第12話 夢

朝3時。


目覚めて顔を洗い、うがいをして、冷蔵庫で冷やしてある作り置きのお茶をコップ一杯飲み干して、さあ今日も、と思った所で気が付いてしまった。


そう、今日から、お役御免になったんだった。

もう一度、配達はあるけれど、引き継いだら本格的に朝やることが、無くなってしまう。


いつもなら、僕が明かりをつけ、火を入れ、材料を並べ、賄いを用意して職人さん達の出勤を待つんだけど。

そえいえば、長兄も次兄も、姉達でさえ、僕がやったような下働きはしてなかったよな?

新人の職人さん達でさえも。


今更だけど、僕だけだ。


色んな意味が、想像してしまえる。

最悪の『意味』は、僕に職人の道を諦らめさせる事。

まさかね?

でも、そうならば辻褄が合うんだよね。


二度寝する気分にもなれず、今日の予習でもしておくかと、パソコンを起動。

画面隅の、通知が点滅している。

なんだろうと開いてみると、『洋菓子屋ルーちゃん』からの通知。

時間は、つい先程。というよりは、たった今。


『おはよー』


「おはよー、はやいねー?」


『えっ、おはよー、返事もらえるとは思わなくて、ビックリ!しかも、レスポンス良すぎ?』


「早起きは三文の得と言いますから?」


『それでも、早起きすぎますよね?三文じゃ、割に合わないよね!』


「そっくりそのまま、お返しします。で、ホントのところは、どうしたのかな?」


『ん、昨日のチャットの後、「嫁」とか「結婚」とか考えてたら、逆にグッスリ眠れて早起きしちゃいました。』


何だそりゃ?まあ、僕もグッスリ眠れたけど。



※※※※※※※※※※



「おはよー」


『おはよー、はやいねー?』


えっ、何ですぐに返事が来るの?


朝3時。

何となく寝付けなくて、気がつけばこんな時間。

起動したままのタブレットを引き寄せて、何となく。


「えっ、おはよー、返事もらえるとは思わなくて、ビックリ!しかも、レスポンス良すぎ?」


自動返信じゃないよねと思いながらも、書き込み、


『早起きは三文の得と言いますから?』


え〜?それだけじゃ、ないよね!


「それでも、早起きすぎますよね?三文じゃ、割に合わないよね!」


ホント、割に合わない。


『そっくりそのまま、お返しします。で、ホントのところは、どうしたのかな?』


「ん、昨日のチャットの後、「嫁」とか「結婚」とか考えてたら、逆にグッスリ眠れて早起きしちゃいました。」


嘘吐きだね。

『和菓子屋あっくん』と一緒に小さなお店を商って、和菓子の隣にケーキを並べるのを想像したら寝られなくなっちゃったんだよね。

『嫁』とか『結婚』とか関係なく、夢でもある『自分達の店』を想像して。


そう、『夢』!

実現可能な、夢。

いつか持ちたいと思った自分の店が、誰かと協力すれば実現できるかもと思ったら。


今のままじゃ、一人でお店を持つのは難しいから。

可能性の、お話だけど。

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