第6話 存在意義
帰り道。
洋菓子店裏の、公園ベンチ。
雪さんからの訳の分からない追求からやっとの思いで逃れて、山田が買ってくれた自販機ペットボトル茶を一口。
……………………雪さん、ボケたんじゃ、ないよね?
ほ〜っと一息ついて、質問再開。
「で、なんで委託販売考えたのかな?」
「一つは、さっき言った通り、雪さんから相談受けたから。委託販売先の口利きもしてもらったからね。」
「その口利きの内の一つがうちなのね?」
「ああ、そうだ。もう一つ理由、有ってな。ホントに聞きたいか、長く重くなるぞ?」
「聞きたい!長くなるなら、ちょっと待って。」
母さん達とのグループラインに、
『少し遅くなります。裏の公園に居ます』
と送ると、即座に姉から、
『オッケー、頑張れ応援してるぞ!』
…………………………姉さん?違うからっ!
スマホの画面を睨みつけながらため息一つ、
「おまたせ〜、続きをお願いっ!」
「まあ、俺の存在意義を求めてかな?」
「何それ?」
思わず山田の顔を覗き込んてしまった。
途端に露骨にヤな顔をして、
「ギャルは、苦手なんだ。顔を近づけないでくれると助かる。あっ、お前が嫌いとかじゃないからな!」
そっか〜、だから、普段から、私とは口数少ないんだ。
「和菓子職人目指してるんだが、上手く行かなくてな。試験に合格しないと菓子を造らせてもらえないんだ。」
………………………………私と一緒だ。
「修行中なんだが、下働きと他にも条件色々と付けられて何とかこなしてはいるんだけど、上手く行ってなくて。」
「条件って、何かな?」
「朝の準備と朝食の賄作り、最近は要領が掴めて3時間位で終わらせられるけど。放課後の店番と夜の片付けも。片付けは皆でやるから2時間位。あと成績を現状維持。」
「現状維持って……………………………」
いつ勉強してるのよっ!山田の成績で現状維持っていったら、常に全教科学年3位以内だぞ!
「で、挫折しそうになって、逃げ場をさがしてるのかなと自分では思うんだよ?」
「……………………逃げ場って、なんでそう思うのかな?」
「修行と学業に関係ないことに集中してると、辛いことを忘れられるからかな。誰かの役に立ててると思えるしね。」
……………………上手く説明できないけど、何かが違う。何だろう?
……………………ああ、私は、彼に比べれば何もしてないのと同じだからだ。
朝、普通に起きて、放課後は店のレジ打ち。空いた時間に材料費店持ちで試作して試験を受けて、結果毎回不合格。
成績で文句を言われた事なんかないっ!
「……………………おい、どうした!なんで泣いてなんか!」
何故だろう、涙が止まらない。
どうして?何で!
私の『存在意義』って、何なんだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます