第15話  私の息子は自分勝手

 家の外は明るく、どこからか悲鳴らしき声も聞こえてくる。まだ夢でも見ているのだろうか。もう朝だというのに、こんなにも眠い。小さくうねりながら私はまだ重い瞼を開けてぼーっと外を眺めた。

 まだ夢を見ているのだろうか。ずっと女性の叫び声が聞こえてくるし、空は暗いのに地面は明るい。目を擦ってもう一度確認してみるが、やっぱり景色は変わらない。とりあえず外に出てみようかな。なんてことを思った私は手で髪を梳きながら重たい足を持ち上げて玄関の前に行く。その瞬間ドアが勢いよく叩かれて――


「――助けて!!助けてサーシャ!」


 聞き馴染みのある声、だけどいつもよりも慌てているような、声が大きいような。とりあえず扉を開けて話でも聞こうかと思い扉を開くと、そこには一面炎に包まれた家たちと消火活動を行う冒険者たち。そして胸に抱きついてきたリージアの後ろには火傷を負ったタロクくんの姿。まだ夢でも見ているのだろうか。でも胸に抱きついてくる感覚はあるし……。


「サーシャ!いつまでぼーっとしてるの!タロクのことを治して!!」


 そう言われたリージアに勢いよく胸を叩かれて意識がはっきりした私はもう一度タロクくんに視線を下ろした。これって夢じゃなかったんだ。今思えば確かに熱風が肌に当たって熱い。


「分かった」


 1つだけ返事した私は2人を部屋に入れ、タロクくんの火傷の箇所に右手をそっと当てる。火傷の箇所は左腕だけだからまだ良かった。完全に意識を取り戻した私は冒険者の時に人を治していたように詠唱する。


「なんじに宿りし傷を癒やし、衰弱した命を再生せん。無限の生命の泉を開き、疲れた魂に蘇りの光を与えよ。ヒーリング」


 切り傷や火傷、炎症などを抑えるための魔法。命に関わる症状を患った者には効果はないものの、タロクくんのように少しの火傷なら私にも治せる。タロクくんを治し終わった私は急いで立ち上がり、ルカが寝る部屋へと走っていく。リージアはタロクくんの火傷が治って安心したようで泣かなかったタロクくんを抱きしめて褒めている。


「ルカ!大丈夫!?」


 扉を開いてそう叫ぶが寝息の1つも帰ってこない。よく見てみると布団も膨らんでいないし靴もない。まさかとは思って慌てて布団をめくるがルカの姿は1つも見当たらない。


「あの子、まさか私が寝ているうちに外に出たの!?」


 あの時私に問いかけてきたルカの言葉を思い出して合点が行った私は玄関へと向かう。こんな事件が起こっている時になんで外に行ってるのよあの子は!


「サーシャ?どこ行くの?」


 扉を引こうとした私にリージアが尋ねてきたが、少しのイラ立ちが湧いている私は強い言葉で「ルカを探してくる!」と言って勢いよく扉を閉めた。周りに燃え広がる家たちに無詠唱で大量の水をかけて消火させ、ブツブツと呪文を唱えて「エリア・ヒール」と火傷者の傷を癒やす魔法を村全域に打った。そして「帰ったらお仕置き帰ったらお仕置き帰ったらお仕置き……」と、またしてもブツブツと呟きながら村を歩く。

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