第5話
他には、少し気になってたのが”強化水Ⅰ 全”ってやつ。
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>強化水Ⅰ 全
魔力を3、筋力、防御力、魔法攻撃、魔法防御、敏捷を2ずつ上昇させる
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やっぱり、ステータスの全項目を上げるアイテムみたいだ。
他のアイテムをすべて合計したみたいな効果だけど、値段は20P安い。
これはあれだな、セット割引みたいなものかな。個別に買うと割高になるけど、セットで買うと安くなるみたいな。
まあいずれにせよ、ジョブのことはだいたいわかった。
このジョブがあれば最強になれる――とまでは言わないが、かなり強くなれそうな気がする。
これなら今後、ハンターとして生きていくことも可能かもしれない。
(まあまずは、このチュートリアルダンジョンを攻略しないとな)
特典もあるらしいが、それが一体どんなものなのか。
そしてここを攻略し終わったとき、俺がどれぐらい強くなっているのか。
それらを踏まえて、最終的に結論を出すことにしよう。
「……行くか」
俺は安全地帯を出て、ダンジョンの中へ飛び込んだのだった。
ダンジョンの第1階層は、見渡す限りの草原地帯だった。
何も知らない人間がこの光景を見れば、草原がどこまでも広がっているように見えるだろう。
だがそうではないことを俺は知っている。
歩けば何日もかかりそうに見えるこの草原も、実際は数時間で端から端までいける。
「たぶん2~3時間ぐらいかな」
ダンジョンの第1階層の平均踏破時間が、だいたいそれぐらいらしい。
俺はバットを手に持ち、周囲を警戒しながら歩く。
このダンジョンでは死なないとしても、なるべく普通のダンジョンにいるのと同じ心構えでやるつもりだ。変に油断する癖でもついたら困るからな。
しばらく歩いていると、俺は前方にうねうねと動くゼリーのような物体を発見した。
(……スライムか)
写真や映像では何度も見たが、実物を見るのは初めてだ。
俺はゆっくりとスライムに近づいていく。
そして狙いを定めると、思いきりバットを振り下ろした。
粘着質な音とともに、スライムの体が破裂する。バラバラになったスライムの破片が塵になり、空気に溶けるようにして消えた。
これはモンスターが死ぬときに起こる現象だ。
モンスターは死ぬと塵になる。そして、空気に溶けるようにして消えるのだ。
(生まれて初めて、モンスターを倒した……)
といっても、特に感動したとかそういう気持ちにはならなかった。
なんというか、実感が湧かない。
あまり戦ったという感じじゃなかったのが原因だろう。やってることはスイカ割りみたいだったしな。
(それにちょっとかわいそうな気もするな)
スライムは攻撃性が皆無で、無害なモンスターだ。
ダンジョンに入ればモンスターを殺すのは当たり前とはいえ、なんだか少し申し訳ない気分になった。
(っと、いかんいかん。モンスターなんかに同情してたら、いつか足元救われるぞ)
モンスターの中には、動物に近い見た目のものや人型のものまでいる。
スライム程度で動揺してたら、そういった敵が出てきたときに対処できない。
俺はスライムを探し、無心で潰し続けた。
そして、10匹を倒したとき。ようやく、ダンジョンポイントが1になった。
(うーん。スライムははっきりって弱すぎるから瞬殺できるけど……でも、そんなにあちこちにいるってわけじゃないからなあ……)
スライムは一匹だけいるときもあれば、数匹がかたまっているときもある。
だが同じ場所に何十匹もいるわけではないのだ。倒すのは一瞬でも、探すのにそれなりに時間がかかるのであまり効率的ではない。
結局、スライムを100匹と少し倒したところで俺は次の階層へ降りる転移魔法陣を見つけた(ちなみにそれだけ倒してもドロップアイテムは一つも手に入らなかった)。
このままスライムを狩り続けるより、下に行った方が早くダンジョンポイントを貯められるだろう。
そう思った俺は、転移魔法陣を使って第2階層へ飛ぶことにした。
青色の、転移魔法陣の円の中に入る。
魔法陣の広さは、だいたい直径が4メートルぐらいだろうか。
俺が中に入って体感で10秒ぐらい経った頃。魔法陣が光って、気がついたら景色が変わっていた。
第2階層は森の中だった。
(草原から一瞬にして森の中か。凄いな)
俺は自分が転移に使った魔法陣を見た。
色は赤。
(下に降りる転移魔法陣と間違えないようになってるんだな)
赤い魔法陣は上の階層から降りてきた人間が使う。だから中に入っても何も起こらない。
これがもし青ければ、どれが下に降りる魔法陣か見分けるのに苦労したはずだ。
(ダンジョンなんてものを誰が作ったのか知らないけど、よく考えられてるわ)
感心しながら、俺は魔法陣の外に出る。
「――っ」
背後の茂みから音がした。
俺はすぐに振り返ってバットを構える。
何かが茂みから飛び出してきた。
(こいつは……)
ホーンラビット。
その名の通り、額に角が生えた兎だ。
もっとも、角といっても親指ぐらいのサイズでそこまで脅威度は高くない。
まあそれでも当たったら軽傷では済まなそうなので、注意しないといけないが。
(角が生えてる以外は、普通にかわいい兎なんだよな)
動物好きにははっきり言って辛いだろうな。
特別動物が好きなわけでもない俺でも、こいつと戦うにはかなり抵抗を感じる。
とはいえ、向こうから襲ってくるので問答無用で戦わなければいけないわけだが。
ホーンラビットがジャンプした。
俺の方に一直線で飛んでくる。角を突き出しながら。
この角で俺を刺そうとしてるんだな。
だがはっきり言って遅い。小学生の頃エースで四番だった俺にしてみれば、まるでホームランを打ってくださいと言われてるようなノロさだった。
(ごめんな!)
俺は思いきりスイングしてホーンラビットを地面に叩きつけた。
何度かバウントしてホーンラビットは止まった。
そしてすぐに塵になって消える。
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