ダンジョン生活者~恋人に捨てられ濡れ衣を着せられた少年、チートなジョブに目覚めて無双する~
f689english
第1話
「それじゃあ後ろの席の生徒は、プリントを集めてくれ」
教師の指示に従って、俺は席を立つ。そして一つ前の席から順にプリントを回収していく。
一番後ろは教師から離れてるぶん楽なんだけど、こういうのが面倒だ。
(早くしてくれないかな)
時間が来てもいまだに書き終わっていない生徒を、俺は待っていた。
俺以外にプリントを集めていた生徒は、既に提出し終えて席に戻っている。
「村上、まだか?」
急かすように教師が俺の名前を呼ぶ。
「すみません。もう少しですから」
なんで俺が謝らなくちゃいけないんだ。
そんなことを思いつつ、他の生徒が座っている中自分だけが立っているという、気まずい時間を耐え抜いた。
待っていた生徒がようやく書き終えたので、俺は急いでプリントを回収して教師に提出しようとした。
ところが。
「っ!?」
歩いているところにいきなり足を出してきた生徒がいて、俺はそれに躓いて転んでしまった。
「悪ィなあ、村上。俺図体がデカいからさ、机が狭くてしょうがねえんだわ」
足を出してきた生徒がそんなことを言う。教室からどっと笑いが起こった。
(……
長身でゴリラ顔の男子生徒で、四大ギルドの一つ――ケルベロスに所属するハンターだ。
ハンターとはダンジョンに潜って生計を立てる職業のことで、ダンジョンとはモンスターが棲む異空間のこと。
ギルドとはハンターを社員とする会社のようなもの。
俺の生まれた国――
「大丈夫か村上。立てるか?」
まるで俺を本当に心配しているかのような口調で、中道が言う。
白々しい奴だ。
わざとやったくせに……!
口から出かかった言葉を、俺は飲み込んだ。
「いや。大丈夫だ」
この場でこいつに抗議しても意味はない。
こいつは教師から特別扱いされてるし、わざとじゃないと言い張ればそれで終わりになるからだ。
怒りを抑えて俺は教師にプリントを提出する。
席に戻る途中、一人の女子生徒の姿が目に入った。
「だっさ!」
その女子生徒は他と同じように、俺を見て笑っていた。
(
俺の元カノだ。
出会ったのは中学に入ってから。今が中三の二月だから、もうそろそろ三年が経つか。
朝山はこの学校で一番可愛いと評判の女子だ。それぐらいの容姿だから、入学してすぐに有名になった。
朝山の方から告白してきて、俺たちは付き合うことになった。
だがその関係はすぐに終わった。付き合って1ヶ月で、朝山は突然別れを切り出してきた。
――あたし、好きな人ができた。だから別れて。
俺は別れたくないと彼女に頼み込んだ。
気が強くてわがままではあるが、見た目は今まで出会った中でも一、二を争うほど可愛いかった朝山。
そんな彼女に、俺はすっかり夢中になっていたからだ。
だが彼女の意思は固く、結局別れることになった。
しばらくして、朝山は中道と付き合い始めた。
なぜそんなことになったのか?
理由は簡単だ。中道が希少なジョブに目覚めたからだ。
ジョブはハンターになるには必須とも言える才能で、13歳の誕生日にそれがあるかないかわかる。
朝山と付き合ってから一週間で、俺はジョブなしとの判定を受けた。
正直、この時点で別れを切り出されるんじゃないかと思ったが、そのときは何もなかった。
だから俺は安心していた。
よかった。彼女はそんなことで人を判断するような人間じゃないんだ。
そう思った。
だがそれは俺の早とちりだった。
三週間後、中道が希少なジョブに目覚めた。それからすぐに朝山は俺に別れを切り出し、中道に乗り変えた。
そして二人の関係は、今も続いている。
(朝山、お前は俺にあんなことをしておいて何も思わないのか?)
朝山が俺から中道に乗り変えたことについては、仕方ないと思っている。
だが、そのあとにこいつらがしたことは絶対に許せなかった。
朝山が俺と別れたあと、ある噂が流れ始めた。
その噂とは、朝山が俺と別れた理由は、俺が彼女を無理矢理手籠めにしようとしたから、というものだった。
――村上くん、嫌がる朝山さんを無理矢理襲ったみたいよ。
――中学生の間はそういうことはしないって、約束してたのに破ったんだって。
――最低。そういうことしか頭にないのね。
――いくら顔が良くても、肝心の中身がケダモノじゃあね。
もちろんそんなことは絶対にありえない。真っ赤な嘘だ。
俺は無実を主張した。
だが朝山も譲らなかった。
――嘘つかないでよ! このレイプ魔! 約束を破って、無理矢理あたしを犯そうとしたくせに!
他の生徒がいる前で、彼女はそう言い放った。
最初は皆、半信半疑だったと思う。いや、信じていない人間の方が多かったかもしれない。
だがしばらくして朝山が中道と付き合い始めたことで、俺の味方はいなくなった。
俺の味方をすれば中道を敵に回すことになる。皆そう思ったのだろう。
結局、学校側が間に入って俺たちは和解した。いや、させられたというべきか。
勝ったのは朝山の方だった。
未遂だったこと、そして俺たちが当時交際関係にあったこと。それらを考慮して、口頭で厳重注意を受けた。
学校側からは、君の将来を考えて寛大な処分を下した。このことは内申書には載らないから反省して今後は生きていきなさい。
そんなふうに言われた。
納得がいかなかった俺は、警察に相談した。状況が悪化するリスクもあったが、このまま黙っているわけにはいかなかった。
だが、そこでもまともに取り合ってはもらえなかった。
俺の無実を証明する証拠は何もないこと。そして、結果的に俺は何の罰も受けていないこと。
もちろん俺の名誉は大いに傷つけられたわけだが、警察側は単なる痴情のもつれだと考えているようだった。俺が未成年だったことも影響したと思われる。
最終的に、俺は孤立した。
自分で言うのもなんだが俺は顔がいい。だから小学生の頃からずっと女子には人気があった。
だが噂が広まって以降、女子は俺に見向きもしなくなった。
男子からは筆記用具や教科書、上履きを隠されたり落書きされたりした。
暴力を受けたこともあった。だが、それに関しては犯人がすぐに特定され、処分を受けた。
そのおかげで暴力はなくなったが、陰湿な嫌がらせは止まらなかった。
「よし。これで授業は終わりだ」
全員分のプリントを確認した教師がそう宣言した。
挨拶をして、俺たちは教室から出る。
(やっと終わったか)
俺の学校は、科目の成績ごとに別れて授業を受ける。だから違うクラスの生徒とも、一緒に授業を受けることがあった。
(どうしてこんなシステムにしたんだか)
おかげで、同じクラスでもないのに中道や朝山と顔を合わせなければいけない。
週に何度かあるこの時間が、俺にとっては耐え難い苦痛だった。
だがそれも、もうすぐ終わりだ。
あと1ヶ月足らずで俺はこの学校を卒業する。
高校は県外のところを選んだ。誰も知り合いのいない学校に行きたかったからだ。
多くは望まない。平穏な高校生活を送れれば満足だ。
「あともう少しの辛抱だ」
俺は自分のクラスへと戻った。
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