第2話 シスコンの出来上がり―――そう、シスコンです!

 そして全身を磨かれ、綺麗なドレスを着せられたクリスタはとっても、とぉぉぉっても可愛かった。

 髪は汚れていたから分かりづらかったが、洗うと綺麗な金髪で、瞳は神秘的な濃い紫色。ビスクドールのような整った顔立ちに、少し荒れてはいるものの真っ白な肌にピンクの唇。

 外で待機していた筋肉マッチョな騎士は、クリスタのその姿を見て固まってしまった。


(あれ? さっきの騎士さんどうして動かないんだろ?)


 クリスタは不思議そうに、筋肉な騎士を見つめる。


「とても可愛らしい少女ですね。バーナード様、早く殿下の元へ案内してあげてください」


 ふふっと、微笑ましいものを見るような表情で、クリスタを洗ってくれた女性の1人が、筋肉な騎士、バーナードに話しかけた。


「……っ! 承知した」


 バーナードはその女性の声で我に返り、逞しい筋肉の力で、クリスタをひょいっと抱き上げて歩き出す。


「あの……」


 クリスタは、どうしてこんなに綺麗に洗われ、素敵なドレスを着せられたのか見当もつかないので、バーナードに尋ねようとした。


「今話すと舌を噛むかもしれない。疑問があれば殿下に話せばよいだろう」


 クリスタの表情から何かを察したバーナードは、バリトンボイスで優しくそう答えた。

 クリスタは、痛いのは嫌なので素直にその言葉に従い、黙って運ばれるのだった。



§★§★§★§



 扉をノックされる音で、アレクサンダーは集中していた書類から目を離す。


「殿下、先程の少女を連れて参りました」


「わかった入れ」


 アレクサンダーの返事に執務室の扉が開く。


 そこに立っていたのは、先程の小汚い子供とは全く違う、妖精の様にあいらしい少女だった。


「……えっ、なんだこれ、可愛いな……」


 アレクサンダーは、クリスタの愛らしさに思わず表情を緩めて呟く。


 その姿を見て、幼少からアレクサンダーの側に付いていたバーナードは、意外な主の姿に驚いた様子だった。何故ならアレクサンダーは、常日頃から無表情で、微笑むことさえ少なく、その様子から『氷の王子』と呼ばれているほど冷たい人物だったからだ。


「殿下、少女に説明をされたほうが良いかと。とても不安にされております」


 しかしそこは歴戦の騎士。バーナードは驚きをすぐさま隠して、普段通りの声で話した。


「あ、あぁそうだな……えーと、お前の名は何という?」


 クリスタが居たと特定した孤児院で、名前を聞いたはずだったのに、あの時はあまり興味がなかったので、ど忘れしたアレクサンダーがクリスタに問いかける。


「わたしのなまえは、クリスタといいます。でんか? とよべばいいのでしょうか?」


 まだ幼いクリスタだが、孤児院で売り子のお手伝いをしていたので最低限の敬語は使えた。だがやはり幼いので話し方はたどたどしく、それがかえって庇護欲をかきたててくる。


 アレクサンダーは、こんなに愛らしい幼女に会ったことがなく、免疫が無かったせいで心がキュッと切なくなった。


(何だこの気持ちは? クリスタを守ってやらねばならんという気持ちで溢れそうだ)


 アレクサンダーは初めての気持ちに戸惑いながらも、クリスタの質問に返事をする。


「いや、私の事はと呼べ」


 アレクサンダーの口が勝手にそう答えていた。






*―*―*―ちょっと独り言―*―*―*


氷の王子がいきなりシスコンになってしまったー。氷の王子のくせに!

まぁクリスタがそれだけ愛らしかったということですけどね!


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