第11話

 この魔法を使えば一回で三~四体ぐらいは倒せるから、合計だと25~30体ぐらいかな。


 そう考えると、魔法だけを使って戦うのはまず無理だな。


(まあ、いざとなったら接近戦をすればいいだけだから問題ないか)


 使い捨ての便利な武器を手に入れた、ぐらいに思っておけばいい。


 それに今日はもうそろそろ切り上げる時間だ。


(暗くなってきたしな……)


 持ってきた腕時計で確認すると、7時11分だった。


 昨日は暗くなってからは、懐中電灯で周りを照らしながらホーンラビットと戦った。


 今日も同じようにできなくはないだろうが、麗華との約束がある。


 あまり遅くなると、怪しまれてしまうだろう。


(せっかくだから、魔力を使い切ってから帰るか)


 結局、そのあとゴブリンを27体倒して、俺はダンジョンを出た。


――――――――――――――――――――――――――――――――

村上祐希 レベル:1


魔力     3/66

筋力     33

防御力    9

魔法攻撃   35

魔法防御   8

敏捷     31


武器攻撃力  24


ジョブ:ダンジョン生活者


スキル

ショップ

休息

身体強化Ⅰ

魔導の力Ⅰ

雷魔法Ⅰ


ダンジョンポイント:93P

――――――――――――――――――――――――――――――――


「随分長かったね。****痛くなってない? 大丈夫?」


 俺がダンジョンから戻り、麗華と顔を合わせて最初に出た一言がこれだった。


 お前の頭の中はそればっかりか。まるで思春期の男子中学生のような奴だ。


 いや、俺はこいつとは違うけどな。


 確かに、そういったことを考えたりはする。自然と麗華の胸や尻に視線がいったりとか……。


 だが、俺は決してそれを表には出さないのだ。なぜなら俺は紳士だから。


 変態という名の紳士変態ではなく、変態ではない本物の紳士なのだ。


「俺はお前が想像してたようなことに時間を使ってたわけじゃない」


「別に恥ずかしがらなくてもいいんだよ? 男の子なんだから当然だし、ボクはむしろ嬉しいっていうか――」


「さっさと夕飯にするぞ」


 まあ夕飯といっても夕べの残り物だけどな。それとレトルト食品。


「それにしても、よくそんなに美味しそうに食えるな」


 CMに出れそうなぐらいの笑顔だ。


 俺の料理の腕はそれほどよくない。いつもはネットでレシピを見ながら調理している。


 しかも大量に作って、当日以外は残り物を食べることが多いのでさらに味は落ちる。


 それなのに麗華はとても美味しそうに食べていた。


「祐希くんと一緒なら、どんなものだって美味しく感じるよ。それにこれは手作りなんだよね?」


「一応はな。まあ、ネットでレシピ見ながら適当に作ったやつだけど」


「そうだとしてもボクは嬉しいな。君の手料理が食べられて」


 そう言って麗華は微笑んだ。


 それがあまりにも可愛くて、見惚れてしまった俺は思わず目を逸らす。


「お前、向こうじゃ高級料理ばっか食ってたんだろ? そういうのに慣れてしまったら、庶民の料理なんて不味く感じるんじゃないのか?」


「確かに向こうではそういう料理ばかり食べてたね。でも逆だよ」


「逆?」


「普段高級なものばかり食べてると、普通の料理が凄く美味しく感じられるの」


 そういうものなのか。


 庶民にはいまいちよくわからん感覚だな。


「家庭料理なんて食べたのは本当に久しぶり。向こうじゃ一度もお母さんの手料理は食べられなかったし」


 アッカーソン家では外食以外は専属の料理人が食事を作る。だから一族の者が台所に立つことはないらしい。


「それでもお母さんはボクのために、料理を作ろうとしたこともあったんだよ。許してもらえなかったけどね。アッカーソンの誇りがなんたら~とか言ってさ」


 金持ちとか上流階級のしきたり?はよくわからんが、いろいろ大変なんだな。


「でも、本当によかったのか? 俺とその……一緒にいるために帰ってきてくれたことは嬉しいが、おばさんのことも大好きなんだろ? それなのに離れ離れになって……」 


「確かに寂しくないと言えば嘘になるね。でも、子供っていうのはいつか親離れしないといけないものなんだよ。ボクの場合は、人よりもそれが早く来ただけ」


 それにもう二度と会えないってわけでもないし。


 そう麗華は言った。


「まあそれもそうか。生きてさえいれば、会おうと思えば会えるもんな」


「……ごめん」


 麗華がバツの悪そうな顔をしてそう言う。


「おいおい、もう何年前の話だと思ってるんだ。今更気にしちゃいねえよ」


 確かに当時は大変だったが、もうとっくに心の整理はできている。


 そりゃ、たまに思い出して寂しくなるときもあるけどな。


 でもそれでいいんだ。


 寂しくなるってことは、俺がまだ二人のことを大切に思ってる証拠だから。


「それに、今はお前も戻ってきてくれたしな」


 俺がそう言うと、麗華の瞳から涙がぽろぽろと零れ落ちる。


「お、おい。泣くなよ」


 席を立ち、麗華の近くに行って慰める。


 すると麗華が抱き着いてきた。


(……これはやばい。凄まじい感触だ)


 こんな状況なのに、つい邪なことを考えてしまう自分が恨めしい。


 これじゃあ麗華に何も言えないな。


 前言撤回だ。俺の方がこいつよりやべえわ。


「また……今日も一緒に寝ていい?」


 不安そうな声で麗華が尋ねてくる。


「ちゃんと服着てくれるなら」


「わかった。ちゃんと着るから」


 その日の夜、宣言通り麗華はちゃんと服を着てきた。


 普通のパジャマだった。


 けどそれでも体のラインは十分わかるし、何より最近何度も見せられたあの肢体。


 それを思い出してしまって、とてもドキドキした。


 結局、眠るまで少し時間はかかったが、いつの間にか感情は消えていて――。


 純粋に人のぬくもりっていいな。


 そう思った夜だった。

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