第7話 既視感

「……………………おい、どうした!なんで泣いてなんか!」


「……………………ごめん、私の『存在意義』って何だろうと思ったら、涙が止まらなくなって。」


「……………………『長く重い話し』だとは言ったが、お前はそんなに重く捉えたのか。」


「……………………ごめん?」


「いや、謝らないでほしいんだが?とにかく、帰ろうか。」


ベンチを立ち上がって促すと、


「待って!お願い一人にしないでっ?」


叫ぶ彼女に振り向くと、何故かその素振りに既視感を感じると同時に軽い頭痛を感じて足元からふらついてしまった。

倒れるほどでは無かったものの、軽く頭を振ってから右手を差し出すと彼女は左手を差し出して躊躇いもなく握ってきた。

手が触れると同時に、先程の雪さんと桐山のお母様の『あっくん、ルーちゃん』の呼びかけが頭の中でリフレインし続けた。


今のは、なんだったんだろうか?

不思議に思いながらも、決して嫌な感じではなく手を握ったままで帰路につく僕達。

ギャルは苦手だと思っていたのに。


洋菓子屋の入口で手を離そうとするも、


「嫌っ、このままでもう少しお願いっ!」


と言われてしまうと……………………


入口近くで待ち構えていたお母様と目が合ったので、


「先にお詫びします。桐山さんを泣かせてしまいました。改めてお詫びに伺いますので、彼女のフォローをお願い出来ますか?」


「あらまあ?いいのよ、そんなことくらいで。でも、『責任』は取ってね?」


ドン引きしながらも、どうしても手を離してくれない彼女を促して母にその手を預けて、深く頭を下げてから逃げるように走って店先を離れた。



※※※※※※※※※※



私の存在意義って、何なんだろうか?


「待って!お願い一人にしないでっ?」


背を向けて離れていく山田の後ろ姿を見て、反射的に叫んでしまった。


「嫌っ、このままでもう少しお願いっ!」


手を離してほしくなかった。ずっと、このままでいたかった。


「先にお詫びします。桐山さんを泣かせてしまいました……………………」


山田が何かをするたびに、話すたびに、軽い頭痛と目眩が感じられる。決して不快なものではないのだけれど。

歩けなくなるほどではないけれど。

不思議な感覚だった。


既視感とでも言うのだろうか?

足早に立ち去る山田の後ろ姿を眺めながら、先程触れた手の感触を思い出しながら、じっと左手をいつまでも見つめていた。

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