第14話 よっわ。もっと言ったはざっこ
魔力に乗った俺はそんなことを考えるがどうやら自作した乗り物は大成功したようで、約数分にして村から500メートルもの距離を離れることができた。直線の時はロケットのように一瞬で移動したいけど、生憎この乗り物にはブレーキ機能というものが搭載されていないからそんなスピードは出せない。ということで本当に風船から吹き出す推力のような勢いでちょっとずつ進んだ。そして「そろそろいいかな?」なんてことを呟いた俺は乗り物から降りて周りを見渡す。昨日までとは違って俺はもうこんなにも移動できるんだぞということを誰かに自慢するように胸を張ってみると、遠くから多数の声と光が近づいてくることに気がついた。
まさか、もう俺のことに気がついたのか?いやでも村から真逆の方向だしな……。
「今なんかガキの声しなかったか?」
「まじ?そんな声してなくね?」
「当たってたら次の飯奢れよ?」
「外れてたらどうすんだ?」
「俺が奢ってやるよ」
「よし乗った」
二人の男がそんな会話をして、聞こえたと言った方の男がこちらに近づいてくる。一応集団行動をしているみたいだけど、なにかの旅か何かか?でも子供をガキ呼ばわりしてるってことは碌なやつじゃないだろ。俺含めて言うけど。サササーっと茂みに隠れた俺は体のでかい男や顔を隠している男が戦闘を歩くのを見たあと、こちらに近づいてくる男に目を向ける。そして俺と数メートルの距離になったところで俺はその男に声をかけることにした。
「ねね、おじさんたちって冒険者なの?」
「――うおっ、びっくりした」
冒険者なら子供一人で驚くなよと言おうと思ったが一応俺は子供という設定で今は動いている。現に今かけた言葉はガキっぽかっただろ?いやまて、子供であろうと覆面をかぶってたら誰でも驚くか。こんな森の中の暗闇で目出し帽を被った子供?怖すぎるな。
「冒険者なの?」
今更自分の姿に気がついたところで引く訳にはいかない俺は更に言葉をかけて男の答えを待っていたのだが、
「おい!まじで子供いたぞ!!覆面被ってるけどよ!」
というデカい声で俺は全て察しがついた。母さんがあの時言っていた夜は盗賊が出るよ?って言葉と子供のことをガキ呼ばわり。そして団体行動。この人たち絶対悪い人たちじゃん。察しのいい男で良かった。これだけ察しがよかったらさぞかし女子にモテるだろう。将来有望だな俺は。まるで現実から目を背けるように別のことを考えだした俺はそ~っと後退りをして――
「――おいガキ、逃げようとするんじゃねーよ」
図太い声を放たれた後俺の首根っこを捕まえてきた男は他の人達がいる方へと持ち帰ってしまう。こんなの誰だってビビるだろ!俺が強かったら別にビビんないぞ!?でも自分の実力もまだわかってないのにそれは無理だろ!体力が全くないって知ってもうメンタルズタボロなんだから逃げさせてくれ!というか魔物はどこにいるんだよ!!!
怖さで声が出ない俺はジタバタと足を振り回して降ろさせようとするが当然俺の力量でどうこうできるわけもなく、赤髪のボスらしき男の前で投げ下ろされてしまった。
「なんだ?このガキ」
「さっきそこで見つけたんっすよ。そこの村の子供だと思ったんすけど」
「なるほどな。で、お前の村の名前は何だ?」
俺と目線を合わせるためにしゃがんだ赤髪の男は笑いなどなく真顔でそう問いかけてくる。が、名前なんて覚えてねぇーよ!ついこの前覚える必要ないだろ、って思ったところなのに!こんなすぐに聞かれるとは思わないじゃんか!
「え……っと、分かりません。けど、そこの村です」
肩を震わせながらも今来た道の先にある村を指さして伝えると、赤髪の男は「ほーん。じゃあこいつ、殺してもいいぞ?」とあっさり決めつけて俺をここまで連れてきた男に命令した。なんて日だ!俺はただ散歩のつもりできただけだ!願わくば魔物と戦いたかったけど……けど!ただ純粋に森に遊びに来た子供だぞ!そんな純粋な子供を!将来有望な子供をすぐに殺してしまっていいのか!
なんてことを目で訴えようと試みたが、どうやらそれが睨みに見えたようで効果は逆効果。剣を取り出した男は「生意気なガキだな」という言葉を最後に俺を切ろうとしたが、最後の悪あがきのつもりでてから小さな岩を作り出して剣を持つ男のデコに飛ばしてみた。その結果、思ったよりも岩の威力が強かったようで男は脳振盪を起こして気絶してしまった。そしてそれを見た俺は1つ、思ったことがあった。
「よっわ」
たかが岩の1つで気絶だって?それも子供相手に?流石に弱すぎないか?俺はまだ煽るように鼻を鳴らして立ち上がり、お尻についた砂埃を叩いてなにか言いたげな赤髪の男の方を向いた。
「ガキ、今何をした?」
「魔法で岩を作ったの〜」
「……そしてなんと言った?」
「よっわ。もっと言うならざっこだね」
完全に自分に自信がついた俺は胸を張って負けじと煽りの言葉をかけ続けた。その結果、相当イラついたのか赤髪の男は大声で、
「このガキを跡形もなく刻んでやれ!!」
と全員に命令した。所々から「まじ?そんなガキ置いときなよ」という女の声や「雑魚1人俺がやってやんよ」というフラグを立てる男の声が聞こえてくる。が、赤髪の男は「全員でだ!」という言葉をもう一度声を張って言う。流石にボスが2度も言ったことを拒否する気にはなれなかったのか、ダルそうな感じで近づいてくる1人の女のデコに向けて、もう一度岩を飛ばしてみた。すると「ふにゃ…!という間抜けな声を上げた女はその場に倒れて気絶してしまう。うん、弱いな。確かに俺が飛ばした岩の速度は大体100km/h以上のスピードだったかも知れないが、別に避けられないほどではないだろ。俺ですら目視できるんだぞ?まぁ身体能力がいいからってのもあるけどさ。
「これで分かったな!3度も言わせるな!やれ!!」
どうやら今ので周りの人も理解したようで目つきが変わってしまった。約30名ほどいる軍勢を俺1人で行けるだろうか?いやいけるな。あの岩の粒で1人ダウンだろ?一旦楽勝か。
全員が武器を抜いたことを見終えた俺は地面に手を付き、俺の足元に横100m高さ50mの土の壁を生成した。どのゲームでも高台にいれば有利だ。それこそ今の俺の状況みたいに敵が全員近距離武器で、1人1人打ち下ろしたいという場面なら最強だ。両手下に向けた俺はいくつもの岩を頭の中で想像して、1秒経った瞬間に両手から発射する。これでは単純作業がすぎるな。なんか花を咲かせてみたい。というのは流石に舐め過ぎか。もっと色々試してからやるべきか。
「……それって、今じゃね?」
その事に気がついた俺は1回発射をやめてまだ残る人たちを見下ろす。今の攻撃でだいたい半分は削れたかな。武器が戦斧の人だったり、剣の技術がすごくて向かってくる岩を弾いたという猛者ばかりが残っている。ちょっと、やってみるか。
右手を勢いよく横に伸ばし、その先に幾多もの岩を生成する。なぜ魔法は宙に浮いているのかとか、色々調べたいことはあるが今はこのかっこよさで十分だ。手の先にある岩を見た後それを振り下ろし、先程よりも更に速度を上げて盗賊たちに落とし続ける。
すると、殺気まで防げていた戦斧には穴が空いたり、剣の刃が毀れて折れてしまう始末。
「俺は、俺はここで倒れる訳にはいかない!」
特に気にしていなかったが赤髪の男がそう叫んだ後何やら変な言葉を口にして、これまた驚いたことに魔法を打ってきた。てっきりタロクが杖を使いたいと言っていたから魔法を使うには杖が必要なのかと思ったけど、全然そんなことはなさそうだ。これも調べがいがあるな。
だが、赤髪の男の魔法は俺に当たることはなく「当てるの下手か?」という言葉を零して赤髪の男を集中狙いしようとするが、
「あれ、いなくね?」
不思議に思って村の方を振り返ってみると、そこにはガンダッシュしている赤髪の男の姿。子供にボコボコにされて非常に見窄らしい後ろ姿だが、頭いいなあいつ。勝てない相手を避けるタイプの人間は一番生き残れるって前世の作家人生で知ったからな。人間としてはどうかと思われるが、生きるという観点だけで見れば褒め称えるべき能力だと思うぞ?俺は。
なんてことを気軽に思った俺は未だに残る雑魚たちに目を向け直した。この後に起こる悲劇なんて想像することもせずに。
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