第3話 何これ?

「……………………………………何これ?」


帰宅部所属の私は、店に着いてすぐにいつものように手早く着替えてレジカウンターに入ろうとして違和感に気が付いた。

ショーケースの片隅に、その隣のケースの脇にも結構なスペースを取って新たな棚が置かれて、洋菓子店には不釣り合いな物が鎮座していたから。


「おかえり〜!あっ、気がついた?」


私のケースに向けた視線に気がついた母が、


「今日から委託で置かせてもらうことになったのよ〜、試食が用意してあるから、行ってらっしゃい。もう皆は済ませたから全部あなたの分だからね!」


冷蔵ケースには水羊羹等の水菓子が、棚には大福や餅菓子等の生菓子が一つずつパッケージされて置かれていて、一見してかなり売れ行きが良いのではと思われる残り具合だった。


棚の前で固まっていた私を見た母が、


「結構売れ行き良くてね。物珍しさもあるんだろうけど、八割方売れたわね。」


「………………………………えっ、八割?」


この残り具合で、2割。


「すごい!」


思わず声に出てしまった。


「ほら、早く試食してきて。」


「は〜いっ!」


作業場の片隅に、トレーに載せられた色とりどりの和菓子が置かれていた。

贅沢にも、丸ごと一つずつ。全部で5個も!

棚に置かれていた種類全部ではないけれど、定番は全部と言っても差し支えないだろう。

さすがに水羊羹だけは大き目な一切れだったけど。


日本茶の用意は無かったので、いつものように紅茶を淹れてから大福をひと齧り。

私がイメージする大福よりも半分以下の大きさの、上品なお味の一品。

感動の、一品でした。


女子でも一口で食べ切れる大きさの、芸術品かと思える菓子達。

最後に口にした水羊羹は感動に打ち震えるほど美味しい。


ふと、お値段が気になって、POSで売上画面を見て、固まってしまった。


水羊羹一箱、2,700円!

大福他和菓子一つ、270円!

今、私がパクパク食べた分だけで、2,000円近く!

もっと、味わって、食べればよかった。


………………………………なんで、あんなに、売れ行き、良いんだろうか?


気を取り直してレジに入り、いつも通りな接客をしている間にも、ケーキと共に和菓子がサクサクと売れていく。


「こんにちわ〜、おじゃましまーす。売れ行き、確認しに来ました〜っ!」


来客が途切れたな〜と思う間もなく、何となく聞いたことのあるような声が、入口から。


白衣に紺の前掛け、両手で小箱を抱えた、どこかで見たことのあるような青年が入ってきて、


「あっ!」

「えっ?」


そこに居たのは、同じ高校の、同じクラスの、隣の席の………………………………

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