法の家.2
「――おい、おまえっ」
声がかけられるのが先か、その子が相手の気配に反応するのが先か…――
くるりとふり返ったのは、
肩から背中にかけて、そのままにおりている不ぞろいな頭髪はボサボサで、緑とも青ともつかないくすんだ発色を見せている。
大きく見ひらかれた瞳は、赤っぽい茶色……
闇人のそれに似通う印象を受けないこともないが、少なくとも
それと目をこらして
きらきらと、深くも浅くも
「
声をかけたのは、
たちあがりがちな短髪は明るい金色で、肌はこんがりと日に焼けている。
その彼が、園内の小道を
「どう
警戒心を働かせたその子が一歩
それ以上、距離を縮めることなく、意思の
「ここは《
「しずめ……」
(お…。男の子だな)
その子の口からこぼれたのは、
男が発した言葉の部分的な復唱にすぎないつぶやきで、問い返しとも独白的な
いくらか
手入れが充分とはいえない頭髪が胸までおりていて、遠目には見わけ
背丈が伸びるのも
「《法の家》は?」
「そうとも言うな。この家の呼び名は少なくない」
「《
「そうだが」
「ここ、ここにヴェルダ、いる?」
「ヴェルダ?」
「いる?」
「私は知らないが……」
「いないの?」
「
「そいつがオレを? 呼んでいるのか?」
「そうだ」
「どこ、行けばいい?」
「案内する。ついて来い」
「ん」
危ぶむ気配をほの見せつつ、いそいそと近づいてきた少年を
「おまえみたいなのを見ると、風呂にほうりこんで、その頭、なんとかして、
🌐🌐🌐
ぱっちりとひらかれた青と灰色と、黄の
そのなかにある漆黒の瞳孔がとらえがちなのは、通された部屋の壁際で、こちらを見るともなく立っているひとりの少年だ。
人間であれば、十二、三歳の外見。
そのくらいの年格好の同性を見かけると、つい、目で追いかけてしまう彼だったが、自分と同じくらいの年代だ。
なんとなく気になりはしても探している人物は、自分より二、三歳上。
十四か、十五か十六になっているだろうから、それではありえない――そう見当づける。
それに、あれは……
闇人だ。
そこにいるのがあきらかなのに、存在感が皆無といっていいほどに薄い。
自身の身に
そこにあるのに、まったくといっていいほどで、呼吸すらしてない印象をうける。
どんなに気配を消すのが得意だろうと生きた人間には決して
そう認識すると、
(ほんとにいっしょに暮らしてるんだな……)
そう思っただけである。
いま彼は、再三
重厚そうなテーブルを
「つまり君は、人を探しに来たんだね?」
「うん」
「しかし、君より
「オレは、ヴェルダと呼んでいた。髪は……。……たぶん、金か明るい茶か、もしかしたら赤毛……。たしか……、陽色にも見える明るい色なのに、なんでか、ちょっと深い色が入っている感じなんだ。それでいつも顔の下半分を布で隠してた」
「ふむ…。…その響きは記憶にないし、
「ない。でも普段は隠してた」
「そうか。
「知ってるから、会えばわかる」
その少年は
事情を聞く側としては、それと
なぜ、そんなふうに探りをいれたのかを言えば――
心までは読めぬまでも、その少年のしぐさに、いま口にした内容を自問自答しているような迷い、落ちつきのなさが見えていたからだ。
そんな状態で「会えば
まだ子供である。べつに子供でなくても、話す能力・考え方の癖、進度や体質はそれぞれなので、あいまいな部分は別としても。
いい加減に対応していれば
「――ともあれ」
求めるものをちゃんと把握しているか否かは、つまるところ、その子自身の問題だ。
「そう
「そうする!」
そこで、ここの家長だという男は、両の手のひらで自身の左右の
言われなくても同行するつもりらしい少年を視界に、油断大敵の代名詞のように言われる
「では、少しまわってみるとしよう」
「君は、なかなか興味深い気をしている」
「……キ?」
「気配……存在の様式、命としての威力だ。
霊力が高ければその容量も
同時に存在もしうるのに、必ずしも
青磁色の髪の少年――セレグレーシュは、つらつらとくり出される言葉をそのままに聞いている。
「――どちらも心身の成長にあわせて、
「シンリョク……」
「うむ。
一般に言われる人外の超常能力――《念力》《思念力》と反応が似ているようでも、本質的には異なるもので、そのへんにある物質――
どの方向にどう伸びるかは個人の資質、本人の努力次第だが、武術においても重要だろう」
「……ときどき聞くけど、それ、きたえると強くなるのか?」
「そうだ。君のは、ほどほどに見えながら
手なずけ顔の組織の代表と、青磁色の髪の少年が部屋から出ていく。
その場にいたもうひとりの人物――
金茶色の髪をした
その足は、十五歩ほどの距離を
対象の姿が死角に
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