第4話 こういう状況ならおねショタは実現するらしい
翌日。俺はいつものように、森で魔物が現れるのを木の影で待っていた。
魔物の体には興味ないのだが、自分の魔法がどれだけ通用するのかは気になるので、毎日欠かさず森に入って魔物を待っているのだ。
「ルカくーん!」
木の影で水の魔法を出す練習をしていると、遠くから昨日さんざんいじめてきたクソマセガキの声がどこからか聞こえてくる。
どうやら今日のお迎えは母さんではなく――
「来ちゃダメって言ってるでしょー!」
……どうやら、母さんも一緒に来てるらしい。んだマセガキ。今日は母さんと森デートでもしに来たのか?初めてのデートにしては立地が悪すぎるな!男ならもっと綺麗な景色が見えるところとか楽しい所に連れて行ってやれよ!まぁマセガキには無理か!はっ!
結局昨日の擬似鉛筆は折られてしまい、その八つ当たりのように俺は心の中だけでマセガキに罵詈雑言の嵐をぶつける。陰キャで悪かったな!いや、俺が陰キャで助かったな!マセガキ!!
「ルカ君ー!」
「はい」
「うわっ!後ろにいたの!?」
まだ恨みが晴れない俺は驚かせてやろうと突然後ろから現れてみたのだが、どうやら成功したみたいだ。
マセガキの隣にいた母さんが驚き……マセガキは突然俺が現れたことが相当怖かったのか、あり得ないほどの跳躍を見せて母さんの胸に顔を埋めていた。
「おいゴラマセガキゴラ」
「え?」
「ん-ん。なんでもないよ母さん」
あぶね。危うく母さんにも聞こえるように言うところだった。てかこのマセガキ何してんだよ昨日からよう!
なんだ?幼稚園の頃によくある『僕大人になったら先生と結婚する!』をこじらせたのか?それともわざと母さんの胸に飛び込んで大きくなった乳を堪能してるのか?それだったら殺す。俺の魔法でギトギトにしてやる。
「そう?タロク君びっくりしちゃったよね。大丈夫だから顔を上げてごらん?」
「本当に……?」
「本当に大丈夫よ〜びっくりしちゃったよね。お家まで抱っこしてあげるからね~」
「うん……ありがとう」
頭を優しく撫でる母さんは、もう一度胸に顔を埋めるマセガキには何も思っていないようで無反応。
マセガキの涙目を見れば本当に怖かったらしいが、いつまで顔埋めとんねんゴラクソマセガキゴラ!!よし今決めた。今すぐ俺の魔法でギトギトにしてや――
「――ルカも行くよ?わざとじゃなかったのかもしれないけど、タロク君をびっくりさせちゃった罰としてお風呂洗ってもらうからね」
「なんで……!?」
「なんでって、罰よ罰。それに剣10本分しか村から離れていないのにへばってるんじゃ将来が不安なのよ」
「…………はい」
「それと、魔物はこんな近くにはいないからね?冒険者さんたちが全部狩ってくれているのだから」
「………………はい」
そんなことわかってるよ……!俺に体力があればもっと奥に入ってたよ!!
俺とは違い、母さんは筋肉があるようで、マセガキを抱えているのにも関わらず俺の首根っこを掴んで引きずり始める。
もし今、マセガキの方を見てニヤニヤと笑みを浮かべてたらその顔面に炎をぶち込んでやるからな。
そう思いながら見上げるが、どうやらマセガキは俺のことなど気にしていないようで、母さんの胸のことで頭でいっぱいらしい。うん、ぶち殺してやろうかこのクソマセガキ。
なんてことを思ったつかの間、村に入ってしまった俺にそんなことをできるわけもなく、悶々とした気持ちだけが胸に残り続ける。
「タロクどうしたの!?」
と、昨日同様に、なぜか我が家に1人お留守番するリージアさんが、母さんの胸に顔を埋めるマセガキに駆け寄ってくる。
少し冷静になって考えてみたんだが、これっておねショタじゃね?1児の母にしては美人過ぎるからお姉さんと言わざる負えない母さん。そしてどう見てもクソガキのタロク。おねショタなんて存在するのか?と思いながらおねショタのラブコメを書いていた前世だったけど、一方が無自覚なら結構簡単に起こるんだな。
「ルカが驚かしちゃってね」
「そんなことで泣いてるの?タロク」
コクコクと小さく母さんの胸で頷いたマセガキは顔を上げることなく母さんの胸に抱き付いたまま。リージアさんはまだこのマセガキが母さんのことを好きだということに気が付いていないのか、小さくため息を吐いてマセガキに向かって手を伸ばす。
「ほら、サーシャじゃなくて私が抱っこしてあげるから」
「……いやだ」
「今、なんて……?」
「いやだ」
「…………いやだ?タロク。いつからそんなにわがままな子になったの?」
「お母さんには関係ない……」
親子喧嘩するなら他所でやってくれー。聞く側の母さんと俺の気まずさを考えろー。
そーだそーだ、と俺の後者で前世書いた、
めんどくさがる系主人公が手を挙げているのが分かる。
てかこのクソガキ反抗期も早いし思春期も早いな。あれって10歳ぐらいからじゃなかったっけか?俺が調べた時はそうだったけど、最近の若者はもう違うのか。
「まぁまぁまぁまぁ2人とも。喧嘩するのはいいけれど、私の前でするのはやめてくれるかな?」
母さんの表情は笑っているが口元は笑っておらず、どことなく圧を感じる言葉。そんな言葉に胸に顔を埋めていたマセガキは勢いよく顔を上げて母さんを見て、先ほど俺が驚かしたよりもさらに目に涙を浮かべる。
そしてリージアさんも「あっ……」と気まずそうに言葉を漏らしてごめんなさいという謝罪を口にする。
やっぱりガキ共はあまり好きじゃないな。こういう時に素直に謝れる大人の方が話が分かってくれる。
まぁ、子供なんだから大人みたいにすぐに謝罪するってのは難しいだろ、って指摘されたらそれはそうだとしか言いようがないんけどね。
あ、てかさっきの後者の出てきた主人公たちで気が付いたと思うけど、俺は相当なめんどくさがり屋だ。このことだけは事前に伝えておく。誰に対して伝えてるのか分からないが、絶対に必要なことだ。
「タロク君もそろそろ降りてくれるかな?お姉さんはルカを叱らないといけないの」
「ふっ」
「なに笑ってんのよルカ」
「気のせいだよー」
相変わらず首根っこを掴まれている俺は魔力で作った板状のモノにお尻をつけて言う。
一児の母がお姉さんと言うのは流石に違うんじゃないか?って意味でつい鼻で笑ってしまったけど、今の母さんを刺激したらさらに怒りが悪化しそうだからやめておこう。
「ふーん。とりあえず、タロク君は降りてくれるかなー?また抱っこしてあげるから」
母さんの圧なのか、それともまた抱っこしてあげるという誘惑に負けたのか、すぐに頭を縦に振ったマセガキは――今はもう違うか。クソガキはスルスルっと――母さんから降りていく。
さっきのあり得ないジャンプだとか母さんからの降り方だとか、あとはエロガキのこととかを見ると、エロ猿としか思えなくなるな。
別に顔は猿ではないんだけど、行動が猿そのもの過ぎて、思い込みで顔が猿に見えてしまいそうだよ。
てか残念だったな!クソガキ!
未だに恨みは残っているので、捨て台詞のように心の中だけで叫んだ情緒不安定な俺は、母に引き摺られながら自分の部屋へと連れていかれる。
お尻に木の棘とかが刺さることを考慮して引き摺ってほしいよな。魔力を具現化できてなかったら今頃俺のお尻が凄いことになってたぞ。
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