第3話 兄はやっぱり兄だった(4月7日金曜日午後)
「今帰りかい」
帰宅途中兄に会った。
大学生は暇そうでいいな。
「それで高校はどうだった?」
「うん、最悪」
この人に会ったのが
「そっか。でも楽しいことも沢山あるからさ」
そう言って軽く僕の頭を撫でる。
その仕草は小さい頃から同じで、少し切なくなった。
優しい兄だった。
大好きな兄だった。
あのことが嘘だったらよかったのに
世の中イケメンがもてはやされるのは必然。
誰だってそっちを選ぶ。
彼女だってそうなのだ。
友達と会うと言って兄と別れる。
まさか優子さんじゃないよね。
僕は疑り深いんだよ
考えてもしょがない
落ち込んで歩いてたらまた声を掛けられた。なんて日だよ全く。
「なんだい、今日は僕もう店じまいだよ」
いやいや振り返ると、僕と同じ高校の制服を着た女生徒がニコニコして立っていた。
「やっほー!田中くんの家こっちなんだ」
「誰?」本気で分からなかった。
「わたしだよ!」
「オレオレ詐欺!」
「いや1つも合ってないよ! わたしって言ったよね!」
本気で分からなかった。
同じ制服なのでどこか出会ったんだろう。
うんきっとそうだ。
彼女は僕に近づくと並んで歩き出す。
視線が高くなり彼女が僕より背が高い事が判った。
自慢じゃないけど、僕の身長は159センチ。
そんな僕より彼女の身長は10センチは高かった。
別に気にならないよ?
長身と制服
腰まで届きそうなポニーテール姿
「同じく高校の子だ!」
「おしい!いや制服見れば誰だってわかるよね!」
変なテンションの子だ。・・・まあいいけど
そのまま僕たちは大道りをゆっくりと歩いていた。
「同じクラスなのは覚えているよね」
「それくらいは覚えてるよ」
半信半疑だけど。
それからは、彼女は空間を埋めるようにおしゃべりを続けた。
今の高校にはどうしても行きたかったとか、公立高校ではここが一番レベルが高いから決めたとか。
いや別に聞きたくないんだけど。
「ごめんね。ほんとはクラス委員長なんてやりたくなかったよね。
「いや、そんなことはない」
自分から立候補することはしないけど、あれこれ動き回るのは好きだよ。
「そう言ってもらえると嘘でも安心するよ。」
「もちろん嘘だけど、決まったからには頑張るだけだよ」
中学もそうしてたし
なんでも僕を推薦した男子に頼まれたそうだ。
「あのままじゃ、いつまで立っても決まりそうになかったから」
そうだよね
「だから悪いと思ったから、あたしも立候補したんだよ!」
「と言うことは
切れ長の目にロングのストレートヘア。ポニーテールを解けばあら不思議。
副委員長の完成だよ!
僕はびっくりして何度も彼女に尋ねた。
気が付かなかった僕を彼女は怒らないでくれた。
「本当に気がついてなかったんだね」
「いや興味なかったし」
「そこはオブラートに包もうよ! あたしが泣くから!」
二人で笑いながら駅へと向かい歩いていると、まだなんとかなりそうだという気がしてきた。
うん友達と普通に会話できる。僕は大丈夫だ。
その時誰かに見られている気がした。
心の中ではすっかり優子さんは元カノになってたけど、現実ではまだ付き合っている。
僕は彼女が嫉妬深い事をすっかり忘れていた。
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