第3話  何故か友達にさせられたクソマセガキ

「ルカ君?また外に行ってたの?」


 木材で建てられた1階建ての一軒家に着くと、母さんの親友――リージア・クラーラが家の中にいた。

 親友だから信用しているんだろうけど、家に親友一人だけ残すというのは少し不用心ではないかい?母さんやい。


「そうなのよ。リージアからもなにか言ってあげて?」

「そうね。毎日欠かさず外に出ていたら、いつか魔物に襲われるかもしれないしね」


 扉の前で引き摺られた状態で座っている俺に、目線を合わせるために屈んだリージアさんは続けて言葉を口にする。


「こーら。村から出たらダメってサーシャに言われてるでしょ?お母さんの言うことは聞かなくちゃダメよ?」

「はーい」


 表面だけでは素直に返事を返すが、内心は聞くわけないだろバーカというクソガキムーブをかましていた。


 リージアさんと母さんの出会いは、父さんを亡くして絶望していた母さんを助けたとかんとか言っていた気がする。髪色は赤で、本当に染めてないのか?と言うぐらい……はこの世界全員に当てはまるか。まぁそのぐらい綺麗な髪ってことだ。あと顔も可愛い。というかこの世界の人間ほぼ全員顔が良い。


「良いお返事ね。お姉さん感心しちゃうわ」

「……リージア?そうやって甘やかすからルカが外出るのをやめないんでしょ?」

「だって可愛いんだもん~」

「それは……そうだけど」


 これいいな。ニヤけてしまうな。前世では全くと言っていいほどモテなかったから、こんなに美しい女性に可愛いって言われるのは嬉しいな。

 可愛い系男子は全員こんなうれしい思いをしてたんだな?いい資料が……って、書く気力ねーわ。いい資料だと思うのは好奇心だからすぐそういう思考になってしまう。


 書く気力を神に取られてなかったら絶対今世でも無限に小説書いてただろうな。

 なんてことを考えていると、ひょいっと俺の部屋から男の子――リージアさんの子供のタロクが顔だけを出してきた。


「ねねルカ君」

「どしたの?ガ――タロク君」


 危うくガキと言いそうになった口を塞ぎ、再度笑顔を向けて答える。


「あーそーぼー」

「えーやだ」


 一瞬考えるそぶりを見せた後、俺は即答で断る。正直子供は嫌いだ。ガキと言ってしまいそうになるほどに嫌いだ。うるさいし、騒がしいし、やかましいし……まぁとにかくうるさいから嫌いだ。


「毎日それじゃん!あーそーぼー!!」

「むーり」


 一応5歳だから子供っぽい喋り方をする俺だが、この喋り方も正直嫌いだ。理由としてはなんか頭が悪そうだからだ。

 てか毎日って言ってるけど毎日誘われている記憶はねーぞ。虚言を吐くなクソガキ。


「ルカ?遊んでやりなさい?」

「なんでよー俺は1人が楽しいのに」

「どうせルカには友達の1人もいないんでしょ?雨の時はいつも家に引きこもって、晴れたら村の外に出て、お母さん悲しいわよ?たった1人の息子に友達の1人も出来なかったら」


 思わずウッと頭の中の俺が心臓を抑えるのが分かる。だってその言葉、前世の俺にも刺さるんだもん。

 今世みたいにまだ外に出てたならいいぞ?でも、前世は外に出るどころか誰とも会話をしないようにDIYで部屋に鍵を作って、稼いだお金で防音シートを買ってたほどの引きこもりだったんだ。それで母さんと父さんに何度文句を言われたことか。

 今冷静になったから思うよ。ほんとごめんな元母さんと父さん。


「友達はこの石があるから大丈夫!」


 いつの間にかポケットに入っていた石を取り出し、母さんに見せつけるように言うが、


「石は話せないの。ちゃんと遊んでくれて話せるお友達を探してちょうだい」


 前世で言う、パソコンは友達!という感じで言ってみたのだが、まぁそんな反応になるよな。前世でもそんな感じの反応をされたし。


「えー」と文句ありげに言った俺はずっと頬を膨らませるガキ……ではなく、タロクの方を見た。


「ルカ君が遊んでくれないならこれ壊すからね!」

「これ?壊す?」


 なにを言ってるのかさっぱりな俺は首を傾げていたが、ガキが体全体を露にした時、ガキの左手に握る、細くて長い物を見た瞬間思わず声を上げてしまう。


「それ擬似鉛筆じゃんか!!何触ってんだ!」


 壊すというより折るだろ!というツッコミなんてする暇もなく、俺はガキの方へと向かう。が、べーと舌を出したクソガキは擬似鉛筆である鉛筆の芯を胸に抑えながら逃げ始める。


 あの擬似鉛筆は俺が頑張って作ったやつなんだぞ!まだ存在するモノなら何でも作れるって知らなかった時に作った大切なモノなんだぞ!

 てか加工が思ったよりも難しくて捨てられなかったやつだ!見つからないように隠していたはずなのに……あのクソガキが!!!!!


「お友達が居てよかったわぁ~」

「あんな黒い棒で追いかけっこするなんて、子供らしくていいわね~」


 この様子を見て仲いいと思うか!俺の様子を見たら、あの棒は大事な物だって思うだろ!

 なんだ?この世界には鉛筆というものはないのか?それとも貴様らには人の心がないのか!


「待てってタロク!それを返してくれ!!」

「取れるもんなら取ってみな〜雑魚雑魚のルカ君〜」


 んだこのクソガキ!俺の大切な物と知った途端いきなり態度変えやがって!!てか人の心がない母親共助けろ!

 部屋の前で膝に手をついて俺は立ち止まり、そういう意味を込めて母さんたちに睨みを飛ばしてみるが、


「あ、そういえば最近また胸が大きくなったのよね」

「また?サーシャの胸はどこまでも大きくなるね」

「重くて重くて……何か支えるものはないのかな?」


 なに女子トーク始めてんだ!重いならブラぐらい付けたらいいだろ!

 もしかしてあれか?この世界にはブラというものが存在しないのか?それともただ自慢したいだけか!


 自分の胸を見せるように胸元を開けて谷間を露にした母さんは「ほら」となにも気にしていないようにリージアさんに見せる。

 本当に自慢したいだけなんじゃ……?なんて呆れた眼差しに変えた俺は相変わらず逃げ回るタロクに目を向けた。

 

 そして捕まえようと走り出すが、タロクの目線は俺でも擬似鉛筆でもなく、母さんに向いていた。


 おいゴラクソガキゴラ。なに人の母さんに色を使った目を向けとんねんゴラ。どこのマセガキじゃゴラおいゴラマセガキ。走りながら人の母親の谷間見て興奮してんとちゃうぞゴラクソガキゴラ。


 なんてことは陰キャの俺には口にすることはできず、ただ目をかっぴらいてクソマセガキを睨みつけながら追いかける。


 てかこの体は体力が壊滅的なんだ。それを分かったうえで逃げてんとちゃうぞゴラクソガキゴラ。前世の俺が運動してなかったのも悪いが、人の母親に興奮しながら逃げるクソマセガキに負ける人の気持ちも考えろゴラ!

 というかいつまで見とんじゃゴルァマセガキゴラrrrrrr――

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