第10話 急募、和菓子職人の嫁

「明慶、お前、職人になるの辞めて経営に参加しないか?」


突然の提案に、唖然とする僕。

予想出来なかったわけではない。それでも、和菓子職人は幼い頃からの夢でもあるから。


涙を堪えながら、


「……………………少し、考える時間を下さい。」


「……………………ああ、高校卒業までまだ時間があるから、それまでに決めてくれればいいから。出来れば大学までは行ってほしいからな?」


「職人として、失格ということですか?」


「いや、経営者として働いてもらったほうが、店のためになりそうだからな。実際、明慶の提案で実施した事は、全部上手く行ってるしな。」


「提案と言っても、経営者視点で見れば当たり前の事ばかりですよ?」


「その当たり前の事を変えられないのが、職人の世界だからな。お前が現場に入ってもう二年だな、一緒に現場で苦労したからこそ皆は当たり前の事として耳を傾けてくれたんだ。」


「なら、それこそ現場は大事でしょう!」


「大事だからこそ、守らないといけないんだからな。朝の準備は明日から入らなくていい。配達も明日挨拶代わりに引き継ぎ連れて回ってから終わりにしてくれ。代わりに受験勉強、頑張るように。」


「……………………決定事項、と言う事でしょうか?」


「いや、さっきも言った通り高校卒業までに決めてくれ。あくまでも私の希望だからな。受験勉強も、選択肢は多いほうが良いからだからな?

進路指導の先生と相談しておくように。

現場に入るのは放課後の店番と、新規の仕事の開拓はやってもらうから。お前が提案して、まだ実施してない事もこれから進めるぞ。閉店後の片付けも明日から入らなくていいからな。」


「……………………現場を離れるに当たって、職人さんの意見も聞いてみたいんですけど?」


「心配無い、もう話してある。全員賛成してくれたぞ。」



※※※※※※※※※※



一人寂しく夕食を摂り、明日の予習を手早く済ませてパソコンを起動して日課になっているお菓子系の掲示板を開く。

こんな気分で読み始めるのもなんだかな〜とは思わなくもないけど。

惰性で画面をスクロールしつつ、先のことを考える。

自分が職人として欠けている事。材料から仕上げまでで、致命的な欠点が改善出来なかった。味覚障害とでも言えばいいのか。同じ材料で同じ手順で、兄達とは違う『物』が出来上がってしまう。

このままでは、いつまでたっても『品質試験』に合格しないだろう。


諦めきれない。

どうすれば?

いっそこの店にこだわらずに職人目指すか?

その場合、『味覚障害』が文字通り障害になるな。

そうだ、一緒に職人してくれるパートナーを探して……………………

小さな、それこそほんの小さな和菓子店ならば。

今日の雪さんと桐山のお母様からの『結婚』の話ではないけど、一緒に目指してくれる『嫁』ならば。


『急募、和菓子職人の嫁』


初めて掲示板を立ち上げて、書き込んでみた。

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