第12話

 翌日。


 今日は土曜日だから、学校は休みだ。


 麗華は出かけていて夕方までは帰らないというので、気兼ねなくダンジョンに潜れる。


 まずは転移石で第1階層の安全地帯から第3階層へ。


 景色が変わってすぐ、ゴブリンと遭遇した。


 今度は不意打ちは無理なので、先手必勝でいく。


 俺は四体のゴブリンのうち、一番左端に狙いを定めてバットで撲殺する。


 そして横から振るわれた棒を躱してもう一体も仕留める。


 これで残り二体。


 一瞬で仲間が半分やられたことに驚いたのか。

 

 動きが鈍く、隙だらけのそのうちの一体の頭をバットで叩き潰した。


 最後の一体が棒で攻撃してきたので、それを躱して倒す。


(ゴブリンはもう相手にならないな)


 となると、やはりそろそろ第4階層へ降りるべきだろう。


 昨日は時間的に行けなかったが、今日は問題ない。


 転移魔法陣の場所だってもうわかっている。


(午前中はゴブリンを狩って、昼メシを食ったら下に降りるか)


 結局、午前中は合計で61体のゴブリンを倒し、ダンジョンポイントは215Pになった。





 第4階層に降りると、またそこも森の中だった。


(さて。今度は一体どんなモンスターが出て来るのやら……)


 ダンジョンの第1階層から第3階層までは、どのダンジョンでも同じモンスターが出る。フィールド――周囲の環境のこと――も同じだ。


 第1階層がスライムで草原地帯。第2階層がホーンラビットで森の中。第3階層がゴブリンで森の中。


 これはあらゆるダンジョンで共通だ。


 しかし、第4階層からは違う。


 ここからはどんなモンスターが出るのか、フィールドがどんな場所なのか。それがダンジョンごとに異なるのだ。


 俺は周囲を警戒しながら、森の中を進んでいく。


 不意に頭上に気配を感じた。


 何かが落ちてくる。


 俺はすぐに走ってその場を離れた。


(こいつは……)


 ネコ科の大型肉食獣のようなモンスターが現れた。


 といっても、ライオンや虎ほどのサイズはない。


(ダンジョンジャガーか)


 木登りが上手く、素早い身のこなしが特徴的なモンスターだ。


 歯が刃物のようになっていて(見た目も金属のよう)、噛む力が非常に強いと言われている。


 ダンジョンジャガーが飛び掛かってきた。


 口を大きく開け、おそらくは俺の首元を狙っているのだろう。

 

(今の俺のステータスじゃ、首に噛みつかれたら間違いなくあの世行きだろうな)


 まあ噛みつかせる気なんてないけど。


 俺は噛みつき攻撃を躱すと、バットでダンジョンジャガーを殴打した。


 悲鳴を上げて吹き飛ばされるダンジョンジャガー。


 ただゴブリンのように一撃で仕留めることはできなかった。


 俺は素早く距離を詰めると、二度目の攻撃を行う。


 先ほど攻撃で動きが鈍ったのだろう。ダンジョンジャガーはそれを躱すことはできず、俺のバットが顔面を捉えた。


 倒れたジャガーの体が、塵になって消えていく。


(倒せたか)


 そういえばダンジョンポイントはどうなってるんだろう。


 確認してみると、222Pになっていた。


(ってことは、一体につき7Pか。これはおいしいんじゃないか?)


 ダンジョンジャガーはゴブリン一体よりも、遥かに強い。


 群れのゴブリンと戦っても、もしかしたら強いかもしれない。


 ただこのモンスターは群れで出て来ることはない分、気は楽だ。


 やっぱり数が多いと神経使うんだよな。


 引き続き、ダンジョンジャガーを探す。


 周囲を警戒しつつ、頭上にも注意することを忘れない。


(……いた)


 今度は木の上ではなく、普通に地面を歩いていた。


 向こうもこちらに気づいて、襲い掛かってくる。


 相変わらずの噛みつき攻撃を躱し、バットで殴りつける。


 今度は当たった場所が(俺にとって)悪かったのか、弾き飛ばされてもすぐに起き上がって反撃してきた。


 再び攻撃を躱し、頭にバットを叩きつける。


 まだ死なない。


 とはいえフラフラなので、警戒しながら近づいてバットを振るう。


(やっと死んだか)


 ダンジョンジャガーが塵になって消えていく。


(そろそろこれじゃキツくなってきたかな……)


 俺は右手に持っていたバットを眺める。


 まあ元々これは武器でもなんでもなく、野球のボールを打つために作られた道具だからな。


 ゴブリンのような雑魚なら十分でも、ちゃんとしたモンスター相手には使えないのはわかっていたことだ。


(ショップで武器を買ってみるか)


 最初の段階で武器を買わなかったのは、ポイントをなるべく使いたくなかったからだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――

購入可能な武器一覧

木刀  2P

鉄の剣 5P

※ショップでの累計購入額が大きくなると、購入可能な武器も増えます

――――――――――――――――――――――――――――――――


 だが今のポイントを考えれば、5P失ったところで何の問題もない。


 俺は鉄の剣を購入することにした。


(”鉄の剣を購入”っと)


 すると突如虚空に光が生まれる。


 それはすぐに剣のような形になり、ゆっくりと地面へ降りていく。


 光がおさまると、そこには一本の剣があった。


(鞘はなしか)


 まあ安物?だから仕方ない。


 ダンジョンで武器がドロップするときも、レアリティの低い剣だと鞘がないことが多いらしいし。


――――――――――――――――――――――――――――――――

鉄の剣 


攻撃力 35


特殊効果

なし

――――――――――――――――――――――――――――――――


 攻撃力とは、簡単に言えば武器の強さだ。


 この数値が相手の防御力より高ければ高いほど、ダメージを与えやすい。


 特殊効果というのは、剣が持っている能力のこと。


 それは装備している者のステータスを上げるものだったり、装備することでスキルが使えたりと様々だ。


(剣も手に入れたことだし、あのスキルも買っておくか)


――――――――――――――――――――――――――――――――

>刀剣強化Ⅰ

刀剣類の攻撃力を、元々の値の30%分上昇させる。

1分ごとに魔力を1消費する。

――――――――――――――――――――――――――――――――


 これでダンジョンポイントは194Pになった。


 残ったポイントについては、新しく買った剣やスキルがどの程度役に立つか確かめてから決めるとしよう。


 俺はモンスターを求めて、歩き出したのだった。





 ダンジョンジャガーが飛び掛かってくる。


 噛みつき攻撃を躱し、俺は剣を一閃。


 ダンジョンジャガーの体は真っ二つになった。


(もっと早く買っておけばよかったな)


 金属バットとはまるで殺傷力が違う。


 あれだとダンジョンジャガーを倒すのにはどうしても二、三回は攻撃しないといけない。


 だがこの剣があれば、ダンジョンジャガーならすべて一撃で倒すことができる。


 ちなみにスキルに関してだが、今のところそこまで劇的な効果は得られなかった。

 

 敵を斬るときの抵抗が、ほんの少しだけ和らぐような――そんな感じがしたぐらいだ。


 金属バットから鉄の剣に装備を変えて増えた攻撃力が11。


 そこからさらにスキルを使って増えた攻撃力が10。


 同じぐらい増えているのに、前者は劇的な変化を感じたが後者は微妙だった。


 一体、何が違うのだろう。


 よくわからない。


――――――――――――――――――――――――――――――――

村上祐希 レベル:1


魔力     64/66

筋力     33

防御力    9

魔法攻撃   35

魔法防御   8

敏捷     31


武器攻撃力  45


ジョブ:ダンジョン生活者


スキル

ショップ

休息

身体強化Ⅰ

魔導の力Ⅰ

雷魔法Ⅰ

刀剣強化Ⅰ


ダンジョンポイント:271P

――――――――――――――――――――――――――――――――


 ……そろそろ下へ降りてみるか。

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