第18話
第7階層へ降りると、ついに景色が変わった。
洞窟の中だろうか。
円形のフィールドになっていて、周囲の壁や天井が岩でできているようだ。
そして俺の眼前には――。
緑色の肌に、人型のモンスター。
といっても、その体格はゴブリンとは比べ物にならない。
身長は2メートルを優に超え、分厚い筋肉に覆われた鋼の肉体。
Cランクモンスター、オーガがそこにいた。
『最終階層に入場しました。魔力を回復します』
耳元からそんな声が聞こえてくる。
慌ててステータスを確認してみると、魔力が満タンになっていた。
ダンジョンにはボスモンスターというものが存在する。
ボスモンスターには二種類あって、一番最後に出て来るのがラストボス、途中に出て来るものをミドルボスという。
ラストボスはそのダンジョンで最も強いモンスターであり、それを倒すとダンジョンをクリアしたことになる。
『ラストボスモンスター”オーガ”との戦闘開始まであと1分です。それまでしばらくお待ちください。なお、戦闘が始まるまでの間にオーガを攻撃してもダメージを与えることはできません』
ただ、普通のダンジョンにはこんなシステムはなかったはずだ。
おそらくこのチュートリアルダンジョン特有の、サービスみたいなものなんだろうな。
「ガアアアアアアアッ!!!!」
一分が経ったのか、戦闘の始まりを知らせるようにオーガが吠えた。
凄い迫力だ。
これまでモンスターと戦闘を重ね、多少は慣れたつもりでいた。
ただ、やはりこういった自分よりも遥かにデカい相手だと、本能的に恐怖を感じてしまうな。
巨大な体に似合わぬ俊敏さでオーガが距離を詰めてきた。
さすがはCランクモンスターというべきか。今までに戦ったどのモンスターよりも速い。
まあ、それでも今の俺からすれば遅く感じられるが。
俺はオーガの拳を躱すと、カウンターで斬撃を浴びせる。
しかし――。
(硬っ!!)
オークだと豆腐を斬るみたいに抵抗を感じなかったのだが。
なのに今はその逆。まるで傷をつけた手応えがなかった。
(っと)
オーガが反撃してきたので、それを躱して距離をとる。
さて。どうするか。
(さっきの感じだと、今持ってる武器じゃダメージを与えられそうにないな)
一応、スキルで攻撃力は上げてるんだけどな。
それでも傷をつけられないほど、敵の防御力が高いってことなんだろう。
(なら、とれる手段は一つしかないか)
すなわち、魔法である。
俺はエレキラインでオーガを攻撃した。
「ガアアアアアアアッ!!!」
魔法はちゃんと命中。
ただ、さすがに大ダメージとはいかなかったようだ。
オーガは再び距離を詰め、殴りかかってくる。
俺はそれを躱して素早く背後に回ると、オーガの首を狙って斬りつけた。
だが、相変わらず手応えはなし。傷をつけたような感触は皆無だった。
(やっぱりこの剣じゃダメか)
オーガが反撃してくる。
空中にいるせいで、今度は回避は無理そうだ。
仕方がないので、盾でオーガのパンチを受け止めた。
(――っ)
なんてパワーだ。
盾で防いだのでダメージはなかったものの、大きく後ろに吹き飛ばされてしまった。
しかも盾を見るとかなりへこんでいて、もう使い物にならなさそうだ。
まあ、盾が使えなくても障壁魔法という手段もあるが……。
魔法がメインになる以上、なるべく魔力は温存しておきたい。
俺はファイアボールを放ち、オーガを攻撃した。
当たると同時に爆発。
オーガが絶叫する。そしてこちらに向かって突進してきた。
パンチを躱して距離をとる。
(動きながら魔法を撃てたらな……)
熟練の魔法使いは、動きながらでも魔法が使えるという。
だが、今の俺にはそれは無理だ。
正確には、動きながら魔法を使うことはできるが、それだと命中率が大幅に下がってしまう。
だから魔法で敵を攻撃するときは、一旦止まる必要があった。
ただ、戦闘においてそれはどうしてもハンディになってしまう。
本当は近づかせたくなくても、止まるせいで接近を許してしまうからだ。
(そのあたりは今後の課題だな)
そのあとも、魔法で少しずつオーガを削っていった。
できるだけ距離をとりながら、接近されたときは攻撃を躱し、どうしても避けきれないときは障壁魔法を使った。
ダメージが蓄積されるにつれ、徐々にオーガの動きは鈍くなり、接近されることも少なくなっていく。
そしてついに――。
「……グ……ゲ……」
オーガが倒れ伏す。
その体が、塵になって消えていった。
「……ふぅ」
結果的には、無傷での勝利。
ただ、自分の感覚としては圧勝という感じはまったくしなかった。
(それでもCランクモンスターに勝てたことは、誇っていいよな)
ハンターとしての実力は、所属しているパーティーがどのランクのモンスターまで狩れるのかによって決まる。
たとえば、Cランクまで倒せるパーティーのランクはCランクだし、所属しているメンバーもCランクハンターとして扱われる。
俺の場合はソロなので判断が難しいところがあるが、それでも俺個人でCランクパーティーに匹敵する実力はあると考えていいだろう。
(Cランクからは一人前のハンターとして扱われるし、収入だって普通に働くよりは稼げる)
要するに、俺はもうハンターとして生計を立てられるレベルまできたということだ。
(よし。決めた。俺はハンターになるぞ)
ジョブに目覚めてからそうしたいとは思っていたが、これで完全に決心がついた。
予定していた高校受験も取りやめだ。
ハンターになると決まっているなら、高校に行く意味はないからな。
(おっと、そうだった。ダンジョンポイントはどうなってる?)
ステータスを起動してダンジョンポイントを確認してみると、421Pになっていた。
さっきが21Pだったから、オーガは一体につき400P貰えるのか。
(カマイタチの五倍か。数字としてはデカくなったけど、効率はやっぱカマイタチの方がいいな)
ただこれも、強くなれば変わってくるだろう。
そしてすぐに、オーガのようなCランクモンスターも楽に倒せるようになるはずだ。
きっとこのチュートリアルダンジョンのクリア特典で。
『チュートリアルダンジョンのクリア、おめでとうございます。今のあなたには、ハンターとして十分にやっていけるだけの実力がついていることでしょう』
まるで見計らったようなタイミングで、耳元から声が聞こえてくる。
『ですが、これはほんの始まりに過ぎません。ジョブ”ダンジョン生活者”を有効活用すれば、あなたはどこまでも強くなれます』
うん。まあそんな感じはしてたけど、この声が言うならそうなんだろうな。
で、肝心のダンジョンのクリア特典は?
さっきからずっと気になっているんだが、いい加減勿体ぶらずに教えて欲しい。
『このチュートリアルダンジョンの攻略報酬として、ダンジョンポイントを3万付与します。自由に活用してください』
3万!?
3万ポイントも貰えるのか!
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