第2話

 誰だろう。

 こんな夜中に連絡なんかしないでよ。

 寝ぼけまなこをこすりながら、しばしばとしたその乾燥した目で、スマートフォンを操作する。

 「マジでなんだよ。」

 夫と結婚してから、特に友人と連絡を取ることは無かった。私みたいなぼんやりとした女が、やっぱり陽介と結婚することを快く思わない人たちがいて、確かになあ、と私ですら納得していた。

 何か、変って思うけれど、私はいつもそれに疑問をさしはさまず、呑み込んでた。

 「ゆかりちゃんだ!…何で?」

 まさか、連絡が来るとは思わなかった。

 だって彼女はすでに、私達の中で一番早く結婚していた大学時代の友人だった。いつも連れ合う仲間の中で、彼女は誰よりもギャルで、誰よりもしっかりしていて、良い子だった。

 けれど、それからしばらくして誰とも連絡を取らず、大学は卒業する前に辞めざるおえなかったのだ。

 「…久しぶり。本当に久しぶりだね。」

 私は、テンションが上がっていた。

 ゆかりちゃんと話せることがうれしかった。

 なぜ私に連絡を取ったのか、文面からは全く読み取れなかったけれど、ざっくりと”会いたい、会えない?”というような趣旨の文が書かれていることだけは分かった。

 きっと陽介も、このことを話せば笑ってくれるはず、あいつもゆかりちゃんのことは気に入っていたように思う、よければ、一緒に会いに行こうか。

 そんなことを頭の中に浮かべて、私は真っ暗な部屋の中で高揚していた。


 「は?ゆかり?」

 その名前を口にした途端、明らかに不機嫌な顔を浮かべていた。なぜ?別に、いいじゃん。

 「え、覚えてるでしょ?大学の時、私達とよく一緒にいた子、なんか久しぶりに会いたいって、私も会いたいし、陽介もどうかなあって。それだけだよ?」

 「俺はいい。マジで勘弁して。」

 「はあ?」

 ちょっと理解できなかった。陽介って友達付き合いには敏感で、こういう誘いには必ず乗るのに、まさか。

 「何、陽介ってゆかりちゃんとなんかあった?」

 そう言うと、

 「無いよ、だってさ、あの人子供いるんだろ?大学の時に妊娠して、そのまま辞めたじゃないか。話すことも浮かばねえし、女だけであった方がいいんじゃないの?」

 「…うん。」

 思ったより、陽介の反応が悪かったので嫌な気持ちになったけれど、でも女二人きりであった方が楽しいかもしれない。

 私は子供が好きだった。

 だから、もしかしたらゆかりちゃんの子供を見れるかもしれない。

 多分、彼女は苦労してきたのだろう、ということは容易に想像がつく。

 だから、私のような、あまり付き合いが深かったとは言えない女を選んで、誘ってくれたのかもしれない。

 そんなことを、考えていた。


 「…あ、ゆかりちゃん。」

 「孝子。久しぶり。」

 相変わらず利発そうな物言いで、しかしギャルではなくなっていた。

 真っ黒な髪に、化粧っ気のない顔、ちょっと、違和感を感じてしまった。

 でも、「久しぶり。相変わらずゆかりちゃんはしっかりしてるね。」と言ったら、少し困った顔を浮かべながら、笑っていた。

 「カフェ調べてきたの、そこでいい。」

 「うん、ありがとう。」

 そして案の定、

 「君名前は?」

 「飛羽ひゆうって、言います。」

 「ふふ、ごめんね。預けるところなくて、子供連れてきちゃった。」

 「いいよ、もしかしたら会えるかなあと思ってて、ゆかりちゃんに似てるね、しっかりしてて、飛羽君、よろしくね。」

 「…はい。」

 うわあ、なんか結婚してから鬱屈としてたけれど、そうか、友達を作ればよかったんだ。

 私は久々に明るい気持ちで、彼女たちとともに歩いた。

 

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