第30話  このガキにも魔法の才能はある

 慌ててキッチンへと向かうリージアさんに「そのまま料理作ってください」と言葉を投げかけ、ガキには疑似鉛筆を作り出して渡し、俺の部屋で遊ぶように伝える。ガキなんておもちゃを渡したら勝手に遊ぶのだから楽なものだ。実際、満面の笑みを浮かべたガキは走って俺の部屋に行ったし。で、この母親はどのようにして退かせようか。


 もう言わずとも知ってると思うが俺の筋肉は全くと言っていいほど無い。毎日冒険に行くから筋肉ぐらいつくかなぁ〜なんて事を思っていた自分がいたが、乗り物に乗って移動してるんだからつくわけがない。お陰で毎日どこかしら筋肉痛になる。こんなことになるんだったら前世から筋トレしとけばよかったぜ。まぁ頭の狂ってる俺にそんな時間はなかったと思うが。


「母さんやい。寝てるのかい?」


 どこぞのおじいさんのような口調で口を開く俺は金色の髪を少し持ち上げる。今思えば、この世界にはシャンプーとかリンスとかボディーソープとか、体や頭を洗う洗剤が1つもない。けど、この世界の人は全員髪がサラッサラなのはどうしてだろうか。

 これもこの世界のなにかなのか?俺の血を輸血しなくてもいいぐらい血の再生速度が早いとか、そういう感じのやつなのか?だとしたらこの世界は様々だな。


「起きてる」

「なら退いてくれる?」

「私達の親子愛をもっと感じたいわ」

「はぁ……。リージアさん1人で料理作ってるけど」

「リージアなら大丈夫」


 はぁ……。リージアさんのことを信用していることはわかった。我が家にリージアさん1人を残していた時から分かってたけど、料理ぐらいは手伝ってやりなさいよ。残念ながら俺はこの世界の魔導具の使い方だとか調味料とか全く知らないから手伝えん。

 あ、てかこの世界にも魔導具は存在するらしいぞ。今さっき俺が付けたコンロらしき魔導具もあるし、ベッドの横にはランプらしき光を付けるやつだってある。

 これもどうせ、俺よりも先に来た転生者か、神が作ったのか、どっちかは知らないけど非常にありがたいものを残してくれて助かる。


 魔導書を読んだ限り、光を灯すみたいな魔法もあったからそれの応用だと思うが、魔導書を持っていなかった俺からしたら本当にありがたかった。1回分解してどんな作りなのか見てみようかな。

 なんてことを考える俺は、母さんから自分の体を引っこ抜こうと専念していた。


「ルカは私のこと嫌いなの?」

「別に嫌いじゃないけど、ベタベタしすぎかもね」

「可愛い息子がいたら誰でもするわよ」

「それはまぁ……するだろうけど、そろそろ離れてほしいな。お風呂入りたいし」

「確かに、ちょっと魔物臭いわね。お母さんと一緒に入る?」

「入らないよ」

「えー」


 俺の風呂に入ると言う言葉はどうやら素直に聞いてくれたようで、どれだけ泣いたのか伺えるほどに目の周りが真っ赤になっている母さんは離れてくれた。

 前世で俺が反抗期来なかった理由がなんとなーく分かってきた気がする。反抗期というのはストレスとか社会的圧力とか、外的要因でなるものなんだけど、親に対してはなんのストレスもなかったから全くイラ立つことはなかった。この母親みたいに過保護じゃなかったし。まぁ引きこもりは一種の反抗期か。度々すまんかったな前世の親。


「じゃ、風呂入ってくる」


 立ち上がってお尻を軽く叩き、お風呂場へと向かう俺はチラッと自分の部屋の様子を見てみた。本当にどこから持ってきたのかわからない石を俺の机の上に置き、先程渡した疑似鉛筆を石に向けてゴニョゴニョと詠唱をするガキ。

 魔導書なんて見ずに詠唱を唱えるこのガキは天才なのだろうな。記憶力が化け物じみている。うんやっぱりこの世界の人たちは全員記憶力がやばい。自分の記憶力に自惚れてた俺が当たり前のような存在に感じるほどに天才しかいない。


「闇夜のヴェールに包まれた時、虚空から魔力の渦が湧き出でんばかりに蠢く。我が手に宿る炎よ、狼煙を上げよ。ファイアーボール!」


 疑似鉛筆の先っちょから火の玉が現れるかと思ったが、結果は前回と同じように疑似鉛筆が爆発。ちゃんとした杖じゃないのだから爆発することぐらい予想していた&簡単に作ったやつだから別にどうでもいい、という感情を持っている俺は笑いながら自分の部屋に入る。


「タ、ロ、ク、くん。魔法が出来なくて悩んでないかい?」

「魔法が使えない……」

「今はもう爆発してないけど、さっきの杖では使えないよ」

「なんで……?」

「だって杖じゃないもん。とりあえず杖無しでやってみな?水魔法を」

「うん……!」


 めちゃくちゃ悲しそうな表情を浮かべるガキを慰めるわけもなく、立場が上の人間のように腕組みをした俺は手を広げて詠唱を唱えるガキを見守る。

 さっきみたいに炎魔法を打たれて、この家が燃えたらどうしようもないからな。俺じゃ責任取れないし、このガキなんてもっと取れないだろう。このガキは絶対炎魔法が好きなのだろうが、今回は水魔法を使ってもらうぞー。


「悠久の大海より湧き出でる水の力、深淵の奥底から響く波の調べ、我が手に集いし水の滴は、一つとなり、輝きを纏いしいかなる敵にも打ち勝つ!ウォーターボール!」


 なにか嫌なことでもあったのか、ストレスをぶちまけるように力強く言った詠唱と共にガキの手の前に水の玉が現れる。いつしか俺が放ったウォーターボールとは全く別物のような大きさで、形がしっかりと保たれ、当たれば脱臼してしまうほどの速さでガキのてから放たれた。が、石に当たることはなくそのまま壁に当たり、水が地面に湿っていく。


 どういうことだ?詠唱は前俺が唱えたのと同じ。だけど、明らかに俺が放ったモノとは威力も大きさも違う。なにがどう違う?詠唱が勝手に一定の魔力を吸い上げて勝手に魔法を作るんじゃないのか?いやでもこのガキのウォーターボールの大きさは違ったし……。


「もう!ルカ君が僕を怒らせたから外しちゃったじゃん!!」

「怒らせた?」

「うん!!僕のことを笑うから!」


 怒らせる……。そういえば、詠唱を口にする時に感情が乗っていたな。と、いうことはだ。詠唱には一応基礎設定は掘られているが、その使用者の意思によって帰ることが出来るということだ。

 だとしたら俺は出来なかったんだけど、どういうことだ……?俺は詠唱魔法に嫌われてるのか?それともあれか?シンプルに感情を乗せるのが苦手ってことか?別にそんなことはないと思うけどな。この前だってこのガキに対して怒鳴ったし。


 まぁそれは置いといて、次は命中精度だ。たった今このガキは、俺がガキのことを怒らせたから外したと言った。確信は持てないが多分、感情に乗せて魔法を打つと命中力が下がるということだ。ほほほほほほーーーーん。ひっっっっっじょうに興味深い!昔は杖がないと魔法が打てないと思っていたが、どうやら違うかったようだ!


「なぁタロクよ」

「なに!」

「いつも魔法はどうやって打ってる?」

「お母さんに杖を貰って、それを石に向けて打ってる!」

「なんで杖使うの?」

「知らない!お母さんに使った方が良いよって言われた!」


 このガキいつまで怒ってんだ、というツッコミはせず、俺は少し考え込む。あくまでも仮説だが、杖を使う理由は命中率を上げるためなんじゃないのか?あの時父さんに魔法を撃たれた時、父さんは杖を使ってなかった。でもそれは相当腕に自信があったからだ。

 それなら合点が行くぞ?あの時父さんに打たれた炎魔法が当たらなかったことにも、魔法使いらしき冒険者はみんな杖を持っていたことにも。

 こんなこと母さんとかに聞いたら早いだろ、と思われるかも知れないが、自分で予想したり見つけたりするのが楽しいのだよ。


「ルカ君?」

「どした」

「いきなり黙っちゃったから……」

「あーね」

「あー、ね?」

「あーなるほどね」


 この略し方は流石に通じるだろうと思った俺が浅はかだった。そうだよな。あーね、って言葉をこの世界の人が使ってるところなんて見たことないよな。うん、すまん俺のミスだ。これに関してはガキは悪くない。

 どこぞのガキとは違い、素直に自分が悪いと認めた俺は今の今まで忘れていたお風呂場へと向かう前に、ガキに一応忠告だけしとく。


「炎魔法以外なら好きにやっていいと思うけど、一応リージアさんとかが居る部屋で魔法の練習しなねー」

「分かってる!」

「うっす」


 まだ怒ってんのかよ、という言葉は口の中で噛み砕いて自分の部屋を後にする。

 ここでも便利な魔導具を使い、40度くらいの湯を出しながら俺は、母さんに臭いと言われて少し傷ついた心を流すように桶でお湯を被った。

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