第4話  夕食前(4月7日金曜日夕方)改

「ただいまー」


「あ、ゆーくんお帰り。入学式お疲れ様」


出迎えてくれた母はだいぶ眠そうだった。また徹夜したのかもしれない。


「ごめんね入学式に行けなくて。今お仕事休めなくてね」


「大丈夫、僕だってもう高校生なんだよ。だから1人でも大丈夫だよ」

そうだよ、もう大人なんだ。

じゃあこれからたくさんお仕事やってもらわなくちゃね。


*


うちは両親とも働いているので、学校行事はほとんど来ることがない。

それを申し訳なく思っている為か、普段から母は過保護気味だ。


僕が買い物に行こうとしたら、当然の様な顔をして着いてくる。

断ったらいいんだろうけど、凄く悲しそうな顔するので結局断れないんだよ。

でも高校生になったんだから、さすがに着いてくることはないはず・・たぶん


「それよりもお仕事どうだった?」


「それはもうバッチリよ。母は才能の塊なんだから」


「自分で言う」


「事実です」


お互い笑い合う。


「でもね、そろそろ徹夜のお仕事は控えた方がいいよ」

もう若くないんだから


「ゆーくん今なんか言った?」


「言って無いよ」


それから妙に勘の鋭いところ所があった。



「もうすぐ食事だから、手洗ってきなさい」


「わかった」


僕は手洗いとうがいを済ませて、制服からジャージに着替えた。

キッチンに入ると先ほどとほぼ同じ様子で、母が固まってうーんと唸っていた。


「なにつくるの?」


「カレーだよ!待ってて」


にこにこ顔でそう言って、レシピ本をじーっと読んでいる。でもその目は半分閉じられている。

そしてまな板の上には野菜たちが切られるのを待って鎮座していた。


「寝てて。あとはやるから」


「お願いね。さっきから眠くって」


母は大きなあくびをして場所を開けてくれる。


睡眠不足で怪我したら危ない。ついでにエプロンを奪ってキッチンから追い出す。


「じゃあ、居間で少し寝てるから」


いやそれじゃあ疲れ取れないから


「駄目です。ちゃんと寝室で寝てください」


「もう、ゆーくんは過保護なんだから」

母は逆らわずに寝室に消えていった。


「さてと、頑張りますか」


母が見ていたのはナスのひき肉カレーだった。

これならそんなに時間かからない。

あとサラダも作っておこう。




「美味しい!」


「ありがとう」


しばらく休んで元気になった母は、そう言って僕が作ったカレーを食べる。


「ゆーくんが作るカレーが一番美味しいよ」


「いや母さんには負けます」


僕のはレシピ通りに作るだけ。

特別下手でもないし上手と言う程でもない。

平均点の味


一方、母が作る料理は僕が作るときより何倍も美味しい。

正直悔しい。母が作る料理はカンで作る物だった。

彼女はレシピ通りに作れない。

途中あれこれ材料を付け足す。

何を入れるかはその日の気分。

でも完成したそれは、いつだって悔しいくらい美味しかった。




「どうしても母のようには作れない」 自分でもわかる。


「ううん、ゆーくんもすごいよ。きっといいお嫁さんになる」


「お婿です」


「え、お婿に行くの」


「なぜ婿いり前提」


「あはは、大丈夫。ゆーくんならすてきなお婿さんになるから」


「でもゆーくんの花嫁姿も見たいよね」


「そうですね。善処します」


お願い、誰か早く帰ってきて。


母の饒舌は家族が揃うまで止まりませんでした。

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