第9話 お菓子系掲示板

泣いてしまった。

触れてしまった。

聴こえてしまった。

『視えて』しまった。


伸ばされた手は、とても小さかった。

伸ばした手は、もっと小さかった。


振り向いた『彼』が手を伸ばして、駆け寄った私の手を取る。

触れた瞬間の、暖かさと安心と、リフレインする『あっくん、ルーちゃん』の呼びかけ。


共に駆け出して、足を取られて転んでしまう私。


泣き出した私に再び伸ばされた手を取った所で、目が覚めてしまった。


中空で行き場を失って彷徨う私の手を見た母が、


「あら、目が覚めたのね?泣き疲れて寝ちゃったから放っといたのよ。」


夢か………………………………


起き上がって、周りを見渡すと薄暗くなりかけていた。


「いっけない、片付け……………………」


「今日はもういいから、上がりなさい。先に晩御飯用意したから、食べ終わったら帰っていいから。」


ホントは賄の晩御飯は、ラストまで勤務する人の分なんだけどな。

まだ目眩とふらつきが治まらないから、有り難く頂いて上がらせてもらおうか。


「ところで、あっくんとはどこまで進んだのかな?無理矢理なんかされて泣かされたとか!」


「進んでないし、泣かされてませんからっ!」


逃げるように控室を出て、厨房脇の食事処へ。

とは言っても、テーブルと椅子が有るだけなんだけど。

使い捨ての丼に親子丼。インスタントのカップ味噌汁添えて。

食べ終わっても、しばらくは動けなかった。

先程の夢の意味が、わからなかったから。


ノロノロと着替えて、帰路へつく。忙しそうな皆に申し訳なくて、挨拶もせずに出てきてしまった。


いつものように課題を終わらせてから、タブレットを起動してネット掲示板を開く。

読む専だけど、お菓子系のページを見るのが日課になっていてお気に入りページを必ず見ないと落ち着かなくなってしまっている。

こんな気分の日までとは思わなくもないけど。


何気なくスクロールしていて、ふと目にとまった新規ページのタイトルを見て思わず開いて返事を打ち込んでしまった。


『急募、和菓子職人の嫁』


「詳細希望、当方JK2」


初めての、書き込みだった。

何故反応したのかは、自分でもわからなかった。

母と雪さんから『結婚』と問われてたからかもしれないけど。何故か、返事をしなければいけないと思えた。


現実から、逃げ出したかったからなのかもしれないけど。

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