第3話

 


 包丁、金属バット、ハンマー。


 武器になりそうなものや、懐中電灯など必要になるかもしれないものをリュックサックに詰め、俺はダンジョンの入り口(仮)の前に立った。


「……行くか」


 ダンジョンの入り口(仮)を通過する。するとトンネルのような場所に出た。


 まるで水中にいるような感覚だ。


 もちろん呼吸はできるし、本当に水があるわけでもないので水圧も感じないけどな。


 歩いていくと、入り口と同じような青い穴があった。ここで行き止まりだ。


 穴の向こうには、ダンジョンの中と思しき景色が少しだが透けて見える。


 ここを通ると、いよいよダンジョンの中だ。


 まあこれが本当にダンジョンの入り口だったらの話だが。


 金属バットを右手に持ち、俺は青い穴を通過した。


 『専用ダンジョンへの入場を確認しました。これよりチュートリアルを開始します』


「っ!?」


 突然、声が聞こえてきた。


 なんというか、まるでイヤホンをしてるときのような感じだ。傍に誰もいないはずなのに、耳元から声がする。


 声色は中性的。男のようにも聞こえるが女のようにも聞こえる。


(ここは本当に、ダンジョンの中なのか?)


 ダンジョンに入ると声が聞こえてくるなんて話、聞いたことがない。


 それに専用ダンジョンって何だよ。


『ステータスが閲覧可能になりました。”ステータス”と念じることによって、ステータスプレートを出現させることができます』


 そんな声が耳元から聞こえてくる。


(一体、何がどうなってるんだ?)


 ステータスはすべての人間に存在する。


 だが、具体的にそれがどうなっているかは自分で確認することができない。


 ステータスを知りたければ、鑑定師というジョブを持つ人間に鑑定してもらうしかないのだ。


 だがこの謎の声は、ステータスと念じるだけでそれが確認できるという。


 俄かには信じられない話だが、試すだけならタダだ。


(ステータス)


 俺は心の中でそう念じた。


 すると――。


――――――――――――――――――――――――――――――――

村上祐希 レベル:1


魔力     26/26

筋力     13

防御力    9

魔法攻撃   10

魔法防御   8

敏捷     11


武器攻撃力  24


ジョブ:ダンジョン生活者


スキル

なし

――――――――――――――――――――――――――――――――


 本当にステータスが出現した。


 俺の眼前に半透明のプレートのようなものが浮いている。そこにステータスが書かれていた。


(これがステータス……)


 俺は生まれて初めて見るステータスに感動していた。


『ステータスプレートは他人には見えません。また、消えるように念じると消すことができます』


(消えろ)


 そう念じると本当にステータスが消えた。


『ステータスの各項目が何を意味するのかについて説明します』


 魔力とは魔力量のこと。魔力は主にスキルを使う際に消費される。


 筋力はそのままの意味。


 防御力は総合的な肉体の強度、頑丈さを示す。ただし、この数値はあくまで平均的なものであり、すべての箇所が同じ強度というわけではない。弱点となる強度の低い箇所も存在する。


 魔法攻撃とは、魔法の威力の最大値を示す。術者の技術に依存するが、魔法の威力は調整が可能。


 魔法防御は魔法に対する防御力。この数値が高いほど魔法に対する防御力や耐性が高い。


 敏捷とは素早さのこと。どれだけ速く動けるかを示す。


 武器攻撃力とは、装備している武器の攻撃力(この数値が高いほど相手にダメージを与えやすい)の高さ。


 謎の声はそんなふうに説明した。


 まあ全部知ってたけどな。これぐらいはネットで検索すればすぐに出てくる。


 それでも説明したのは、それだけ親切設計ってことなんだろう。たぶん。


『次にジョブ”ダンジョン生活者”について説明します』


 おお、ついに来たか。


 ”ダンジョン生活者”なんて聞いたことないが、ジョブの項目にあるってことは、一応これもジョブなんだよな。


 ってことは、俺は二次覚醒したってことか?


『ジョブ”ダンジョン生活者”は、ダンジョンに潜ってモンスターを倒すことにより、様々な恩恵を受けることができます』


 説明は続く。


『具体的には、ダンジョンでモンスターを倒してもレベルが上昇しなくなります』


 いやいや、ちょっと待て。


 ダンジョンでモンスターを倒してもレベルが上がらなくなるって、それ恩恵じゃなくてデメリットじゃん。


 ダンジョンでモンスターを倒すとレベルが上がる。そしてそれに伴ってステータスも上がる。


 そうやってハンターは強くなっていくんだぞ。


 それなのに――。


「レベルが上がらなくなる代わりに、なんか凄い力とかそういうのが貰えるんですよね!!」


 そうじゃないと困る。


 俺は謎の声に問いかけるが、返答はなかった。


 その代わり、機械的な説明が続く。どうやらこの声と会話をすることはできないらしい。


『ダンジョンでモンスターを倒すとダンジョンポイントを得ることができます。ステータスプレートを見てください』


 言われた通り、俺はステータスプレートを出現させる。


――――――――――――――――――――――――――――――――

村上祐希 レベル:1


魔力     26/26

筋力     13

防御力    9

魔法攻撃   10

魔法防御   8

敏捷     11


武器攻撃力  24


ジョブ:ダンジョン生活者


スキル

ショップ


ダンジョンポイント:5P

――――――――――――――――――――――――――――――――


 すると、ステータスプレートに先ほどまでなかった項目が追加されていた。


『ダンジョンポイントとはお金のようなものです。それを消費して、様々なものを購入できます。倒すモンスターが強いほど、数が多いほど得られるダンジョンポイントは増えます。ただし他人の力を借りて倒した場合、得られるポイントは一人のときと比べて減少します』


 このへんは普通のハンターと同じだな。


 パーティーでモンスターを倒すより、ソロで倒した方がレベルは上がりやすいと言われている。


 もっとも、ソロでダンジョンに潜るやつなんてまずいないけどな。


『ショップと念じてみてください』


(ショップ)


 すると、俺の眼前にステータスプレートとは別のプレートが出現した。


――――――――――――――――――――――――――――――――

購入可能なスキル一覧


休息 5P

――――――――――――――――――――――――――――――――


『ダンジョンポイントを使って、ショップからスキルや武具、アイテムなどを購入することができます。”詳細”と念じれば、その説明を読むことができます』


 俺は”詳細”と念じて、休息の説明を読んだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

>休息

発動して30秒後に効果が現れる。

あらゆる物理・魔法攻撃をすり抜ける。ただし、こちらも攻撃を行うことができなくなる。

この状態では他者から存在を認識されない。

魔力の消費はない。

――――――――――――――――――――――――――――――――


 うーん。役に立つとは思うけど、そんなに凄いスキルってわけでもないな。もっと強いスキルが欲しかったんだが。


 使い方としては、格上の敵と遭遇しても30秒耐えれば逃げられるって感じかな。まあ相手の強さによっては、30秒もたずに簡単に殺されるだろうけど。


 他にはダンジョンの中で休憩するときに安全を確保できるぐらいか。


 このスキルがあれば、ダンジョンの中でも見張りを立てずに寝られそうだ。


 ん? 待てよ……。


 そうか!


 このスキルはダンジョンにソロで潜るためのものなんだ。


 パーティーでモンスターを倒すより、ソロで倒した方がレベルは上がりやすい。


 だが一般的にハンターはソロでダンジョンに潜ったりしない。


 それはなぜか。


 その理由は、ソロで潜ると眠るとき見張りを立てられないからだ。


 ダンジョンの中は広く、浅い階層ならともかく少しでも下に行くと一日で攻略するのは無理だ。


 となると当然ダンジョンの中で寝なければいけなくなり、見張りが必要になる。


 だが一人だとそれができない。


 その問題を解決できるのがこのスキルってことか。


「要するにこのスキルは、効率よくダンジョンポイントを稼ぐためのものってわけだ」


 考えてみればかなり便利なスキルだな。

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