第31話  この世界の食事

 そういえばここの世界の食事について説明していなかったな。

 この体で長風呂は怖いからかなり早めに上がったのだが、お風呂から上がった頃にはもう食事はできており、この世界で言えば豪勢な料理たちが俺の前に並べられていた。


 多分一番豪華なのはこの中央にある、前世で言えばローストチキンと言えば良いのだろう。そんな感じのもの――鳥みたいな魔物の肉――が中央にあり、前世で言うところのシーザーサラダと言えば良いのだろう。そんな感じのもの――その辺で取ってきた草――が大きなお皿にあり、前世で言うところのコンソメスープと言うのだろう。そんな感じのもの――その辺の魔物の肉から取り出した出汁――が1人1人の椅子の前に並べてある。

 他にも色々あるが、これ以上考えたら食欲を無くしそうなのでやめておこう。そんな豪勢な料理たちを目の前にしてガキは喜び、満面の笑みで俺がいつも座っている椅子に腰を下ろす。


「タロク?そこはいつもルカ君が座ってる席だよ?」

「知ってる!今日は僕がこの席に座る!」

「それは……」


 ガキはいつまで立ってもガキなのだから今日くらい許してやろう。なんか知らんけどお祝いごとらしいし。


「別にいいっすよ。俺は大人なんでどこでも座りますよ」

「いやらしいわね……。あんたって子は……」


 あえて大人という部分を強調させると母さんはそんな事を言ってくる。

 事実なのだから強調してもいいだろ、という目線を向けるが苦笑している母さんに俺の意思は届くことはなく、ガキの対角に腰を下ろした母さん。


 この母さんの行動とガキの様子を見るに、どうやらガキは母さんのことを諦めたらしい。もしかしたら心の奥底で狙える日を待っているのかも知れないが、その辺は俺が見守っておけばいい話だ。

 母さんの隣に腰掛けた俺は、母さんが前世で言う『いただきます』的なことを言うのに続いて同じ言葉を言い、食事に手をつける。どうやらこの世界の食文化は、フォークとナイフ、スプーンらしい。


 どうせこれも神か転生者が伝えたんだろうな、なんて考えながら美味しい食事を頬張る。

 食材はあれだが、見た目はいいし味もめちゃくちゃ美味しいから全然行ける。


「ルカ君美味しい?」

「美味しいです」

「なら良かった〜」


 俺の食べっぷりを見たからか、まだ料理に手を付けていないリージアさんに声をかけられ、素直に答えると満足そうに笑顔を浮かべてくる。

 ついこの前この村で人が死んだのに、よくそんな笑顔を向けられるなぁ……は、この村の人全員に言えるか。もしかしてだが周りの人が死に過ぎて感覚が麻痺ってるのではなかろうな。いやまぁそれ以外に考えられないけどさ。


「そういえば、さっきの質問の続きしてもいいですか?」

「いいわよ〜」


 スープを一口飲んだリージアさんが了承してくれた後、先程俺が立てた仮説があっているかどうかを確かめる。


「魔法を使う時の杖ってなんのためにあるんですか?」

「杖は命中率を上げるためと、威力を上げるためよ」

「威力も上がるんですか?」

「上がるわよ〜」


 ほへ〜。なら杖って魔法を使うなら絶対常備しておいたほうがいいよな。本当にちっさい物でも。

 俺も常備しておくか?魔導書を買った所で杖も買っとくか?まぁ絶対命中するだろうし、無詠唱で使えば威力も上がるんだけどね。


「ちなみに、それに付け加えてさせてもらうけど、私みたいに杖がなくても威力が上げられる人はなしの方がいいわ。大きい杖ならまだしも、小さい杖は単発でしか打てないからね」

「え、そんなのがあんの?」

「私レベルになったらの話よ?」

「なら俺も出来るから杖なんて必要ないや」

「で、できるんだ……」


 そんな驚くことか?他の人ならまだしも、あの傷を治された張本人の母さんがそんな驚くことはないだろうに。てか杖によって性能が違うのか。命中率は上がるが、単発しか打てない。これは魔法を得意とする人からしたら相当デメリットなのだろうな。

 俺もデメリットだと思うし買わなくていいや。あと杖ない方がなんかカッコイイし。


「タロクもいつか、ルカ君みたいに強くなるのかな?」

「んーなるんじゃないですかね?魔力量がどれくらいあるのか知らないけど」

「魔力量は冒険者ギルドに行ったら測れるから、また今度行ってみる?タロク」

「うん行く!」


 ん?冒険者ギルドで出来るのか?ってことは、冒険者登録する時に魔力測定みたいなことをすると思うんだがな。前世のテンプレで言えばな。けど、もしかしたらこの世界では魔力測定というのは自主性なのかも知れない。


「その顔を見る感じ、なにかに疑問を抱いているようだね?」

「うん抱いてる」

「冒険者になる時に測られなかったから?」

「うん正解」


 こういう時だけ察しが良いのはやめてほしい。察しがいいならずっと察しがいい人であってほしい。これだから鈍感系主人公……ではないけど、鈍感系はあまり好きじゃないんだ。

 まぁ前世の俺はめちゃくちゃ鈍感系主人公だとか、鈍感系ヒロインだとか書いてたけどね。


「それについては多分、ルカの実力がもう分かりきってたからやらなかったのだと思うわ」

「ほへー。自分のこと最強って名乗っていい?」

「やめときなさい……。元々友達少ないのに、さらに友達が減るわよ……」

「……分かってるよ」


 冷めた視線を送ってくる母さんに不服げに言葉を返した俺はそっぽを向き、スープが入っているお椀を両手で持って口元に持っていく。

 友達がいないことを親に直接言われるのはほんっと心に来る。いないけど、友達にバカにされながら言われる方がまだマシだ。


 どこぞの冒険者が狩ってきたかもわからない魔物の出汁スープも美味しく、複雑な気持ちになりながら料理を食べ続けた。本当に5歳なのか?と思われるほどの食べっぷりに驚いていた母親たちだったが「食べざかりだよ」という言い訳をしてやけ食いをした。


 あれ?てかこれ。お祝いでもなんでもなくてただの贅沢な食事じゃね?

 そんな事を思った俺はまぁ別にいいか、と特に気にせず前世で言うところのローストチキンにかぶりついた。

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