第20話  酷いものだ

 一方その頃ルカはというと――

「オークか?まじでアニメで見る見た目してんな」


 緑色の魔物――多分名前はオークとにらめっこをする俺は少し寒気を感じながら地面に手をついた。よくよく考えてみれば、土一粒一粒に魔力を込める時間も勿体ない……というか、そんな時間があるなら多分相手に首を切られている事に気がついた。ということで俺は今、もっと簡潔的にできないか?ということで模索中だ。

 なんか母さんが冒険者ギルドになんか口出ししてたようだけど、ごめんな母さん。俺はもう立派な冒険者だよ――あと受付嬢さん、薬草取りが嫌だからって魔物討伐を勝手に依頼してごめんね。

 心の中だけで謝る俺は左右と後ろの足元から縦横共に1mぐらいの岩の柱を出現させてオークの方……ではなく、後方の柱は地面にぶち当て、左右の柱は木よりも高い場所へと伸ばす。

 俺が行動したと同時にオークもこっちに走り出し、でかい斧を大きく振り翳す。その瞬間、地面にぶち当てた岩の柱はオークの足元に出現し、あっという間に上空へと連れて行ってしまう。


「そう。俺が考えたのは、地面の中でも想像力を保ち、かつ地中内にある柱の位置をちゃんと理解していたら昨日みたいなこと出来るんじゃね?攻撃だ。実際今うまく行ってるし、他の魔法でも使えそうだな」


 上空500mほどの高さまでオークを連れて行った途端それまでオークを乗せていた柱を分解し、空中に居て何も行動ができないオークを潰すように2本の柱で挟む。これまた驚いたことにオークの血は紫色で、まじでアニメで見る魔物過ぎてびっくりだ。


「うん、成功だ。重力で上昇中は何も行動できなくて、足場をなくして空中にいることによって更に行動できない。うん、最強だなこの技は。まぁ早すぎる相手だとか重力に打ち勝つほどの筋力があるやつには少し使いにくい技だけど、それでも使えるっしょ。毎回上空の上げる必要もないしな」


 かれこれ5時間ぐらい魔物と戦っていたからかいつの間に顔には泥がついており、それを服で擦り取ろうとするが、逆効果だったらしく伸びてしまう。そして上空から降ってきた紫色の魔物の血が顔や髪につき、非常に不衛生な状態になってしまった。

 けどまぁ、前世は家のどこもかしこにゴミが散らかっていて、部屋には自分の血が固まるほど放置してあったのだからこれぐらい気にならん。ゴミ屋敷出身の男を舐めるんじゃないぞ。

 どこに自慢しているのか分からないがとりあえず胸を張った俺は空から降ってくるオークの皮を少し切り取ってポケットに入れる。一応冒険者である以上、仕事はこなさないといけないし俺も金がほしい。だからこうして皮を剥いでいるわけだ。だが、どうやら剥ぎ過ぎたようでポケットにもう入らん。


「1回帰るか?いやでもまたここまで来るのめんどくさいしなぁ。かと言って入れる場所もないし……いやまぁバッグでも作ればいいんだけどさ?俺の今の脳は完全に戦闘モードだからそんなチマチマしたものはしたくない。……帰るか。母さんも起きてだろうし」


 葛藤の末、帰ることを決めた俺は昨夜作った移動用魔力をもう一度作ってその上に乗る。てか、今さらっと母さんが起きてるだろうしって言ったけど、確信はまったくない。まず筋肉がちゃんと合っているのかもわからないし、血液型が違うかったらもってのほか。数日後にはポックリ逝ってしまうだろう。ここはもう賭けだな。死んだら死んだで素人が人を治すというのは無理だってことを再度確認できたというポジティブな考えをしよう。


 うんうん、と何度か頷いた俺はそのまま寄り道……は魔物が現れたときだけして、それ以外は見向きもせず冒険者ギルドへと帰る。一応言っておくと、魔物以外の事というのは俺が悪魔呼ばわりされていることだな。まぁそりゃ5歳児が単独で母さんがやられるほどのやつをぶっ倒したんだからそんな風にも呼ばれるよな。前世は何人もの人格の人間を書いてきたからお前らの気持ちもよーく分かるぞー?でもな、俺の立場になって考えてみろ?ヒーローが悪魔呼ばわりされているんだぜ?ちょっとシュンってしちまうよな〜。


 なんてことを軽く考えながら俺はポケットから50枚ほどの色んな魔物の皮を受付にポンッとおいた。そういえばだが、ギルドというのは前世のコンビニと一緒らしく年から年中無休で開いているらしいぞ?だから母さんを治した後すぐに冒険者登録できたんだけどね。


「おいおいあの悪魔。この短時間でもうあんな倒したのかよ」

「さすが悪魔だな。俺らとは格がちげーや」


 ギルドの端の方で杖を持った魔法使いらしき男と剣を持つ剣士らしき男がコソコソと、それも俺に聞こえるように言ってくる。

 おーい。もう一度言うけどこちとらこの村の英雄様だぞ〜?そんな態度とってもいいのかな〜?プッチンしちゃうよ〜?


 こんなことなど口で言えばいいだろって言われるかも知れないが、こういうのは触れたら負けなんだよ。裏では死ぬほど触れるけど、決して表では触れないぞ。俺の経験談がそう言ってるんだから触れそうになってるやつを見つけたら無視するように言うんだ。


「えーっと、これは全てお一人で?」

「そうですよー」

「この数時間で……?」

「ですねー」

「……もしよければですが、Sランク冒険者になりませんか?」


 唐突だな。でも、俺がSランクか。まぁ母さんが勝てなかった相手に俺が勝てたんだからそれぐらいの実力はあるのだろうし、受付嬢さんが推薦しようとしてるんだから俺は強いのだろう。


 ここでよく主人公が躊躇して『いやいやいや!僕がそんな!Sランクだなんて……実力不足ですよ!』とか抜かすのだろう。だが俺はそんなことはしない。まぁスローライフ物語だったらSランクになる必要はないと思うけど、ただの冒険者がならない意味がわからない。だってどう考えてもメリットしかなくねーか?色んな依頼に行けて、色んな人から頼られて、威厳が出る。ならないメリットが無かろう。

 てか受付嬢さんやい。いつまでその量の皮を見てちょっと引いてるんだい?


「なりまーす。なんか試験とかあるんですか?」


 軽い口調で言うと、チラチラと目の前の皮に視線を下ろしながらも説明をしてくれる受付嬢さん。ちょっと長かったからまとめると、試験は一応あるらしいけど推薦をすれば別に受ける必要はないということらしい。あと受けるつもりはないけど試験の内容を聞いてみると、剣術、魔術、体術の試験があるんだとさ。そのうちの2つ以上をクリアしないとダメなんだとさ。これを聞けばなぜ受けないのか、言葉にしなくてもわかるよな?


「試験は受けないという形でいいのですね?」

「はい受けません」

「かしこまりました」


 即答で言葉を返した俺は受付嬢さんに冒険者カードを見せろと言われたのでポケットから取り出し、魔物の皮の隣にスッと置く。すると、また長々と説明をされたのでまとめると、Sランク登録は冒険者があまり来ない今夜にやっとくから明日また来いとのことだ。ついでに魔物を倒した報酬も明日払うってさ。他の異世界はもっとパパパッとやってたぞ!この世界のギルドは効率が悪いな!!なんて文句は世界によって違うのだからそりゃそうか、ということで口にすることなく、未だに周りからは悪魔と言われ続けているがそんなことも無視して俺はギルドを後にした。

 これ、息子大好きな母さんが聞いたら相当怒るだろうなぁ〜。だとか、父さんと戦わなかった腰抜け冒険者がなんかほざいてるなぁ〜。なんてことを考えながら疲れ切ったせいで重くなった足を数十分かけて持ち上げ続け、やっと家の前へと到着した。


「目の前の出来事だけを見て、人を判断するのはどこの世界の人間も変わらんのだなぁ〜」


 そんなことを呟いて扉を開き、母さんがいるであろう部屋へと向かう。もし今も起きてなかったら栄養点滴も打たないといけないな。正直言ってめちゃくちゃめんどくさいが、母さんのためだというポジティブな思考で行けば大丈夫だろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る