第9話

 学校が終わり、俺は急いで家に帰ってきた。


「あ、おかえり」


 玄関を開けると、麗華が出迎えてくれた。


 ――裸エプロンで。


「ごはんにする? お風呂にする? それとも……わ・た・し?」


 前屈みになり、自慢のメロンを強調するようにポーズをとる麗華。


「夕飯にはまだ早いし、やることがあるから風呂はそのあとだ」


 俺はそれを見ないようにしつつ、急いで麗華の横を通り抜ける。


「ちょっと待ってよ! せっかくやったのに、どうしてちゃんと見てくれないの?」


 そんなの反応したら困るからに決まってるだろ。


 あれは俺のような思春期の男子中学生が見ていいものじゃない。刺激が強過ぎる。


 それよりも、さっさとダンジョンに行かないとな。


 新しく手に入れたスキル、”身体強化Ⅰ”の効果を早く試したい。


 実際にモンスターと戦って、どれぐらい強くなったか知りたいのだ。


「やりたいことがあるから、俺はしばらく部屋に籠る。夕飯の時間までには出て来るから、それまで部屋に入るなよ」


 効果があるかはわからないが、一応釘を刺しておく。


 俺はチュートリアルダンジョンのことは麗華にも話さないことにした。


 あれは俺以外には見えないし触れない。だから説明が面倒なのだ。


 まあ一番の理由はそれじゃないけど。


(どうせなら、強くなってから話したいよなあ)


 そして驚かせたい。できれば麗華よりも強くなって。


 時代遅れかもしれないが、俺は女の子を守れるような男になりたいのだ。


「それと集中したいから声もかけないでくれ」

 

「わかった。男の子だもんね」


 麗華が嬉しそうに言った。


 なんか酷い勘違いをされているような気がする。


 が、まあいいか。そう思ってんなら、部屋には入って来ないだろう。入って来ないよな……?


 2階に上がり、自分の部屋へ行く。


 そして中に入り、ドアに鍵をかけた。


 ステータスを出現させる。


――――――――――――――――――――――――――――――――

村上祐希 レベル:1


魔力     26/26

筋力     33

防御力    9

魔法攻撃   10

魔法防御   8

敏捷     31


武器攻撃力  24


ジョブ:ダンジョン生活者


スキル

ショップ

休息

身体強化Ⅰ


ダンジョンポイント:0P

――――――――――――――――――――――――――――――――


 以前に読んだスキルの説明通り、ステータスの筋力と敏捷の項目がそれぞれ20ずつ上がっていた。


(あとはこの数字が、実戦でどれぐらい役に立つかだな)


 背中にリュックを背負い、右手にバットを持って、俺はチュートリアルダンジョンへ足を踏み入れる。

 

 第一階層の安全地帯には、二つの魔法陣がある。


 一つは青い魔法陣で、転移石を使うためのものだ。


 もう一つは赤い魔法陣で、脱出石をダンジョン内で使うとこの魔法陣の上に転移する。


 俺は”2”と書かれた転移石を手に持って、青い魔法陣の中へ入った。


 そして石に魔力を込める。


 魔法陣が輝き出した。


 気づけば俺は森の中にいた。


「無事、成功したか」

 

 まあ転移石で転移を失敗したなんて話、聞いたことないけど。


(昨日は第3階層までは行かなかったからな。まずはこの、第2階層からスタートだ)


 第3階層へ降りる魔法陣の場所は、既にわかっている。


 だが発見したのが帰る直前だったため、降りるのはやめたのだ。


 俺はホーンラビットを瞬殺しながら、第2階層を進んでいく。


(昨日よりもバットがだいぶ軽いし、パワーは相当上がってるみたいだな)


 ホーンラビットを打ったときの飛距離が、昨日とはまるで違う。


(それにしても……ずっと同じような景色が続くから、凄くわかりにくいな。迷ってしまいそうだ)


 一応、スプレー缶を使って木に目印をつけてはいたんだが……。


 ちょっとこれはマズいかもしれない。


(こんなときに”運び屋”がいればな)


 ”運び屋”とは、パーティーの中で荷物などの運搬をする役割を持つ人間のことだ。


 ”運び屋”はジョブの名前がそのまま役割の名前になった。


 ”運び屋”は”地図作成”というスキルを持っていて、ダンジョンの中限定ではあるが、一度行ったことのある場所なら完璧に道順や地形を覚えてしまうという。


(他には”インベントリ”ってスキルも持ってるんだっけ)


 インベントリとは、亜空間に荷物(ただし非生物に限る)を収納することのできるスキルだ。


 このスキルのおかげで、”運び屋”のいるパーティーは荷物やドロップアイテムなんかを持たずに、身軽にダンジョンの中で行動することができる。


 戦闘力は低いが、”運び屋”はダンジョンに潜る上では必須とも言える存在なのだ。


(今はまだいいけど、今後も一人でダンジョンに潜るなら”地図作成”や”インベントリ”は絶対必要だ。早くショップに出るといいんだけど……)


 ダンジョンポイントをたくさん使うとショップで買えるものが増えるらしいから、それに期待するしかないな。


「っと、やっと見つけた」


 思ったより時間はかかったが、第3階層へ降りる魔法陣の前にようやくたどり着いた。


 魔法陣の中に入って、第3階層へ転移する。


(また森の中か……)


 ぱっと見た感じ、第2階層と何も変わらないように見える。


 だが――。


 前方の茂みが揺れ、三体のモンスターが姿を現した。


 緑色の肌に子供並みの体躯――ゴブリンだ。それぞれ、手に木の棒を持っていた。


(いよいよ人型のモンスターが相手か)


 ゴブリンは単体ではFランクに相当するモンスターだ。


 だが基本的に群れで行動するため、ランクはEになっている。まあEランクの中では最弱だが。


 とはいえ、初めてのEランクモンスターとの戦闘だ。


 果たして今の俺に倒せるのか――。


(とりあえず先手必勝だ!)


 俺は一番左端のゴブリンに狙いを定めた。


 そして全力で足を動かし、距離を詰める。


 俺の動きが予想以上に速かったのか、ゴブリンたちは反応できていない。


 俺は頭を狙って、バットを振った。


 だが結果的に、頭には当たらなかった。俺のバットは嫌な感触とともに、ゴブリンの首をへし折った。


 続けて隣のゴブリンに狙いを定める。


 振りきったバットを戻し、そのゴブリンを攻撃しようとした。


 だがさすがにゴブリンも黙っていなかった。奴らは木の枝を振り回して、俺を攻撃しようとする。


 俺は慌てて後ろに下がった。


(ここは飛び道具を使わせてもらうか)


 俺はバットを左手に持ち替え、右手のポケットに手を突っ込んだ。


 そして小石を取り出すと、それをゴブリンに向かって投げつけた。


 石はかなりのスピードでゴブリンに直撃する。


「ギエッ!?」


 どんどん投げる。


 決して致命傷になるようなものではないが、無視できるほどでもない。


 おそらくだがかなり痛いだろう。ゴブリンたちは手で顔を庇い始めた。


(チャンスだ!)


 俺は再び距離を詰めると、ゴブリンの頭に向かってバットを振り下ろした。


「ギャッ!?」


 今度はクリーンヒットし、倒れ伏すゴブリン。


 そして最後の一体も、同じように倒す。


「……ふぅ」


 俺はステータスを出現させる。


――――――――――――――――――――――――――――――――

村上祐希 レベル:1


魔力     26/26

筋力     33

防御力    9

魔法攻撃   10

魔法防御   8

敏捷     31


武器攻撃力  24


ジョブ:ダンジョン生活者


スキル

ショップ

休息

身体強化Ⅰ


ダンジョンポイント:13P

――――――――――――――――――――――――――――――――


 ゴブリンを倒す前は7Pだったから、6P増えてるな。


(……つまり一体につき2Pってことか)

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