付き合っていた彼女が僕に似たイケメンと仲良く手をつなぎ歩いてたらどうしたらいい
水都suito5656
第1話 入学式前日(4月6日木曜日)改
僕には同い年の彼女がいる。
名前は
どこにでもいそうな名前だけど、僕にとっては特別なんだ。
ホント可愛い名前だよね!
彼女に初めて会ったのは、僕達が幼稚園の時。
今では考えられないけど、当時の僕はすごい人見知りだった。
そんな僕が知らない子供が沢山いる部屋にとけ込めるわけないでしょ?
当然皆んなの輪に入れる事が出来ず、1人教室でお絵かきをするボッチの完成である。何でやねん。
時々彼らの歓声に視線を向けると、まぶしい笑顔が目に飛び込んできた。
楽しそうだよなぁ
本当は僕も一緒に鬼ごっこがやりたかったけど、恥ずかしくて声をかけることが出来なかった。
・・・あるよねそういう事。まあ今もそうなんだけど。
そんな少しだけ照れ屋な幼少期だった僕に、彼女が声をかけてきた。
「ねえ、楽しい?」
「まあまあ」
「うそね。1人が楽しいわけ無いでしょ」
これだから子供は苦手だ。
でもぼくは大人だから、傍若無人な相手でもきちん
と対応してあげる。
「ホントだよ。たのしいから」
「そう。じゃあ、あたしもやろうかな」
「うん、好きにしたら」
「ありがと」
・・・僕は子供が苦手だ。
まあ、僕も子供なんだけど。
それ以来、お外遊びの時間に彼女が側でお絵描きをするようになった。
平和な日常は去ったけど、これはこれで良いかもしれない。
「あたし優子。ゆうでいいよ」
「僕は雄一。ぼくもゆうでいいよ」
まさかこの後数年間も一緒に過ごすことになるなんて。
この時の僕は、当然知る由もなかった。
それから、ほぼ分かれることなく同じクラスで過ごしてきた。
幼馴染と呼んだっていい。
僕たちの仲は特に悪くもなく良くもない。
それが変わったのは僕たちが中学を卒業した日からだった。
卒業式当日
僕は彼女に校舎裏に呼び出された。
僕が来たのを見てじろりと睨まれた。
「え、何怖いんだけど」
「失礼だよ、何が怖いの!」
君だよとは言えずにいると、唐突に告白された。
「中学も卒業したし、あたしたちも次のステップに行きましょう」
唐突って気がしたけど、考えたらいつもそうだったわ。
「いいけど」
「よし、今日からカレカノよ」
何の実感もないままそう宣言された。
*
その日親にスマホを買って貰う約束をしてたので、告白の余韻もそこそこに町で唯一の携帯ショップに向かった。
「あたしもいく!」
「ええー」
なぜか彼女も当たり前の顔でついてきて、あれこれ機種選びに口を出した。
「これがいいよ!あたしと同じ機種だよ!」
「たっか!」15万
結局自分と同じのがいいと半ば無理やり決めさせられた。
店舗内でも一番高価なやつで、リンゴのマークが特徴だった。
「ふふふ」
自分のスマホと並べ嬉しそうに微笑む彼女を見てたら、値段なんてそうでもいいかなーって思えた。
「母さんありがとう」こんな高級スマホを。
「いいのよ。どうせあんたの小遣いから引いとくから」
ですよねー・・・うん、だろうと思った。
*
その日から僕は、高校入学までの日々を彼女とのデートとそれ以外の時間をスマホで消費した。
「思い出がどんどん増えていくね!」
毎日楽しそうにそう言う彼女に、始まりは唐突だったけど付き合ってよかったと思えた。
とにかく春休みの間、毎日が楽しくて充実してた。
だから僕は油断していた。
僕の人生がそんなにイージーモードじゃないんだということを。
「・・・うそだ」
高校入学式前日。
いつものように彼女とデートして別れた後、せっかく街に出たから買い物でもするかと、大型ショッピングモールに入った。
その時寄り道なんかせずに、まっすぐ帰っていたら何も知らずに済んだのに。
後悔先にたたず。
「ありがとうございました」
大型書店でお目当ての本を買えてウキウキしてた。
用も済んだし帰ろうとした時、それが目に入った。
高校生くらいのカップルが仲良く手を繋いで歩く姿を。
似ている。僕の彼女に
いや、どう見ても優子さんでしょ!なんで。
僕は頭が混乱した。
さっき別れたばっかりの彼女が男とデートしているだと。
二人が僕の方に歩いて来たので、咄嗟に店舗の影に隠れた。
そして男の方
・・・似ている、僕の兄に。
ってか兄だよ!
田中聡一。僕の3つ上の兄だ。
そんな兄はイケメン顔で照れていた。はぜろ!
「うーん、ここからじゃ会話の内容までは聞こえないか」
優子さんと兄は笑いながら歩いていた。
その時の彼女はすごく楽しそうに見えた。
「何だよ、普通に話せるじゃん」
僕と一緒だとあまり楽しそうではない。いつも怒られてる。
もう見ていたくなかった。
僕はその場から逃げるように駆け出した。
後ろから名前を呼ばれた気がしたけど、振り返らなかった。もうどうだっていい。
全て終わったんだ。
*
兄は今年京都の大学に進学した。
そんな兄が昨夜突然帰ってきたので、おかしいと思っていたんだ。
「本当はそっちが本命だったのか・・・」
こうして突然始まった恋は、開始と同じく唐突に終了した。
もう僕に彼女はいないんだ。
*
思い起こせば、小さい頃から彼女は僕の兄にぞっこんだった。
学校帰り僕の家に遊びに来ると、僕そっちのけでいつも兄と遊びたがった。
その頃兄は中学受験と控えて毎日忙しそうだったけど、彼女が遊びに来る時は僕たちの相手をしてくれた。
その時はきっと両思いだったと思う。僕はそんな二人に気が付かないようにして仲の良い振りを続けていたんだ。
そして今に至る
仲良く歩く二人を見ても、諦めしかなかった。
僕はショッピングモールを出てからどこを歩いたのか覚えていなかった。
見知らぬ公園の中に立ち、買ったばかりのスマホを地面に叩きつけるところだった。
危なかった。
勢いでやらかすとこだった。
これは親に買ってもらった大切なスマホ。
高校生になってバイトしたとしても、すぐに買えないくらいには高い。
「でも彼女との思い出がたくさん詰まっているんだよなあ」
正直持っているのも辛い。
その時閃いた
「よし売ろう!」
思い立ったが吉日。
「まずはデータの削除っと」
*
スマホは解約した後、中古携帯ショップで売った。
買ってまだ間も無かったけど、半額もしなかった。
彼女とのつながりが切れてホッとした。
そして彼女を存在から消して、僕は入学式当日を迎えた。
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