第13話  前世の知識は本当に使える

 腹時計にして12時30分。というか、なぜ腹時計で時間を測っているのかわからない。この世界には時計というものは存在しないのか?まさか日時計で時間を計算しているわけではなかろうな?少なくとも我が家には時計はないからもしかしたらそれもあり得るかも知れないけどな。まぁそんなことはどうだっていい。また母さんに聞けばいい話だ。とりあえず俺は起床して、今は音を立てることなく部屋を出ようとしている時だ。


「差し足、抜き足、忍び足っと」


 小声で子供の頃に聞いた言葉をとりあえず並べて玄関の前に到着した俺はゆっくりと扉を開いて外の世界へと解き放たれた。もちろん目出し帽をつけてだ。この一部始終だけを見れば空き巣を終えた犯罪者にしか見えないが、俺が悪いことをするのはこれからだ。ただ怪しいからと言って捕まえるんじゃないぞ。

 まずこの世界に空き巣なんていう言葉が存在するのか?とも思ったがそれ以上に背徳感が俺の体を包んで少し感心していた。


「どの年になっても親に止められたことをするのは背徳感が湧くもんなんだな。成人を超えたこの精神でも子供心はまだ忘れなくていいんだな」


 ガキは嫌いだけどこの新鮮な感覚は嫌いではない。新鮮な感覚を手にいれたということはそれ即ち小説にも活かせるというわけだ。まぁこれは前世の俺ならばの話だけどさ。


「さて気を取り直して山に行こう。夜と言ったら魔物がいっぱい出るイメージがあるからな」


 それに、あのガキに引っ張られて1つ閃いたことがあるんだよ。俺の圧倒的に少ない体力を補う方法をね。えーまず母さんに引きずられている時に作る、板状の魔力を具現化させます。そして次に適当に作った魔力のタイヤをくっつけます。そしてそして最後に両手を後ろに掲げて推力を発生させる!至って簡単なことだ。でもここで勘のいい人は1つ疑問に思うだろう。『推力』って目に見えないじゃん!ってね。うんその通りでなにも見えない。ちなみに推力について簡単に説明すると、パンパンに膨らんだゴム風船の口から吹き出す風のことだ。他に例を挙げると『ロケットに搭載されているエンジンから出る排気ガスを進行方向と逆に噴射する』とかがわかり易い例かな。


 話を戻すが、そこで俺は考えたんだ。この自分の腕をゴム風船の空気がたまる部分だと見立て、手のひらをゴム風船の口と見立てたら行けるんじゃね?ってさ。まぁ今はわかりやすくゴム風船で例えたけど、当然ゴム風船だけの威力では到底人を運ぶ事はできないのでこの手をロケットとして見立てよう。さすれば一瞬で移動することができる!!が、まぁ当然俺の体はエンジンではないから排気ガスを生み出すことは出来ないしそもそも環境にも悪いからしたくないし、誰かが空気を送ってくれるわけでもない。ということで少し考えてみたが、やっぱりあの方法しかない。


 自分の魔力と想像力で空気を生み出し、それを進行方向と逆に噴射する方法だ。まぁここはゴム風船から吹き出す空気と考えたほうが分かりやすいな。正直前にも言ったが、元素を組み合わせるのはめちゃくちゃめんどくさい。が、簡単に移動するには致し方がないことだ。こんな事でめんどくさいめんどくさい言ってたら何も出来なくなる。ということで、排気ガスと同じ二酸化炭素を組み合わせることなく酸素だけを組み合わせるわけでもなく、ちゃんとその辺の空気と同じで窒素78%酸素21%アルゴン、二酸化炭素1%の割合の空気を組んでから生み出す。


 なんで風魔法を使わないの〜?って前世の読者から言われそうだから一応説明しとくと、あんなの想像で生み出せる品物ではないぞ?砂嵐とかをイメージしたら行けそうだけど?って言われるかもしれないがそれもやった。やってみた結果、ただ砂が回るだけのお遊び道具になった。その後も色々試した結果、しっかり風のことを理解していないと風魔法が使えないことが判明した。風というのは気圧の高いところから低いところに移動した際に起こるものだからそれも想像して〜みたいなことをしないといけないんだ。それだったら推力を使う方がマシだろ?

 まぁそれは無詠唱魔法だからそういう考えをするのであって、詠唱をすれば普通に風魔法が使えるのだそうだ。実際に母さんがドライヤー紛いのことをしている時に聞いた。それを簡単にやり遂げるこの世界の人……というか、詠唱を作った人は普通にすごい。この工程を全部簡略化されてるんだぜ?尊敬しかない。これを作ったのは転生する前に会った神なのかも知れないけど、一度会って頭の中を見てみたいもんだね。

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