第24話 黒龍との対面―――――――予想外が過ぎた!

「先生! クリスタがルーファスに好意を持っていると言い出したのですが、どうすればいいのでしょうか?」


 エドワードの元へ戻るなり、真顔でそんな事を言い出したアレクサンダー。


(クリスタが関係すると、バカになるのは何故なのでしょう……)


 エドワードはそんな失礼な事を考えながら返事をする。


「とりあえず、黒龍と会ってからですねぇ。今は敵対しているのですから、それを理由に近づいてはいけないと説得するしか無いでしょう」


(まぁ、大人しく話を聞くような感じではありませんでしたが……)


 エドワードは、先程のクリスタの様子を見てそう思った。


「それはそうなのですが、その黒龍と会ってから話し合いをしたいと言っているのです」


(……敵対関係では無くなったら、クリスタのやりたいようにやらせてあげれば良いと思うのですが、それをシスコンな殿下には伝えにくいですね……でもここは、心を鬼にして妹離れをしてもらう方向で……って、まぁ本当の妹ではありませんが)


 色々考えた結果、エドワードはアレクサンダーに現実を伝える事にした。


「クリスタも、もう16歳ですから恋愛もするでしょう、敵対関係ではなくなったらやりたいようにやらせてあげてはどうですかねぇ?」 


「せっ先生?!?!」


 背景にガガーンっという文字が見えるような反応をするアレクサンダー。


「あまり口出しすると、クリスタに嫌われてしまいますよ〜?」


 エドワードの言葉にアレクサンダーは何にも言えず固まってしまった。嫌われるのが一番嫌だからだ。


「とりあえず先程黒龍と話はつきました。夕方には向こうへ行けそうなので、クリスタとお2人に連絡しましょうねぇ」



§★§★§★§



 というわけで、思ったよりも早く黒龍への対面が決まった。


(寝室付きの部屋へ案内されたし、一泊ぐらいするのかと思ったんだけど……)


 そんな事を思うレイモンドと、何も考えていなさそうなルーファスは、使用人に案内され白い塔へ向かった。

 たどり着いた部屋には、既にエドワードとアレクサンダーとクリスタが居た。


「あっ! ルーファスさんとレイモンドさん!」


 嬉しそうにそう言って、こちらへ来ようとするクリスタの腕をアレクサンダーが掴んだ。


「黒龍と対面が終わるまでは、こちらにいるんだ」


「えー」


 あからさまに嫌そうな顔をしながら、仕方なくアレクサンダーの隣に立つクリスタ。


「はい、ではこちらの部屋へ来てくださいねぇ」


 2人のやりとりの後、エドワードがすぐにそう言って隣の部屋へ案内する。その部屋へ入ると、床に大きな魔法陣が描いてあった。


「これは黒龍の住処へ直通する魔法陣です。はい、皆さん陣の上に乗りましたね〜。では行きますよ〜」


 そのエドワードの声と共に、視界が切り替わった……と思ったら、突然間近で声を掛けられた。


「よく来たにゃ」


(…………は?)


 レイモンドの目の前に、可愛い黒猫がチョコンと座っていた。


「えっ! 可愛い! 猫ちゃんが喋った!!」


 斜め横に居たクリスタが、その黒猫を触ろうと一歩踏み出した瞬間……


吾輩わがはいは猫ちゃんではにゃい」


 どう見ても猫な黒猫がそう言った。


「へ? 猫ちゃんではない??」


「吾輩は黒龍である」


 クリスタはその黒猫の返答に、困った顔でエドワードの方を見る。


「えーと、全部説明をすると長くなるので簡単に言いますと〜。とある人間の為に、黒龍は今は猫の身体を作って入っているのですよ〜。私が人間の身体なのと同じ原理ですねぇ」


 確かに、よく見ると黒いオーラが見え……るような見えないような? 黒猫が黒すぎるのと身体が小さすぎてオーラが分かりにくいようだ。


「人間のためではにゃい、自分で決めた事だ。それよりも、白龍からお前達が吾輩に会いたいという事は聞いたが、吾輩ににゃんの用だ?」


 やたら可愛らしい黒猫が、やたら可愛らしい言葉遣いで、偉そうにそんな事を言い出したので、エドワード以外の一同は混乱した。


 『えっ、話し方は偉そうだけど、どこからどう見ても可愛らしい猫ちゃんだよね? これが黒龍??』


 『そう言ってるし、先生も言ってたからそうなんじゃないか?』


 コソコソと2人で話すクリスタとアレクサンダー。


「聞こえてるぞ……失礼にゃ奴らだにゃ。用がにゃいにゃら……『帰れ!』」


 『帰れ』という言葉と共に、突然空気がビリビリと震えた。黒猫な黒龍が、声に魔力を乗せたのだ。龍の咆哮と似た威圧感を与えるその声に、エドワード以外の4人は驚いた。


「黒龍がそんな姿をしているからですよ〜。今の声でお分かりのように、こんな姿ですが、この猫がれっきとした黒龍ですよ〜。レイモンドさん、これでもまだ復讐をしたいと思いますか〜?」


 エドワードがレイモンドに問いかける。


「…………だ……」


 レイモンドは俯いたまま何かを呟いた。


「えっ?」


「何なんだよ! こんなのが黒龍?! 火龍を追い込んだあの時の、あの卑劣でクソみたいに強かった黒龍がこの黒猫?! 何なんだよ!! 僕がこの時代に来た意味って何なの?! こんな猫を倒すために来たの?!」


 レイモンドがキレた。


「ありえないでしょ? 何でこんなちっぽけな猫になってるの? 例えこれが黒龍だとしても、こんなのを倒しても納得できない! 復讐にも何にもならないじゃないか!」


「復讐? そにゃたは吾輩に復讐をしたいのか? それはにゃんのためだ?」


 黒龍な黒猫が冷静にレイモンドに問いかけた。


「お前が卑劣な罠で、火龍に重症を負わせたから、僕達は復讐をするために、この時代まで来たんだよ!」


「そうか……多分それは火龍の真意ではにゃいと思うのだが……まぁ今のそにゃたに言うても通じにゃいか」


「はぁ? 何言ってんの?」


 レイモンドがまたキレそうだったので、エドワードは慌てて仲裁する。


「と、とりあえずそういう事なので、復讐は意味を成さない事がわかりましたね? 一旦戻って冷静になりましょうか! 黒龍すみませんが、また後ほど!!」


 またもや間延びした話し方では無くなったエドワードは、慌てて皆を魔法陣の中へ押し込み白い塔へ戻った。






*―*―*―ちょっと独り言―*―*―*


黒龍はマッチョじゃなくて、可愛いにゃんこだった!


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