第9話 ここは異世界だ
遠くから「おかあさーん!」という泣きながら叫ぶクソガキの声が聞こえてくるが、そんなのを無視して俺は地面に落ちた本を持ち上げる。
「おっも」
見るからに分厚いから重たいとは思っていたものの、想像をはるかに上回るほどに重かった。多分2キロぐらいあるんじゃないか?随時持ち上げるというのは無理なのでベッドの上に置き、ペラペラとページをめくっていく。
そういえばさっきあのガキ詠唱してたな。まぁどうせ魔法の想像の手助けをするための詠唱だろう。前世で授かったラノベの知識やら実際書いてみた作家としてはそう断定づけるのが当然だ。
そしてその知識で行くと、俺が無詠唱で魔法を出したら『わー凄い!ルカ君って無詠唱で魔法打てるの!?』だとか『無詠唱で魔法を打てる人って逸材って聞いてるよ!?』だとか、非常に気持ちがいい言葉が飛び交うんだろうな。うん、無詠唱で魔法を打てることを自慢しよう。俺も主人公みたいに気分良くなりたい。けど、俺は大人だ。あのクソガキみたいに変なところで魔法を打たないし、ちゃんと出力のことも色々試してから自慢するぞ。これで調子に乗って最大出力にして村を破壊させた―だとかそういう結末は迎えたくない。母さんにも迷惑かけるし、なんと言っても俺の将来にも関わる。今後の人生で村潰しのルカだとか、人に恐れられるのはごめんだ。そういうのは前世で懲り懲りってもんさ。
「えーっと、さっきあのクソガキが言ってたのは一番最初のページの……『闇夜のヴェールに包まれた時、虚空から魔力の渦が湧き出でんばかりに蠢く。我が手に宿る炎よ、狼煙を上げよ。ファイアーボール』ふむ、無駄にかっこいいな。これ見たら俺も詠唱したくなる。なんかかっこいい。男のロマンを擽ってくるいい詠唱だ。ファイアーボールというのは在り来りすぎてあんまり好きじゃないけど」
まぁこんなことに文句を言ってても意味はないしいいか。時には在り来りなのもいいよな。昔の人が頭を悩ませてファイアーボールって名付けたんだろう。ファイアーって英語だからこの世界にも英語が喋れるやつがいるんだろう。昔に日本人か外国の人が来て名付けたのかもしれないしな。非常に興味深い。
「ルカ!?大丈夫!?」
おっと……そういえばあのクソガキが泣きながら部屋を出て行ったんだったな。お母様が寝癖つけて大慌てで扉を開いてきたわ。あのガキ母さんになんて言ったんだ?まさか取り浸かれたなんて言ってなかろうな。
「大丈夫だよ。どうしたの?そんなに慌てて」
「タロク君が取り浸かれたって言うから慌てて……」
「なら大丈夫だよ。なににも撮り浸かれてないし、いつも通りの俺のままだよ」
マジであのガキ俺が取り浸かれたって言ったのかよ。いやまぁ予測は出来ていたとはいえ、やっぱガキは嫌いだ。俺の大切な物を笑って壊したりすぐに泣いたり、あることないこと口走ったり。
「本当に?ちょっと目見せて?」
「いいよ」
取り浸かれたら目の確認をするってどういうことだ?アニメみたいに眼の光が変わるわけでもないし眼球の色が変わるわけでもなかろうに。もしかしてあれか?診察の時に医師が目を見るからその真似か?一応言っておくとあれは貧血状態を見るためのものだぞ。多分今の俺は超健康人間だから貧血どころか充血もしてないと思うぞ。
「うん……うん、うんうん。大丈夫そうね」
「何を基準にして見てたの?」
何度も頷いて異常がないと判断した母さんは俺の瞼から手を放して腰を上げる。当然なぜ目を見たのか知りたい俺は母さんになれない上目遣いをして問いかける。が、母さんから返ってきた答えは予想を上回ることだった。
「人が何かに取り浸かれたね、目の色が変わったり目の焦点が合わなくなったりするの。一応それでみんな判断してるんだけど、取り浸かれた人間が素直に触らせてくれるとも思わないしあまり現実的じゃないと思うんだけどね~」
「ふーん、そうなんだー」
軽い返事を返した俺は本を読みながら母さんの言われたことについても考えてみる。目の焦点はまぁまだわかる。けど目の色が変わるってそんなアニメみたいなこと起こるか?目ってことは眼球ってことで当てるよな?結膜の色まで変わってたら流石に人間って思われないだろうし。いやでも眼球の色も変わるってのもおかしな話だけどな?遺伝だとかメラニンの量によって色が変わるぐらいしかないぞ?眼球が変わるだなんて。
まぁでもここは異世界か。ファイアーボールも使えて物も生み出せて、そんな世界で眼球の色が変わるのが1つや2つ起こったとしても別におかしくないよな。うんうん前世ならおかしかったけど今世は違うな。魔法が使える時点で前世と比例させるだけ無駄だよな。うんうん。
1人で納得した俺は頷き、本のページをさらにめくる。
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