第22話 帰城―――――――――――まったりするはずがワチャワチャしとるな

「はい、では、とりあえず帰りますよ〜。ワープを使うので皆で手を繋いで下さいね〜」


 アレクサンダーが、クリスタに狼の説明をする事ができず、気まずい雰囲気になりそうだったからなのか、エドワードがそう皆に呼びかけた。


(どうやってここに来たのかと思ったけど、ワープの魔法が使えるのか……。クリスタが目覚めたからクリスタの魔力を目印にしてここへ来たんだな)


 レイモンドは、エドワードやアレクサンダーがどうやってここへ来たのか、理由が分かって少しスッキリした。


(手を繋ぐと、大人数でもワープが出来るわけか……人数制限とかはあるのかな?)


 レイモンドがワープの魔法について色々考えていたら、アレクサンダーがクリスタに話しかけていた。


「手を繋ぐ……クリスタは私と先生だな! そして、そこの2人で繋いで、その内どちらかと私が繋いでやろ……あっ!」


 アレクサンダーが言い終わる前に、クリスタはルーファスの手を素早く掴んだ。


「ん?」


「嫌……ですか?」


 ルーファスは不思議そうにクリスタを見ると、クリスタは上目遣いでルーファスに問いかけた。


(くっ! その仕草しぐさを僕に向けて欲しい!)


「別に」


「良かった!」


 ルーファスのそっけない返事にも関わらず、クリスタはとても可愛らしい笑顔で喜んだ。


(なにが『別に』じゃー!! そんな可愛い仕草独占しやがって! ルーファスのアホ! バカ! おたんこなす!! 筋肉ダルマ!! そしてクリスタ、何その笑顔! 可愛すぎるだろー!)


 レイモンドは心の中で、ルーファスを罵倒ばとうしながら、クリスタの可愛いに悶絶する。


「良くない! お兄ちゃんは許しません!」


 アレクサンダーは、キャラを崩壊させながら、ルーファスとクリスタの手を離そうとする。


(いいぞーもっとやれー)


 レイモンドは心の中で応援する。


「……アレクお兄様……」


 クリスタが、とっても低い声でアレクサンダーを呼んだ。


「なっ、クリスタ、そっ、そんな怖い声を出しても駄目だぞ! お兄ちゃんと先生と手を繫ぎなさい!」


 最早もはや王子の尊厳そんげん皆無かいむ。アレクお兄ちゃん(笑)は、強気な事を言いながらもオロオロしている。


(あー、駄目かー……まぁしょうがないね)


「はい、こっちは僕ね。白龍お願いします」


「あっ!!」


 レイモンドはどさくさに紛れて、クリスタの手を繋ぎ、反対の手でアレクサンダーの手を掴む。それを見たエドワードは、アレクサンダーの反対の手を掴み、速攻でワープをしたのだった。



§★§★§★§



 瞬きをしたような感覚で、見えてる風景が切り替わった。

 お城の庭にワープしたようだ。


(全くもう! アレクお兄様どうしてあんな意地悪をするんだろ)


 クリスタは、アレクサンダーの過保護さの意味がわかっておらず、先程のアレクサンダーの行動に対してぷりぷりと怒っていた。


(まぁいいや、とりあえず、ルーファスさんと仲良くなりたいから、レイモンドさんのお言葉に甘えて、この後部屋へ遊びにいっちゃおーっと!)


 しかし、切り替えの早いことで、ルーファスの姿を視界に捉えると、仲良くなりたい気持ちの方が大きくなり、一瞬で機嫌が直る。


「ルーファスさんとレイモンドさん! お部屋へ案内しますね!」


 2人に向かって元気よくそう話すクリスタ。


「いやクリスタ、案内するのは何処の部屋なのか知っているのか? そもそも城の客人は、私の管轄なのだから、私自らが案内する。お前は先生と大人しく待ってなさい」


 先程とは違い、王子然としたアレクサンダーがそう言った。

 流石にそんな風に言われると、クリスタも大人しく言う事を聞くしかない。


「わかりました……」


(でも、後で先生にお願いして、行ってやるもんね!)


 心の中では全然分かっていないクリスタだった。


「クリスタちょっと良いですか〜?」


 3人を見送ったエドワードがクリスタに話しかける。


「はい先生。どうしました?」


「クリスタはルーファスさんに懐いてるようですが、あちらであった事を教えてもらえますか〜?」


 懐いていると言われると、ちょっと恥ずかしいような、でも何か違うような、ムズムズした感覚を感じつつ、クリスタは話をし始めた。


「――という事がありました。けど、目覚めたばっかりだったので、何にも把握出来てません。そう言えば先生、私が襲われて攫われたと言ってましたよね?」


「えっ、魔法の矢の襲撃を受けたことを覚えていないのですか〜?」


 エドワードにそう言われて、クリスタはやっと思い出した。


「あっ! そうでした! アレクお兄様が庇ってくれて大怪我を……それで私は無我夢中で治して……」


「そして、あの方々に攫われたのですよ〜。クリスタはルーファスさんの事が好きなのですか〜?」


 エドワードは遠回しだとクリスタに伝わらないと思ったのか、単刀直入に質問をしてきた。


「えっ? すっすっすすっすすっ好き??」


 思ってもみなかった質問に、クリスタは壊れたレコードのようになった。


「おや〜? 違うのですか〜?」


「いえ、えーと、えーっ? この気持ちがそうなんでしょうか? 好き……そうか……これが好きなのかぁ……えへへ」


 クリスタは、初めての感情に照れ臭さを感じ、照れ笑いをしてしまった。


(そっかーこれが、恋の『好き』なのか。アレクお兄様とは違ってドキドキして、ずっと見ていたくて、傍にいたくなる気持ちになる『好き』……なるほど……)


 クリスタは心の中で納得していた。






*―*―*―ちょっと独り言―*―*―*


壊れたレコードのようにって言葉、若者には通じるのかな?

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