第2話  入学式当日(4月7日金曜日朝)

「ねえ、携帯繋がらないんだけど」


校長先生の睡眠攻撃を耐えていた僕は、背中から奇襲を受けた。

つんつんと丸めたプリントが僕の背中に押し当てられる。ぐりぐりと


「・・寝てないよ」

「いやそれは無理があるでしょ」


どうやら後ろから見ると、僕の体が前後左右に揺れていたらしい。


恥ずかしいのを誤魔化すように、「何?」と聞くと、声を潜めてこういった。

「昨日から携帯全然繋がらないんだけど。laionも無視されるし」

正直に話したほうがいいのか。

めんどいけど。


「壊れた」

「何が?」

「携帯。落っことしたら壊れた。使えないので解約した」


そう話すと、目を見開いて驚いていた。


あ その顔もかわいい。 

そんな事をぼんやりと考えていたら、この後カラオケに行こうと言ってきた。


「今日は無理」

「なんでなにか用事があるの?」

「たまったラノベを消費したい」

「却下」


カラオケ苦手なの知ってるでしょそう言って前を向く。

彼女はまだなにか言いたそうだったけど、列を中を隣を歩く教師に注意され、それきり大人しくなった。


後ろからブツブツ言うのが聞こえたけど、僕はスルーした。


*


クラスわけで僕はA組 

彼女は何組だろう どうでもいいけど


入学式初日からもうやめたくなった


後ろの席なのをいいことに、机に上体を倒し、早くホームルームが終わらないか考えていた。考えるのも面倒だけど。


時々先生が挙手をとるたび僕は早く終われと願って、適当に手を挙げていた。


「では1年A組のクラス委員長は、君に決定しました! 拍手ー!」


・・・どうしてこうなった


適当に挙手や返事をしてたらクラス委員長になっていた。

陰謀だと騒いだけど撤回は無理だった。


元々クラス委員長なんて誰もやりたがらない。他薦に切り替えた途端、同じ中学出身の男子が、僕が中学で学級委員長をやっていたことをちくりやがった。


他に推薦もなく僕への信任投票になった。

ちなみに僕も自分の時に手を上げたらしい。

覚えてない


「選ばれたからには、全力でこのクラスを甲子園に連れていきます!」

適当に考えたギャグは絶対零度を教室にもたらした。

へくしょん!


そうして、平穏無事に高校生活の初日が終わろうとしていた時奴はやってきた。

僕の元カノ 公式では今カノだ


「もう済んだ?」


「今帰るとこ」


クラスの男子はもちろん、女子も彼女の圧倒的存在に目を奪われた。


僕の元彼女は美人だ

当然だ。

ふふんとどうだ凄いだろうとふんぞり返っていると、何あんたが偉そうにしてるのとどつかれた。


じゃあ彼借りるね〜と言っててをひらひらさせると、みんなも同じ様に振り返す。


彼女と途中で別れ、駅に向かいながらきょう一日を振り返る。


高校生活最初の日は結構上手くいった。

予想外の投票もあったけど、それ以外は目立たずにやっていけそうな気がする。


あとはいつ彼女に別れることを告げるかだ。

元々気が弱い僕は強く出られると人の言う通りになる傾向がある。


そんな僕は空気を読む力なら誰にも負けない。


穏便に別れるには相手から別れを切り出されるのを待つのが良いだろう。その方が振られるよりダメージも少ないし。


考察

どうすれば彼女に嫌われて、あるいは呆れられて捨てられるか。

僕の心の平安のため、今できることを考えようか。


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