。待って。まだ心の準備が」


彼女は顔を赤らめ慌てだす。いやレッスンの話を伝えたいだけなんだけど。


「じゃお昼休みに話すから」


「うんわかった。約束よ」


「僕が約束破ったことある?」


「約束したことないよね」


そうでした。

 

ようやく母との約束が果たせそうだ。

彼女には事後報告すればいいや。



そしてお昼。

レッスンの話をしようとした時、誰かに腕を掴まれた。


優子さん


「・・・ちょっといい?」

そこには僕の元カノが立っていた。


「高橋さんごめんね。ちょっと借りるから」

そう言って僕を引っ張ってゆく

彼女の思い詰めた表情を見てると、お弁当食べる時間なさそうだと思った。

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