第2話
ホームルームを終えて、俺は自宅へと帰ってきた。
「……ふぅ」
ソファーに座って息を吐く。
やっぱり自分の家が一番落ち着くな。誰もいないけど。
両親は俺が小学六年生の頃に死んだ。二人ともハンターだったから、遺体も帰ってこなかった。
遺産がそれなりの額だったので、今俺はこうして生活することができている。
ただハンターとしての才能は、まったく受け継がれなかった。
両親のどちらかがハンターとして素質を持っていると、それが子供にも受け継がれる可能性が高いらしい。両方ならさらに。
俺の両親はハンターで、ジョブを持っていた。
だから俺も期待していたわけだが、結果はまったくの才能なし。13歳の誕生日にジョブを得ることはできなかった。
ジョブのない人間は、持っている人間と比べると圧倒的に不利だ。
個人の能力を表すパラメーターとして、ステータスというものがある。
ジョブのある人間はそのステータスに補正がかかり、スキルという強力な技まで身に着けることができる。
だがジョブのない人間はそういった恩恵を受けることができない。
ジョブのない人間にもハンターとして成功した者がいないわけじゃない。
だが、数が少ない上にトップ層は皆ジョブ持ち。
だから俺はハンターにならなかったし、今までに一度もダンジョンに潜ったことはなかった。
13歳の誕生日を迎えると、一応ダンジョンに入る許可はとれるんだけどな。
(ジョブなしがダンジョンに潜るのは、ハイリスクローリターンだからな)
もちろん俺と同じような境遇でも、ハンターになる人間はいる。
だがその先に待っているのは厳しい現実だ。
駆け出しハンターの稼ぎは安いし、怪我をすれば高額な治療費がかかる。ダンジョンでの怪我には保険が効かないからだ。まあこれは当たり前だな。
さらに武器や防具なんかも必要になるが、これにも金がかかる。そしてそこをケチるとまずロクなことにならない。
そんなだから、ジョブなしがハンターになっても途中で死んだり怪我をして辞めるか、割に合わずに引退するか。大多数はそうなる。
(それに対してジョブ持ちは成功が約束されてるんだよな)
ジョブ持ちはギルドからスカウトが来るし、そこで武器や防具は支給してもらえるらしい。
さらに駆け出しのうちは熟練者のパーティーで面倒を見てもらって、そこで育ててもらえる。
怪我をしても治療費はギルドが肩代わりしてくれる。
まさに至れり尽くせりというわけだ。
(俺もジョブ持ちだったら、今頃どっかのギルドでハンターやってただろうに)
だが、残念ながら俺はジョブなし。諦めるしかない。
そう。諦めるしかない。そのはずなのに……。
それもまだ、俺は踏ん切りがつかずにいた。
「俺も二次覚醒さえすればな……」
二次覚醒。
それは、13歳の誕生日より後になってジョブに目覚めることをいう。
通常ジョブに目覚めるのは13歳の誕生日となぜか決まっているのだが、稀にそうでない人間がいる。
13歳の誕生日を迎えたとき何もなかったのに、その後になって急にジョブに目覚める者がいるのだ。
といっても、人口約一億の我が国で二次覚醒を果たしたのはたった二人だけ。
単純に計算すれば、5000万分の一の確率だ。
「まあ、夢物語なのはわかってるけどな」
とはいえ、可能性がゼロにならない限りなかなか諦めがつかないのも事実だった。
「……風呂にでも入るか」
風呂に入って、気分転換でもしよう。
そう考え、俺は着替えを自分の部屋まで取りに行く。
「なんだあれ?」
自室のドアを開けた俺は、空中に青い穴のようなものが浮かんでいるのに気づいた。
「まさかダンジョンの入り口か!?」
もちろん俺はダンジョンに入ったことはない。
だからダンジョンの入り口の実物を見たことはなかった。
だがダンジョンの入り口がどういうものなのかは、写真や映像で見たことがあるので知っている。
今俺の目の前にある青い穴は、そのダンジョンの入り口にそっくりだった。
「一体、何がどうなってるんだ……」
ダンジョンという存在が初めて確認されたのは、今から30年前のこと。
最初の一つを皮切りに、いろんな国のいろんな場所で次々にダンジョンが発見されていった。
だが最初の発見から約三年が経過して以降、新しいダンジョンは一つも発見されていない。
つまり、目の前のこの穴が本当にダンジョンの入り口なら、約27年ぶりに新しいダンジョンが発見されたということになる。
「世界的な大ニュースになるな」
別に俺が凄いわけではないが、間違いなく歴史に名が残るだろう。
教科書にだって載るかもしれない。
ただまあ、俺にとってはそんなことどうでもよかった。
人によっては大喜びするかもしれないが、歴史に名が残ったってお金になるわけでもない。
それより俺が気になっているのは――。
「ダンジョンが発見された土地って、いくらになるんだっけ……」
ダンジョンの所有権は国にある。
だから個人が所有する土地にダンジョンが出現した場合、その土地は国が強制的に買い上げることになっている。
「ダンジョン、土地、値段っと――」
俺はスマホにキーワードを入力して検索をかける。
その結果、ダンジョンのある土地はどんな場合でも同じ値段で買い取られることがわかった。
その値段は――。
「10億
俺は思わず息を呑んだ。
一般人の平均年収が約500万
もっともダンジョンが生み出す利益を考えれば、10億
「……一生遊んで暮らせる額だな」
まるで宝くじに当たったみたいな話だ。
どうせなら、二次覚醒が起こって欲しかったけどな。
まあ、それを言ってもしょうがないか。今はただ、この幸運を喜ぶとしよう。
「ダンジョンを発見した場合は、どこに連絡すればいいんだっけ……」
俺はキーワードを打ち込んで、再び検索をかける。
そして連絡先の電話番号を見つけると、そこに電話をかけた。
だが――。
結果として、俺の目論見は外れた。
「で、どこにダンジョンの入り口があるんですか?」
家に来た役人に部屋を見せて返ってきた反応がこれだった。
どうやらこのダンジョンの入り口は、俺にしか見えないらしかった。
結局俺は悪戯小僧扱いされ、役人は怒って帰っていった。
「これからどうするかな……」
10億
俺の中では既に貰えるものだと思っていたから、余計ショックが大きい。
「結局、これは何なんだ? ダンジョンの入り口じゃないのか?」
特定の人間にしか見えないダンジョンの入り口なんて、聞いたことがない。
ってことは、これはダンジョンの入り口ではないということなんだろうか。
だが、だとしたらこれは一体何なんだ?
「……入ってみるか」
結局、他にできることもないしな。
このままこれを放置したところで、消えてくれるという保証もない。
それならば、思い切って中に入ってみるのも一興だろう。
(第1階層だけなら危険もないだろうし。ま、気を抜かなければの話だけど)
ダンジョンは第1階層、第2階層、第3階層と、下に降りるにつれて出現するモンスターの強さが上がっていく。
だが第1階層の敵は、大人が武器を持てばまず負けない程度のモンスターしか出ないらしい。
だから俺が行っても大丈夫なはずだ。
俺は武器を求めて家中を探し回った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます