第21話 秘密を明かす
「母さん起きてるー?」
一応起きている前提で意気揚々に言葉を口にしながら母さんの部屋に入る。体を拭かず、髪も洗わず、魔物と戦った姿のままロープも何も縛り付けられていない母さんとご対面した。その瞬間、ベッドから飛び起きた母さんはまだ歩きにくいのかヨボヨボになりながら、
「どこ行ってた……泥が……血をちゃんと……治癒魔法は使わな……ありが……」
言いたいことがありすぎたのか?もしかしてこのヨボヨボの足使いも、俺の姿を見て多少のパニックを起こした結果なったものなのか?いやぁ感動だね〜。周りから悪魔だの化け物など散々言われているゴミカスのガキだけど、その母親はこんなにも息子思いだなんてねぇ〜。
「とりあえず、ただいま母さん。そして生きててよかったよ」
母さんを落ち着かせるように、ヨボヨボの母さんを受け止めるように大きく腕を広げた俺に、母さんは父さんに見せていた涙とはまた別の涙を零しながら抱きついてきた。あったけーなこの家族。前世でこの家族の温かみをしれていたらどれだけ小説の家族パートを書くのが楽だったのだろうか。まぁ書けてたから別にいいんだけど、真の温かみは前世でも知りたかったな。
「おかえり……ルカ。助けてくれて、ありがとう……」
「どういたしまして」
ガキの口調など父さんと戦ったときからはやめ、前世の中学時代まともに話していた頃の言葉を思い出しながら言葉を返す。正直マジで自分の話し方がわからん。どこぞの主人公みたいに悪役的っぽい喋り方をするのもいいけどそれだと嫌われそうだし、かと言って優しすぎる主人公の喋り方を真似するのは舐められそうだ。うーん。会話ってほんと難しいな。
「言葉……子供ではないね……」
「まぁ中身は子供ではないからね」
「……そっか」
少し前に正体を明かしていいと言ったが、こんなにも都合のいい明かし方はあるだろうか。実力を見せて、喋り方を変えて、母親を救って、そして実の親から見破られる。開示するのに持って来いな状況過ぎて仕組まれてるみたいだな。まぁなんでもいいんだけどね。
「体はもう大丈夫?」
「うん……」
「ならよかった。それで俺の中身について聞かなくていいの?」
「聞いてもいいなら……聞きたい」
自分の息子の中身が子供じゃないってことを知って、誰なのかも聞かず生活していくのは不完全燃焼な気持ちに苛まれて嫌だろう。母さんのことだからいつしか聞くとは思うが、今教えて損はないから言ってやろう。俺は――
「ただの狂った作家さんだね」
「狂った……作家?」
「この世界に作家という言葉があるか走らないけど、すっごい数の物語を作ってすっごい数の世界を生み出した狂った作家さんだよ」
「作家という言葉はある……けど、どうして作家さんが治癒魔法を使えるの……?」
「圧倒的知識量のおかげかな?人体の仕組みについて全て理解してたら出来るよ。あと魔力があったらね」
「そうなんだ……」
どうやら母さんは作家さんのことを甘く見ているらしい。が、まぁそれもそうか。この世界ではただの作家があれだけすごい魔法を使うとも考えにくいしな。というか多分、母さんはこの世界の人間が私の息子に憑依したと思ってる。あまり視界に入れてなかったけど、リージアさんもそう思っているようだし少し説明しよう。
「ちなみに俺はこの世界の人間ではなく、また別の異世界から転生した人間だよ。だから知識量はこの世界の人とは圧倒的な差があると思う」
「別の……世界?」
「そう、別の世界。技術がとても発展しててすっごい世界から来たんだよ」
「転生って……?」
「生まれ変わって、新しい肉体に霊が乗り移って新しい人生を歩むことだね」
「なら……ルカとあなたは別人なの……?」
あーそれは少し哲学にはいるのか?確かに俺は生まれた瞬間からこの体を動かしているわけじゃない。だとしたら今まではルカという本当のこの体の持ち主が動かしていたということになるな。でも生まれた瞬間の意識なんて誰も持っていないだろうし、もしかしたらその瞬間も俺が動かしていたのかも知れない。その考えで言ったらこの体は俺だし、ルカでもある。ということはルカも前世も俺も――
「同一人物だね。俺はルカ、前世の記憶があるただの元作家さんだよ」
「そっか……ならよかった……」
うんうん、これまで育ててきた子がちゃんと自分の息子だって分かったら安心するよな。いつの間にか涙も止まっているみたいだし良かったよ。今の今の哲学っぽいやつも面白かったしこれで一件落着だな。
そう思った瞬間だった。突然服を力強く握られ、どことなく離さないぞという意志を感じる。
「ほんと、私の息子で良かった。ルカ」
「えーっと、母さん?」
俺、なにか母さんを怒らせるようなことしたっけ?たった今慰めたので全て帳消しになったと思ったんだけど、まさかまだ恨んでるのか?もしかして息子だということを確信したからこそ怒ってるのか?だとしたら俺の選択肢ミスったな。
不思議と母さんの体が暑くなるのを感じながら、嫌な汗をかく俺。先程までの余裕な言葉なんてどこへ行ったのやら、完全に怖じけついた俺は自分を落ち着かせるように1つため息をついた。
「母さんが怒るのもわかるよ?勝手に冒険者登録をして、母さんの行動を全部読んだのだから。今ロープを括り付けられていないのも母さんがゴネた結果、リージアさんが解いてあげたんでしょ?うん、怒る理由はわかるよ?でもね、子供に対して怒るのは良くない思うな」
「私はルカみたいに頭が良くないの。だからね、私の行動を全部見破られたらイラッと来ちゃうの。それも私の息子に。そして戦ってほしくないから冒険者ギルドに物申したのに勝手になっちゃって、それも私よりも強くて、技術も上。やっと帰ってきたと思ったら母親を心配させるような格好をして、血も付けたまま、泥も付けたままで。ルカはお母さんのことを舐めすぎよ。もっとお母さんのことを分かってほしいの。だからこれから数年は毎日一緒に寝てもらいます。夜外にも出てほしくないし」
長い話の後に一緒に寝る宣言マジ……?普通に嫌なのだが。夜もめちゃくちゃ魔物と戦いたいし、盗賊とも戦いたい。あ、そういえば盗賊で思い出したけど父さんの仲間たちは全員逃がしてあげたよ。まだ何もしてなかったからね。
それで話を戻すけど、もう5歳なんだから一緒に寝る必要なんてないはずだ。それに、
「一応中身は大人だよ?一緒に寝るのはダメなんじゃない?」
「今は5歳だから一緒に寝てもらいます」
「5歳でも1人で寝れるんじゃない?」
「ダメです。お母さんの言うことは絶対」
なんて理不尽な母親なのだろう。ポジティブに言えば息子思いの良い親だが、俺はネガティブに捉えさせてもらうぞ。ちゃんと息子の意見も尊重しろー!そだそだー!どこかで現れたような気がするめんどくさがる系主人公たちが俺の後ろで手を上げているのがわかる。
「リージアさんも、俺は1人で寝るべきだと思いますよね」
ふん、リージアさんは母さんをベッドまで運び終わったあと色々話して俺への信頼度がバク上がりしているんだ。当然リージアさんは俺の味方に――
「まだ5歳なんだしサーシャと寝てあげたら?私はまだタロクと一緒に寝てるよ?」
「ほらね?ってことだから今日から私と寝てもらいます」
嘘でしょ?俺の信頼度より母さんの信頼度のほうが上だというのか?これが長年の親友というやつか?これが信頼関係というやつか?けっ、母さんはほんと友達を持ったな!
恨むような目を母さんに向けた俺は勝ち目がないということを悟り「わかった」と渋々頷くのだった。当然隙を見て夜は抜け出すがな。
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